表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/40

第十二話 イングリット隊の新たな任務

 翌朝、俺は知らない騎士に起こされた。


「シロウ殿、イングリット隊長がお呼びです。執務室までお越しください」


 それだけ告げて、騎士はさっさと行ってしまう。


 俺はのそのそとベッドを下りて、あくびをひとつ。


 やはりスキルのせいか、いまいち寝た気がしない。別に身体が疲れてるとかはないけど。


「えぇと……執務室だっけ」


 それどこだっけ? 


 昨日、イングさんと話した部屋ってことはわかるけど、場所まで覚えてないぞ。


 ま、誰かに訊けばいいか。


 身支度をして、俺は部屋を出た。





 そこら辺にいた騎士に、執務室まで連れてきてもらった。


 木の扉をノックして、返事を待ってから部屋に入る。


「おはよう、シロウ」


「おはようございます、シロウ」


「……ふん」


 執務室には、イングさんの他にリーゼさんとレオナもいた。


「おはようございます」


「すまないな、いきなり呼び出して。まあ座ってくれ」


 イングさんに言われ、俺は昨日と同じ長椅子に着席した。隣にはリーゼさん、さらにその隣にはレオナも座っている。


「よし、これで揃ったな」


 俺たちの対面で、イングさんが満足そうにうなずいた。


「それで隊長、話ってなに?」


 どこか不機嫌そうな声で、レオナはイングさんに問う。


「ああ、まずはレオナとリーゼに言っておくことがある。実はシロウには、我らイングリット隊に協力してもらうことになった」


「はぁ!?」


 レオナが素っ頓狂な声を上げる。


「本当ですか、シロウ?」


「はい、リーゼさん」


「それは心強いですっ!」


 ああ、やっぱリーゼさんは優しいなあ。朝から癒やされる。


「隊長、なんでこんな素性もよくわからないようなやつ!」


 レオナが腰を浮かし、びしっと俺を指さす。


「レオナ、シロウの力は見ただろう。彼がいれば、魔王軍との戦いは格段に楽になる」


「っ……それは……そうだけど」


 萎れるように、レオナは椅子に座り直した。


「それに、だ。新たな任務はシロウ抜きでは到底、達成できないようなものだからな」


 新たな任務というイングさんの言葉に、リーゼさんもレオナも居住まいを正した。


「王都から命令が?」


 と、静かにリーゼさんが確認する。


「ああ、昨夜遅くにな。『魔王軍第四師団によって支配されたセクンドゥムの街を解放せよ』だとさ」


 イングさんが淡々とそう述べる。


「そっか、セクンドゥムは第四師団の本拠地に近いものね。そこを足がかりにして、第四師団を叩こうってわけね」


「ああ、レオナの言う通りだろう」


「それで、他所からの増援は?」


 レオナの質問に、イングさんは緩やかに首を振った。


「なしだ」


「なっ……援軍出さないって正気なの!?」


「さあな。ただ、兵を出さないというよりは出せないんだろう。セクンドゥムの攻略には何度も挑んで、ことごとく失敗している。すでに被害は甚大だ。どこも余裕がないということだろうな」


「だからって、あたしたちだけでなんて無茶にもほどがあるでしょ……王都のやつら、リーゼに嫌がらせしてんじゃないの?」


 リーゼさんへ嫌がらせ? どういう意味だろう。


「正確には我らイングリット隊とリベルタスの駐留部隊で、だがな」


「それでも無謀だっての……」


 レオナが呆れたように天井を仰ぐ。


「……冒険者の手は借りられないんでしょうか?」


 リーゼさんの発言に、イングさんは微苦笑を浮かべる。


「金がないんだよ。基本的にギルドは――冒険者は報酬がなければ動かんからな」


 世界の危機だってのに、なんだそりゃ……。


 俺の中で、どんどん冒険者のイメージが悪くなるぞ。


 それにしても、騎士団が何度も挑んで全敗とか……セクンドゥムってのは、どんだけ難攻不落なんだ?


