フィークスの話
地下空間は広く、かなりの面積がある。
その空間に置かれていた奇妙なもの。
まず目についたのは、半径1メーター以上ある鉄の塊。
フィンで包まれた円形の塊が、花びらのように中心部を取り囲んでいる。
「こいつはエンジンか?」
あの日記に書かれていたことは事実だ。
となれば、機械の翼も存在するに違いない。
これはそのパーツだろう。
他にも翼と思われる板、翼を形作る骨組みも発見した。
「こいつを復元できれば、フィークスの島に行ける」
「ま、マジか! そしたらあの雛を何匹も連れてこられるってわけか?」
衛兵のくせにあくどい連中だ。
「とにかく、こいつはこのまま保管しておいてくれ。 俺はセントラル大学に行って機械工学に詳しい教授と合ってくる」
一旦ここを離れ、準備をするために隠れ家に戻った。
「フィークス!」
フィークスは隠れ家にいて、相変わらずふてくされている。
「お前の故郷の手がかりがつかめたぞ。 俺はセントラルに行くが、お前はどうする?」
「……謝ってください。 その言葉がなければ、一緒に旅はできません」
俺が一体何をした? とジャックは思ったが、このままこの状態が続いても仕方がない。
1億を手に入れたのはこいつのおかげだし、親元に送り届けてやらなかったら心置きなく金が使えない。
「……少し話をしようか」
ジャックがコーヒーをいれて戻ってくると、ギシリ、と椅子に座った。
「俺のやり方が気に食わなかったんだろ? だが自分がうまくいくためには、周りを不幸にしなきゃいけないんだ」
「……どういう理屈ですか」
ジャックは学生のころを話し始めた。
薬剤師になるには資格がいるが、定員が決まっている。
つまり、周りを蹴落とさなければならない。
だから、なれなかった人間を不幸にしているのと同じで、それを学生のころに思い知らされた。
どんな奴も自分のために生きていて、不可抗力で周りを不幸にしている。
「分かったか? タマネギもシロフクロウも必要な犠牲だったんだよ」
「あなたは…… 他人の憎悪の恐ろしさを知らない」
フィークスは話始めた。
「僕は、以前ある男の人を見殺しにしました。 血を飲まさずに放置したんです」
ジャックはその男に心当たりがあった。
(日記を書いた人物か……)
「その夜から僕は悪夢にうなされました。 男が夢に出てきて僕を殺しに来るんです。 心身共にやつれていた所を捕まって、あなたに会いました。 そして、もう一度僕は試されました」
ジャックが瀕死になり、薬草を採ってきてくれと言ったあの日である。
ジャックはフィークスの血で救われた。
「それからは悪夢は消えました。 罪を帳消しにできたんだと思います。 僕は危うくその男の憎悪に殺される所でした」
確かにジャックは今まで様々な恨みを買ってきた。
他人の恨み、それは幽霊と同じで、考えたらダメなものだと思っていた。
しかし、憎悪は幽霊ではない。
実在する負の感情だ。
初めてジャックは恐ろしくなった。
「俺は、どうしたらいい?」
「これからは他人のために生きて下さい。 それしか罪を償う方法はありません」
「……分かった。 かなり頑張らなきゃ償いきれないけどな」
「頑張りましょう!」