機械の翼
「マスター! この店で一番高いワインを持ってきてくれ!」
その夜、ジャック、フィークス、衛兵のライトとレフトは酒場に集まって打ち上げをしていた。
「それにしてもお前はすげえ! 1億だぞ? 見たこともねえ大金が目の前に積まれていくんだよ!」
ライトは興奮してその時のことを語った。
「全部フィークスのおかげだ。 今度は遠慮なく好きなものを頼んでくれ」
「……」
しかし、フィークスはむすっとした表情のままだ。
「どうした? そんなツラしてたら場がしらけるぜ?」
「……僕は信じらんないんです。 タマネギが目の前で刺されて亡くなったっていうのに、こんな祝い事をする神経が」
「じゃあ、お前は捕まったままで良かったのかよ?」
「それはまた別問題です! あなたに良心はないのかって聞いてるんです」
ジャックは、お前はまだ子供だな、と言ってワインを飲んだ。
「……少し、見損ないました」
そう言って、フィークスは出て行ってしまった。
「おい、ラッキーじゃねえか。 あいつを親元に連れてかなくて済むぜ」
「……」
ああそうだな、とジャックは返事することはしなかった。
なぜなら内心は送り届けてやるつもりだったからだ。
しかし、らしくないセリフだなと内心苦笑し、別な話題を振った。
「タマネギは何でフェニックスの血を知ってたんだと思う? 俺は今までそんな話聞いたことがなかった」
なぞなぞか? と2人は腕を組んで考え始めた。
「……タマネギは大富豪だ。 世界に一冊しかない鳥の図鑑を持ってたのかも知れないぜ?」
鳥の図鑑……
あながちそんな所かもしれない。
だが、実際に部隊を編成してまで行動に出たということは、もっと確固たる情報があったに違いない。
タマネギを動かした情報がフィークスの故郷の手がかりになるかも知れない。
「なあ、タマネギの遺品はどうなるんだ?」
「やつには遺族がいないからな。 俺たちが処分する」
ジャックはしめたと思った。
その遺品を処分する前に、自分にも見せてもらいたいと頼んだ。
「だったらそれの整理もついでに手伝ってくれ」
こうして、後日タマネギの屋敷に向かうことになった。
ジャックとライトがタマネギの屋敷の書斎を整理していると、テーブルに一冊の日記が置かれているのが目に付いた。
「タマネギの日記か?」
しかし、すすけていて、まるで暖炉の中から取り出したような感じだった。
ジャックはその日記に目を通した。
ようやく機械の翼が完成した。
全ての財をなげうち、借金までしてしまった。
この冒険で、その借金を帳消しにする何かを見つけて帰らねばならなくなった。
機械の翼での試験飛行に成功。
いよいよ明日出発を迎える。
現在順調に大陸を移動中。
海の手前で燃料を補給予定。
ジャックはできの悪いフィクションを読んでいる気分になった。
機械の翼……
その名からイメージするに、機械仕掛けの鳥の翼で、空を飛べるものか? と推理した。
実在しないテクノロジーが出てくる点から、やはり何かの作り話か。
ジャックは更に読み進めた。
燃料補給完了。
海の先の大陸を夢見て出発。
眼下に小さな島が5つある。
一日以上経過。
まだ何も見つからないが、計算ではまだまだ飛べるはず。
……そろそろ不安になって来た。
何もなければこのまま海に墜落するだろう。
燃料が半分になったところで着陸できそうな島を発見!
着陸成功。
探索を開始する。
そこから数日間は島の探索に関してつらつらと書かれている。
自給自足の様が書かれていたが、ある日ピンチが訪れた。
どうやらさっき噛まれた蛇は毒を持っていたらしい。
意識が遠のいていく。
ふと気が付くと、傍らに赤い鳥がいる。
結構大きい鳥だ。
尾を含めたら1メーターはある。
その鳥が俺の口に自分の血を注いでいたのを朦朧とした意識の中で見た。
あれからウソみたいに体調がいい。
あの鳥が俺を助けてくれたに違いない。
鳥の住処を発見した。
あの鳥の雛が何匹かいる。
あの雛を持ち帰って血を売れば借金を帳消しにできるに違いない。
しかし……
気付いたら俺は雛を手に持っていた。
赤い鳥よ、すまん。
ジャックは息を飲んだ。
とうとう赤い鳥が出てきた。
そして、この雛はまさかフィークスのことか?
雛を手に入れ、島を離陸した。
どうもエンジンの調子がおかしい。
思ったように飛んでくれない。
もう少しだ。
大陸まであとわずか。
燃料はギリギリ持ちそうだ。
ここで日記の内容は途切れていた。
ジャックはこの日記を書いた本人はもうこの世にはいないのではないか? と思った。
すすにまみれた日記。
恐らく着陸に失敗したのだろう。
タマネギは何らかの形でこの日記を手に入れた。
赤い鳥のことを知り、部隊を編成したのだ。
この機械の翼が墜落したその現場付近を捜索するために。
日記の日付は、ジャックが田舎に帰ろうと決めた数日前だった。
「……つながったな」
そして、赤い雛の故郷も……
しかし、どうやっていけばいい?
機械の翼はない。
その時だった。
「ジャック! 来てくれっ!」
レフトが書斎に入ってくるなり叫んだ。
「この屋敷の地下に、見たこともねえもんがあるんだ!」