裸の王様の服を作ります
私の名前はアル・エルファ、20歳。腰まで伸ばした明るい赤茶色の髪と薄紫の目が特徴で、仕事仲間からはアルと呼ばれています。実は、私の仕事はこの国の王であり騎士でもある、ロイド・オルカ様に仕えるメイドです。この前知ったことなんですが、ロイド様は23歳と私と歳が近いんですよね。そんなことを考えつつ。
「ラッラララ〜ランララ〜」
箒を持ってメイド服を翻しながらお庭でお掃除中、今日は良い天気なので、ついと歌を口ずさんでしまいますね!実はこの曲は、とある商人から聞きた歌なんです。メロディがよくてすぐに覚えましたよ。
「はぁ」
あら、執事長さんがお屋敷の中庭にあるベンチに座ってため息をついているのが聞こえました。どうしたのでしょう?いつもは、ため息をつく人ではないのに、心配になってきたので話しかけてみます。
「執事長、どうなさいました?」
「アルか、すまない、変なところを見せてしまったね」
「いえ、それにしても執事長がこんなところでため息だなんて珍しいですね。もし何か悩み事があれば、言ってみてください。私でよければ聞きますから」
「ありがとう、実はな」
執事長が言うには、ロイド様がまたも大量に洋服を買ったとの事。ロイド様のことを説明するならば2つ挙げられるかな。まず1つ目は、流し目一つで女性を簡単に落とせる美貌の持ち主、そして2つ目は、この国1番のオシャレさんです。
「オシャレ好きなのは分かりますが」
週に2回は、お城に布織職人を招いて、服を作らせたり、商人を呼んで最先端の服を買ったりと、とにかくロイド様はオシャレさんなのですよ、呆れる程にね。
「一回着た服は2度と着ないし」
「えぇ!」
「洋服は溜まるばかりで」
「それは溜まりますよね」
一回着た服は着ないって、どれだけ、贅沢なことなんですかっ!
「今日も、午後から布織職人が来るのです」
「またですか、一昨日も来たではありませんか」
またも、執事長のため息。もうこれ以上、執事長を困らせないで下さいよ。疲れで顔が青いじゃないですか。私は、ロイド様が布織職人や商人に服を注文しているところを実際には見たことがないので、どれだけ凄いかは知りませんが、執事長がため息をつく程です。よっぽどのことなんですよね。なんだか、興味半分でその様子を見たくなりました。
「執事長、今日の午後から来る布織職人とロイド様のやり取りを見させては頂けませんか?」
「えっ」
「あの、私、このお城で働いてから日が浅くて、それにロイド様の事をよく見たことはないのです」
ロイド様を見かける時は必ず、後ろ姿で、真っ正面から見たことはありません。イケメンさんだと言う話も、ロイド様の側で仕えるメイド仲間から聞いた話しで、それに、私はメイドの中でも下の位にいるメイド、高貴なロイド様のお近くでは働けない身なのです。
「本来ならアルが来るべきではないのだが」
「そこをなんとか、執事長の権限でお願いします」
「うーん…わかりました。それでは布織職人が来るのは午後の3時からです。場所はロイド様のお部屋で」
「ありがとうございます!」
やった!お願いが通じたよ。これも日頃からの行いが良かったからかな?うん、きっとそうだよ。こうして私は、ロイド様と布織職人のやり取りを見ることに成功しました。
* * *
時刻は3時になる30分前の事
「失礼致します」
頭を下げながらロイド様のお部屋に入りました。お部屋の中には執事長とロイド様だけしかいません。まだ布織職人は来ていないようです。それにしても、ロイド様、王様オーラがダダ漏れ、それにメイド仲間から聞きたのよりも実際にこの目で見てみると、本当にかっこいい人なんですね。
「メイドのアル・エルファです。この度はロイド・オルカ様のお側で」
「話は、執事長から聞いている」
それなら話は早いですね。私は執事長の隣に移動してロイド様を観察です。只今、ロイド様隣国の王様宛の手紙を書いては後ろに放り投げ、その落ちた手紙を執事長が拾い捨てるの繰り返し。やることのない私は、とりあえず、紅茶でも淹れましょう。
「紅茶をお持ち致しました」
「ありがとう」
紅茶をロイド様の机に置くと、私を観察するように見てきました。
「アルと言ったか」
「はい」
「オレのファッションセンスについてどう思う?」
いきなりの難題を持って来られたー!いや、ファッションセンスについてどう思うって言われても、ロイド様は何をお召しなられてもカッコ良く見えるから、多分ボロ衣着てもいけるんじゃないかな。
でも、ロイド様にそんなことは言えなくて、ここは無難なことを言いましょう。それと、執事長から聞いて思ったこともついでに話そうかな。
