おじさんね、ほわほわするの
男の子と手を繋ぎながら教会に入れば、そこには目を奪われるくらいに美しく、儚く妖しい光を放っている紫色の水晶の塊が、教会の一番目立つところに飾られていたの。おじさんはいつも以上に呆然としていた数秒間の流れが緩やかになったような気がしたの。
我に返ったのは、男の子がおじさんの手を強く握りしめたから。
――あれは恐らく魔力の塊だ。純度の高く、質の高い誰にも扱えない魔力。選ばれた者しか扱えない……、綺麗すぎる魔力。そんなような気がするのだよね、おじさんは……だけど。と考えながら、正気に戻ったおじさんは恐る恐る水晶の塊に近づいていく。
今度はこの水晶の魔力に目を奪われてしまわないように慎重に、おじさんは一歩一歩ゆっくりと足を動かす。
神父はおじさんではなく、男の子の方に視線を向けた後、にっこりと微笑んで来い来いと片手を上げ、声に出さず動作だけでそうおじさんらに伝えてきた。
男の子も神父の意図がわかったのか、恐る恐る水晶の方へと近づいていき、動作で説明された通りに水晶へと触れた。その瞬間、一瞬だけ男の子の身体が紫色の光に包みこまれた。
男の子はびくびくと震えながら、彼の頭を撫でる神父から手紙を受け取り、教会からもの凄い勢いで出ていってしまったの。
――どうかしたのかしら? と、おじさんはそう考えながら男の子が去って行った方向を呆然と見つめていれば、さきほどまで黙りとしていた神父がこう言う。
「君も早く済ませてしまいなさい、ここに器の未熟な君が長い間とどまっているのは危険です。早くこの水晶に手を当てて」
と、神父は子供を相手にするにはきついんじゃないかと思う喋り方でそう言った。……その喋り方を聞いてわかった、神父自身も自分の喋り方が自覚しているのだ。だから、あえて声に出して説明をしないで動作で説明していたのかとおじさんは納得をした。
――さっきの男の子のような性格だと、神父のような喋り方では泣かせてしまうと自覚しているからだろうねぇ〜。
と、そう考えながら、おじさんは素直に神父の言うことを聞き、言われた通りに未だに妖しく光る水晶に触れた瞬間、おじさんは一瞬だけさっきの男の子の時のように紫色の光に包みこまれた。
おじさんを包みこんでいた光が消えたと同時に、神父から手紙を渡されたのを受け取った後、男の子がしたように教会から足早に去るのだった。
……さっきの男の子が何で、あそこまで必死に逃げる意味がわかったから。