青い粉
ジャックがワインをグラスに注いでいると、話は終わっていない、と強い口調で咎められた。
「そのピーナッツの周りに散らばってる赤い羽根は? あなたがエサを与えてた証拠では?」
「俺を疑っているのか?」
何やら不穏な空気になってきた。
ジャックはポケットに手を入れて、青い粉の入った小さな袋を取り出した。
「その通り、黒い薬剤師殿。 あなたは金のためならどんなことでもすると聞いてます。 今回もあの雛が金になると知って、盗んだのでは?」
「だから知らないです。 一体いくらの雛なんですか?」
「一億コインです」
「一億コインだと?」
ジャックは思わず聞き返してしまった。
あの雛にそんな桁違いな価値があるのか?
大富豪に物好きな鳥マニアでもいるのだろうか……
「とにかく、連行させてもらいます」
ジャックはさっき取り出した青い粉をワインに入れ、グラスを回してかき混ぜた。
「分かった…… その前に一杯だけ」
そう言って、中の液体を男に向かってかけた。
液体は男の足元にかかった。
「………貴様」
男は剣に手をかけた。
剣を抜いて一歩踏み出そうとした時……
「!?」
足が固まって動けない。
ジャックは相手が戸惑ってるスキに走りだした。
ジャックが取り出した青い粉は、水に溶かし物にかけることで対象を凍らせることができる。
通常は肉など、腐りやすい食べ物を冷凍するために使ったり、直接飲むことで、眠り薬の変わりにもなる。
ジャックは列車の外に出た。
「飛び降りるか……」
下手な所に着地したら、骨折程度では済まないだろう。
だが、列車にいたらその内捕まるのは目に見えている。
今列車はちょうど川の側面を走っている。
川に入ったら袋の粉が全て溶け出す可能性があるが、逃げるのが優先と判断し、ジャックは身を投げた。
「ごほっ」
ジャックはどうにか川から這い出た。
全身を打ちつけたせいで、動けない。
「残りライフは1だな」
このままでは野垂れ死ぬ。
せめて、薬草が手に入れば…… と思った時、赤い雛がやって来た。
「いたいた~」
「……」
飛べるのか?
「助けてくれてありがとうございます! 僕を連中から逃がしてくれたんですね!」
何か誤解しているようだ。
だが、こちらに恩を感じでいるのならちょうどいい。
「なあ、薬草って分かるか? 俺は今動けない。 多分そこら辺に生えてるはずだから取ってきてくれ」
「薬草!? 分かりました!」