「ロイド様のファッションセンスは私どもには考えられない程素晴らしいものでございます」
「ふむ」
あれ、浮かない顔。失敗したかな。
「それと、執事長から伺った話なのですが、ロイド様は1度お召しになった服を2度と着ないとか」
「アルッ!」
執事長の言葉にロイド様が手で制します
「あぁ、そうだ。それがどうした?」
「新しい服を買うのはよろしいのですが、それでは、他の服が勿体無いです」
「勿体無い?」
そう、私が言いたかったことは『勿体無い』この言葉もとある商人から聞いた素敵な言葉です。
「例えば、着なくなった服を」
私はロイド様に話しかけながら、部屋にあるたくさんのクローゼットから、これまた大量にある服から適当な物を2つ選んで、ロイド様と執事長に見えるよう目の前に差し出しました。
「このように、合体させて新しい服を作ると、また別の良い服が出来上がります。これならお金もあまり掛からないし、経済的に良いと思います。それと」
「それと?」
今度は窓から見える街の風景を見ながら話します。
「この素晴らしい服を、この国の民に渡したり、売ったりするのです」
この言葉は異国でリユースと言うらしいです。
「成る程、その発想はなかった」
どうです、これなら服はクローゼットに溜まりませんし、服と服を合体して売れば儲かります。ナイスアイディア!執事長の服の整理の悩みも解決。一石二鳥ならぬ一石三鳥。
「これなら、新しい服を買っても置き場所があるな」
あっ、服を買うことはお決まりなのですね。するとここで、ドアが開き、メイドに連れて来られた2人の男の布織職人が来ました。1人は痩せ型のっぽで、もう1人はチビデブです。それに見た目から胡散臭さが漂っていますね。
「この度は、私どもをお使いありがたき幸せ。私はラルクと申します。そして、こちらは布織職人仲間のリディオルです」
痩せ型のっぽさんはラルクさんで、チビデブさんはリディオルさん。ロイド様は2人をイスに座らせて机を挟み向かい側に座りました。ちなみに私と執事長はロイド様が座るイスの右側に立っていますよ。
そして、布織職人のラルクさんは大きな箱開けて私たちに見せました。ですが、中身を見ても何も入っていません。
「これは、どう言うことだ」
「今回作らせていただく服には、この糸と布を使います」
ラルクさんは箱の中からさも糸と布があるように見せながら話しますが、どう見ても無い、目を擦っても見えない。
「実はこの布と糸は、馬鹿には見えない代物なのです」
「そんな布と糸があるのか⁉︎」
「えぇ、ありますとも。もちろん偉大なる国王様には当然見えてますよね?」
「……あぁ、当然だ」
うっそーん!答えるのに間がありましたよ。それに馬鹿には見えない布と糸って、そんなのこの世にあるはずがありません。これは立派な詐欺ですよ。早くロイド様を止めないと、でもまずは執事長に相談です。
「執事長、これは詐欺ではないですか!」
「確かに詐欺ですね。ですが、これはこれで良い案かもしれない」
「なぜですっ!」
「実は、先程ロイド様が申していたのですが、この服が完成したら国の民に見せるため街を歩くそうです」
「それなら、尚更止めないと」
「それで良いんです!」
私には執事長の言っていることが分かりません。ロイド様はこの服が完成したら見えない服を着て街を歩く、イコール上半身裸で街を歩く事になるんですよ。それを見た街の民はなんと思うか、きっと驚くに違いない、そんなことは目に見えて分かるではないですか。
「今回、ロイド様はこの2人に騙され、街を歩き、街の民から黄色い声ではない声を浴び、ショックを受けます。そこから私がロイド様に、『これからは服をたくさん買うのは止めるよう』にと提案するのですよ!」
「そんなに上手く行くとは思えませんが」
というか、何気に執事長、ロイド様に対して酷いよね。全て分かっている上で、敢えてロイド様を騙すとか。
「執事長とアル、お前達はこの布と糸が見えるか?」
「えぇ、もちろんでございますよ。こんなに美しい布と糸がこの世にあるだなんて私には信じられません」
執事長、嘘上手い。なんだろう、私の中にある執事長のイメージが音を立てて崩れて行くのは気のせいかな。
「アルはどうだ」
「えーと、はい。素敵な布と糸だと思います」
「よしそれなら、これで服を作ってくれ」
「分かりました。それで金額はこちらになります」
ラルクさんは胸ポケットから1枚の紙切れをロイド様へと渡しました。そこに書かれてある金額は、目が飛び出る程の金額。ぼったくりも良いとこですよ!