「あのー……セクンドゥムってとこは、そんなに危険なんですか?」


 俺はそう口にしながら、おずおずと挙手した。


「セクンドゥムには、魔王軍第四師団の副師団長がいるみたいなんです」


 リーゼさんが答えてくれる。


「これがどうもかなり強力な魔族らしくてな。ほとんど、そいつひとりにやられているみたいだぞ」


 イングさんがそう補足する。


 なるほど。要はその副師団長が無双してるせいで、セクンドゥムって街をなかなか奪還できないわけだ。


「そこで――」


 イングさんの目線が、俺を捉える。


「シロウの出番というわけだ」


 あ、やっぱり。

 いや、なんとなくそんな気はしてたけど。


「セクンドゥムの奪還が成らないのは、やはり副師団長の存在が大きい。だから我々は、少数精鋭でセクンドゥムへ潜入……副師団長を暗殺する」


 凛とした声音で、イングさんは作戦を説明する。


「少数精鋭……ですか?」


 と、リーゼさん。


「ああ、そうだ。それ以外の部隊は、セクンドゥムの近くで待機させておく。副師団長が討たれとなれば、セクンドゥムの魔王軍は混乱するだろう」


「そこへ待機させておいた部隊で、一気に攻め込むってわけね?」


 ほー、なるほどなあ。


「街に潜入する少数精鋭というのは? ひとりはシロウで決まりでしょうけど……」


 え。リーゼさん、なにゆえ断定的なんですか?


「うむ、もちろんそうだが」


 イングさんが首肯する。もちろんそうなのかよ。


「セクンドゥムに潜入するのは……ここにいる四人だけだ」


 イングさんの宣言に室内がシーンとなる。


「……本当に大丈夫なの、この作戦?」


 そう口火を切ったのはレオナだった。


「ああ、大丈夫だ」


 イングさんは力強く肯定する。


「こちらにはシロウがいるからな。成功の見込みは高い」


「そうですね、わたしたちにはシロウがついています!」


 ぐっ、と両手を胸の前で握りしめるリーゼさん。


「どんだけ信頼度高いのよ……」


 レオナが溜め息混じりに呟くのが聞こえてくる。


 うん、それは俺も思ってるよ。


 ――しかしなんというか、期待してくれるのは嬉しいんだけど、プレッシャー感じちゃうよなぁ……。

 でもまぁ力を貸すと決めた以上、きっちりやらないとな。


「イングさん、潜入って具体的にはどうやるんですか?」


 まさか四人とも、このままでってことはないだろう。


 イングさん、レオナ、リーゼさんは鎧なんか着てたら騎士って丸わかりだ。

 俺だって、この世界じゃ奇妙に見える学ラン姿だし。


 そんなもん、目立つどころの話ではない。


 だから当然、なにかしらの変装が必要になると思うんだけど……。


「セクンドゥムの警戒は厳重なようだからな……当たり前だが、潜入時には変装をする」


「ま、そりゃあそうよね。それで、あたしたちはなんに化けるわけ?」


「無難だが、商隊キャラバンだな」


 ん? それって、人間の……だよな?


「あの、魔王軍に占拠されてる街に、人間の商隊キャラバンが入れるんですか?」


「入れるさ。人間の中には、魔王軍相手に商いをする輩も少なからずいるからな」


 いわゆる死の商人みたいなやつか……異世界も大変だなー。


「そういえば、ここからセクンドゥムに向かうとなると……モルス樹海を抜けないといけませんよね?」


 リーゼさんが、ふと思い出したようにそう言った。


「ああ。モルス樹海を抜けた先にある村に、変装に使うものと馬車を手配するよう、伝令してある」


「あたしたちの出立はいつ?」


「今日の正午だ」


 おお、随分と急だな……


「ここからセクンドゥムまで歩けば丸二日はかかるからな。急ぐに越したことはない」


 俺の戸惑いを見てとったのか、イングさんはそう付け加える。


「馬とかはいないんですか?」


 さっき馬車とか言ってたし、この世界にも馬はいるんだとばかり思ったが。


「……私たちの馬は、昨日の戦いですべて失われてしまった」


 イングさんは沈痛な面持ちを見せる。


「そうだったんですか……」


 きっと、ドラゴンにやられてしまったんだろう。


「そういうわけだから出発は正午。各自、それまでにしっかりと準備を整えてくれ。では、この場はこれで解散とする――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