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第二十一話 ダンジョンへ行こう

 よく晴れた昼下がり。


 セクンドゥムの中央広場で、数名の男たちがとある作業を行なっていた。


 街を支配していた魔族、ヴィントの石像を撤去する作業だ。


 昨日、俺がヴィントを倒した後は、当初の予定通りに事が進んだ。


 待機していたイングリット隊、リベルタスからの応援部隊により、街に残っていた魔王軍は一掃された。

 そうして、セクンドゥムの街には平和が戻ったのである。


 石像の撤去作業を眺めながら、俺は大きなあくびを一つ。


「あー……退屈だ」


 俺は今、イングさんから待機を言い渡されていた。自由時間だ。


 リーゼもレオナも、なんやかんや忙しそうだし。


 俺はというと、特にやることがない。

 かといって、惰眠を貪る気分でもないしなぁ。

 昼飯はさっき食べたばかりだし。


 うーん、どうしよう。


 とりあえず、適当に街の中でも見て回ろうかな。


 そう決めた俺は、座っていたベンチから腰を上げた。



 中央広場を離れた俺は、セクンドゥムの商店街まで来てみた。


 なにか買い物でもしてみようと思ったのだ。


 そう。なにを隠そう俺は今、無一文ではない。

 イングさん……というか『オリエンス騎士団』に協力した報酬という形で、いくらかの金をもらったのだ。


 商店街は、たくさんの人が行き交っている。

 賑やかな通りには、色んな店が並んでいた。


「うーん……」


 歩きながら、あちこちの店先を眺める。


 ……困った。


 なんとなく来てみたものの、欲しい物がパッと思いつかない。


 ふと、防具専門店の前で足を止める。


 店に並ぶ、立派な鎧や兜、盾などの商品たち。


 格好いいけど……俺には必要ないよなぁ。


 防具をつけなくても、異常な防御力があるし。


 それでもまぁ、ダメージ受けるときは受けちゃうんだけど……


 そんな攻撃――チートな防御力を上回ってくるような攻撃――に、普通の防具が役に立つのか疑問だしなぁ。


 それにどうせなら、イングさんみたいな特別な装備が欲しい。


 精霊から授かった~とか、伝説の~とか、そういう感じの。


 まぁ、しばらくは今の服装……変装に使った動きやすい服でいいや。なんか気に入っちゃったし。


「あら、シロウじゃない」


 背後から名前を呼ばれた。


 振り返ると、そこにはレオナが立っていた。

 銀色の軽鎧――騎士団の装備を身につけ、腰には剣を帯びている。


「……はぁ」


「なによ。なんで人の顔を見るなり溜息つくのよ、失礼ね」


「いや、なんか……面白味がねーなぁって」


「は? 面白味?」


「なんで普通に声かけちゃうかなー」


 なにがよ、とレオナは首を傾げる。


「せっかく背後から声かけるならさ、こう両手で俺の目を隠して『だーれだ』とかやってくれよ」


「なんであたしがそんなことしなきゃいけないのよ!?」


 薄っすらと頬を紅潮させながら、レオナが抗議の声を上げる。


 うーん、今日も元気だなぁ。


「どうしてあたしがっ、あんたなんかに……その、そんな……あれよ」


 どれだよ。


「こ、こ、ここ、恋人同士みたいな、やり取りをしなくちゃいけないのよ……」


「いや、別に冗談だから軽く流してくれたらいいんだけど」


 そんなに意識しなくても。


「なっ――あ、あっそう!」


 レオナは腕を組んで「ふん!」と、そっぽを向く。


 いきなり機嫌が悪そうになったけど……

 なんなんだ、いったい。


「はぁ……で、あんたこんなとこでなにやってんのよ?」


 やけに疲れたような声音で訊ねながら、レオナは視線を俺の背後にある店に流した。


「なに? なんか防具でも買うの?」


「いいや、見てただけだよ」


「ふーん……ま、あんたには必要ないでしょ、普通の防具とか」


 あ、やっぱり?


「そっちはなにしてんだ? 街の見回りとか?」


「違うわ。あたしは今、自由時間……で、ちょっと買い物にね」


「へー、なに買うんだ?」


「槍よ、槍」


 そう口にしながら、レオナは槍で突くような動作をしてみせる。

 なんだこれ、エア槍?