「ロイド様を目覚めさせるため、仕方が無い投資です」
苦々しく言うならば、止めれば良いじゃないですか。
「分かった、それでは急速に作ってくれ」
「「御意に」」
「執事長、金のことは任せる」
「はっ、分かりました」
はぁ、こんな大金をぽんっと出してしまうロイド様が怖いです。これを毎回やられると執事長が困るのも分かります。
そして、私と執事長はラルクさん達を門の外までお見送りしロイド様のお部屋へと向かいました。
「あんな嘘に25億って」
「えぇ」
「そんなお金はどこから来るのでしょうか?」
「ロイド家には、まだまだたくさんの資産が残ってますからね」
家の資産ですか、さすが国王。そんなことを話しながらロイド様のお部屋に着きました。部屋に着いて早々、ロイド様は執事長に次の布織職人を探してこいと命じていました。慌てて次の布織職人を探しに行く執事長。そして私は、これ以上ここにいても邪魔にしか、ならないので、自分の仕事場に戻ろうとした時、突然ロイド様が話しかけて来ました。
「アル、さっきの話だが」
「さっきの話。えーと服を合体するとか、民に売り渡すというお話ですか?」
「あぁ、そのことで話がある。時間は、まだ良いか?」
「はい」
相手の時間までも気にかけてくれるレディファーストなロイド様。
「アルは裁縫が得意か?」
「はい、ロイド様のメイドたる者、裁縫の1つや2つが出来なくては、ロイド家のメイドではございません」
「ならば、その部屋にある服を全部使って今まで見たこともないような服を作ってくれないか?」
「えっ」
私がですか?そんな服を作るなら私よりも、もっと上手い人がこのお屋敷にいます。
「服を作るなら私ではなく、他のメイドが上手いです」
「いや、アルに作ってもらいたい」
「えーと」
そこから数時間、私がロイド様の服を作るか作らないかで、お話をした結果。私がロイド様の服を作ることになりした。そして、話が脱線して服とは全く関係のないお話になったりと、私にはロイド様と話す貴重な体験を過ごしました。
* * *
ロイド様と服の話を始めてからと言うもの『新しい服はまだか』とか『スボンの裾が長い』や『アルの作る服は良い』など、ロイド様と話す時間が増えました。そして、ロイド様に惹かれていく自分も発見したりと目まぐるしい日々が続きましたね。いやぁ、ロイド様の事が好きだと気付いた日には、それはそれは大変でした。話し方もぎこちなかったりと目も合わせられなかったりと。でも、私はメイドでロイド様は国王、結ばれる事は絶対に無いですよね。
数日後、嘘っぱち布織職人の服は完成しました。とうとう街の民にお披露目です。今のロイド様は、下は私が作ったスボンを履いていますが、上半身は裸です。なぜ上半身裸かという理由をお屋敷のメイドや執事は全員知っています。
そして、全員がありもしない服を身に纏ったロイド様を褒め称えます。『ロイド様が着ている服は素晴らしく似合います』や『流石、ロイド様』などメイドや執事が言う中で私1人は、ただその光景を遠くから見つめていました。
「ふふ、庶民らになんと言われるとこやら」
フフフと、隣から不気味に笑う執事長。なんだか、執事長が悪魔に見えてきましたよ。
さて、とうとうロイド様は街の中を大勢のメイドや執事を引き連れて歩き始めましたよ。そして気になる民の反応というと。
「キャー!」
「かっこいいわぁ」
「ロイド様、素敵」
「こっち向いてー!」
「あらやだ、筋肉が凄いわね」
「さすがこの国の騎士でもあり国王だな」
「我々も見習なければいけないな」