「そういえば、失くしたままだったっけか」


 件のはぐれ魔族、ハル……なんだっけ。

 ハルなんとか……

 もう変態じじいでいいか。


 変態じじいの迷宮で、レオナは得物である長槍を紛失してしまっていた。


「あれ? でもセクンドゥムまで来る途中、なんか槍使ってなかった?」


 野生の魔物との戦闘時、レオナは槍で戦っていた気がする。


「あれは変装用の商品にあった槍を借りたのよ。でもやっぱり安物は駄目ね。エンチャントに耐えられないから」


「エンチャント?」


「そう、精霊魔法の一種よ。精霊の力を武器に宿すの」


 あー、なんか巨大ドラゴンと戦ったときにイングさんがやってたみたいなやつか。


「だから良い武器がないか探してるとこなのよね……今のところ見つかってないけど」


「ふーん」


「……だから、もうちょっと興味を持ってくれてもよくない?」


「いや、興味津々だけど?」


「ぜんっぜん、そんな風に見えないけど……あ、そうだ。シロウ、よかったら付き合ってくれない?」


「付き合うって、結婚を前提にか?」


「馬鹿じゃないの? 武器屋巡りよ。どうせ暇なんでしょう?」


 たしかに暇だけど、決めつけられるのも癪だよなぁ。


 でもまあいいか。


「よし、お伴してやろう」


「なんで偉そうなの!?」


 てなわけで、俺はレオナの槍探しに付き合うこととなった。



      ◆



 セクンドゥムにある店をほとんど見て回ったが、レオナの望むような槍は発見できなかった。


「やっぱり王都じゃないと無理かしら……」


「お、地方都市を小馬鹿にする発言?」


「違うわよ!」


「冗談はさておき、あと武器を置いてそうな店といえば、ここだけだぞ」


 俺は目の前にある店を指さして言う。


「なんか高級そうなところだし、もしかしたら良さげな槍があるんじゃないか?」


「そうね……この店に最後の希望を託すわ!」


 大げさだな……。


 肩をいからせながら、レオナはズカズカと武具屋の中に入っていく。


 なんでそんな気合い入ってんの?

 とか思いながら、レオナの後ろに俺も続いた。


「いらっしゃいませぇ」


 店の人がにこやかに出迎えてくれる。


 糸目で恰幅がよくて、小綺麗な格好をしたおじさんだった。店主かな?


 店の中には多種多様な武具が整然と並べられている。


 その一角……槍が置かれたコーナーに、レオナはまっすぐ向かっていく。


 レオナは槍を手に取って、矯めつ眇めつを何本か繰り返す。


 やがて小さく息を吐いて、ゆるやかに首を振った。


「駄目ね……どれも良い槍なんだけど、エンチャントには耐えられそうにないわ」


 ここもアウトか。どうすんだろ?


「騎士様、なにか特別な槍をお探しで?」


 こちらの様子を見ていた糸目の店主が、揉み手をしながらレオナに話しかける。


「ええ、特別っていうか……錬金術で作られたり、鍛えられたりした槍ってないかしら?」


「錬金術でございますか……残念ながら今、当店にはございませんねぇ……セクンドゥムには錬金術師の店がありませんからな」


 糸目の店主が申し訳なさそうな顔をする。


「魔王軍に占領される前は、交易で仕入れたり、錬金術師が卸しに来ていたりもしていたのですがねぇ」


「……そう、ありがとう」


 レオナは話を切り上げ、店を出ようとする。


「おっと、そうだ!」


 パン、と柏手を打ち、店主はなにやら思い出しかのような声を発した。


「冒険者から聞いた話なんですがね、なんでもセクンドゥムの近くにある小さな迷宮ダンジョンにいる魔物が、変わった槍を持っているとかなんとか……」


 おお、ダンジョン!


 今さらだけど、この異世界にはそんなものも存在するんだな。


 変態じじいも迷宮とか言ってたけど、あれは異空間らしいし、俺的にはノーカウントだ。


「へぇ、変わった槍……どんなのかしら?」


「さぁ、そこまでは……ただ、あれは普通の槍じゃなさそうだって話らしいですがね」


 店主からの情報を聞いたレオナが、俺に意味ありげな視線を送ってくる。


 キラキラと輝く赤い瞳。


 まさか……


「シロウ、ダンジョンに行くわよ!」


 ええー。

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