民の反応は、女性からの黄色い声が多くあり、男性からも褒め称えられました。執事長の予想していた反応とは真逆です。私の隣で執事長が胸を押さえて苦しんでいます。
「なっ、何故だ」
それはきっと、ロイド様の筋肉美でしょう。ロイド様はこの国の騎士でもあり国王でもある方、日々の鍛錬は怠っていないので、体は鍛えられ、腹筋が割れています。もちろん、民には王様の着ている服は見えません、というか元々ない嘘っぱちの服なので見えるわけがないですよね。
ですから、街の民はロイド様の筋肉美を見る羽目になったのです。
「やはり似合うか」
民が言う、『かっこいい』は『ロイド様がお召しになられている服はとても似合っていてかっこいい』と訳されてロイド様の耳に入っています。
「そうか、筋肉美かぁ」
執事長の悔しそうな顔。悪役ですね。
こうして、ロイド様のお披露目は、民に筋肉美を見せただけで幕を閉じました。
* * *
お披露目が終わった後、私はなぜかロイド様に呼び出しを食らって、お部屋に向かいます。
「失礼致します」
部屋に入ると、そこには私の作った服とズボンを履いたロイド様が窓際で立っていました。
「ロイド様?」
「やはり、アルが作った服の方が着心地が良い」
部屋に入って早々、褒められました。気に入って頂けたら幸いです。ロイド様の服作りで裁縫の技術はさらに磨きが掛かり今では、他のメイドの私服や執事長の燕尾服までも作るようになりました。
「アルに話さなくてはいけないことがあってな」
「なんでしょうか」
また、新しい服を作れとか。
「アル、オレのわがままを聞いて欲しい」
「はい?」
改めて言われると、なぜか構えてしまいますね。一体何を言われるの?ロイド様は大きく息を吸った後、窓際から私に近寄って、私の手を取りながら話し始めました。
「生涯、オレの妻としてこれからも服を作って欲しい」
「はい、わかっ……ってえぇ!!!」
今、オレの妻とか言わなかった?この人。妻って妻だよね?突然過ぎて頭が回らないんだけど。落ち着け、落ち着け、つまり私は今、この国の王様からプロポーズを受けているわけですよね。でもなぜ私にプロポーズなどを⁉︎
「オレは、アルと話しているうちにどんどんアルに惹かれて行く自分がいることに気付いた」
驚きのあまり口が開けないので、黙ってロイド様の続きを聞きます。
「仕事をしている時の仕草とか、集中した時のキリッとした表情とか」
あれ、私の顔に熱が集まるのが分かります。それに、ロイド様の顔を赤くなって来ました。
「とにかく、オレはアルの事が好きなんだ!」
「えぇーと。突然過ぎて、なんと言えば」
本当にどうしましょう。確かにロイド様とお話ししていると楽しくて、ドキドキしたりもしましたよ。でも、いきなり結婚だなんて。嬉しいでも、なんと返せば良いのか、分かりません。
「もしかして、アルには想い人がいるのか?」
「それは」
「いや、アルに想い人がいるなら、オレは応援する」
「違いますっ!」
私はロイド様に詰め寄りました。
「私もロイド様の事が好きです、ですが、突然結婚だなんて言われると、戸惑ってしまい」
「それならば、結婚を前提に付き合ってくれないか」
「はいっ!」
最高の笑顔で即答です。
こうして、私とロイド様は結ばれる事となりました。
ナツ様から、素敵な企画のお誘いを受けて投稿しました。
お話を考えていてとても楽しかったです!
それと、次の【童話パロ企画】の
お話を考えていて、題材は
『泣いた赤鬼』にしようと思っています
あれ、2作投稿しても良かったかな?