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ステージ10

 福井へと帰るマイクロバスの中、私達はお互いに自己紹介を交わし合った。

 その紹介によると、メイド服の女の子がビアンカ先輩で、肩まである金髪に緑色の瞳。小顔で美人で細身だけど、このバスの中では一番背が高い。もう一方の執事服の男の子がレオン先輩。プラチナブロンドの髪と琥珀色の瞳が印象的だ。こちらも琉珈先輩に負けず劣らずの美男子だけど、私と同じくらいの身長なので下手すると女の子に見えなくもない。

「この先僕らは、ひとつのチームとしてやっていくのだから、これからはお互いに下の名前で呼び合うようにしよう。それと『さん』とか『先輩』とかの敬称を、付けるとか付けないとかは個人の自由ってことで。少なくとも僕のことは呼び捨てでも構わないけど、みんなもそれでいいよね?」

 最後に琉珈先輩がそう締め括った。

 意外だったのは、琉珈先輩以外の二人も日本語がとても上手に話せるということ。

 綾乃先輩が代表して聞く。

「どうしてそんなに日本語がお上手なのですか?」

「フランスでは日本のマンガやアニメがちょっとしたブームになってるんだ。そこから日本語を覚える人も多いんだよ」

 そう答えたのはレオン先輩。彼の話では、日本で放送されるテレビアニメは、翌日にはフランス語の字幕がついてネット配信されているらしい。

「今日からアニメとマンガ見放題かと思うと、嬉しくって涙が出そうになるぜ!」

 そんな風にはしゃぐレオン先輩をビアンカ先輩が冷ややかな目でたしなめる。

「レオ、ほどほどにしときナ。今のフランスのジュニオールのチャンピオンは、アニメの見すぎでロリコンをこじらせたって噂だからネ。周りの女の子達が泣いてるってサ」

「ああ、あいつは、顔だけは良いからな」

「性格だってアンタよりは全然マシダヨ?」

 口許に笑みを浮かべて睨み合う二人。

「でもサ、レオ、ここがアンタ向きの国で良かったネ」

「どういう意味だ?」

「心と背の小っちゃいアンタなら、ウサギ小屋でも快適に暮らせるダロ?」

「謝れ! 俺と日本人の皆さんに謝れ! それから、小っちゃい言うな! この電柱女!」

 ギャーギャーと言い争いを始める執事さんとメイドさん。決して仲が悪い訳では無いのだろう、と、思いたい。

 そんな二人のやり取りに苦笑する翠先生。

「長旅で疲れているでしょうから、このままわたくしの家に行きましょう。それまでは寝ていても大丈夫ですよ」

 三人は翠先生の家から学校に通う事になっている。

 あの大きな家なら住人が、五人が十人になっても余裕があるだろう。

「お祖母様、僕らなら大丈夫ですよ。今寝ると時差ボケが治りませんから。それよりも先に部室の方を見に行きましょう」

 日曜日とはいえ、部活で登校している生徒は居る。

 三人の出で立ちを改めて見て、「そんな格好で行けば大騒ぎになるのでは?」と心配になる。

 別の意味で心配しているのは綾乃先輩だ。相変わらず部室が散らかっているのは、もっぱら彼女のせいなのだから。

「今の部室は手狭になるので、近々移転する予定なのです」

「じゃあ、そっちも後で見に行こう」

 綾乃先輩の予防線も笑顔でスルーされてしまう。

 そして、朋ちゃん先輩はというと、

「イッチャンがこんな意地悪なヤツだとは思わなかったよ! 入部したての頃はあんなにオドオドしてて、守ってあげたいと思わせる子だったのにさ」

 ネチネチと私をいじめていた。

 綾乃先輩に至っては、『琉珈さんの写真』を握り潰して、一言も口をきいてくれない。そして私が何か反論しようとすると、二人掛かりで私のぷにっている脇腹をつねってくる。

 二人とも琉珈先輩の一件で騙された事を根に持っているのだ。

 バスの一番後ろでそんな二人に拘束されて、逃げ場の無い私には拷問以外の何物でもない。そういうのの標的には諸悪の根元である翠先生をオススメするのだが。私を責めるのは、その後にして貰いたい。

 涙目になって必死に耐えていると、思わぬところから助け船が現れた。

「そっちの小っちゃいアンタ、確か市子って言ったっけ? 自分のバイクって持ってないんダロ? アンタぐらいのサイズになると特注になるんダヨ。今からフレームをオーダーしても二ヶ月はかかるネ」

 小っちゃい言うな! と思ったが、話題が切り替わるのは正直ありがたい。渡りに船とばかりにビアンカ先輩の話に乗る。

「そうなんですか? でも私、自転車に乗れないから今はまだ早いかなって思ってるんですけど?」

「そんなことないっテ。どうせアンタもすぐ乗れるようになるんだカラ。えっと、二時間くらい?」

 はあっ?、今、何て言った?

 私達が一週間特訓してもせいぜい十メートルほどしか進まないのだ。そんなのは、とてもじゃないが乗れるとは言えない。

 それをたったの二時間で乗れるようにすると言うのか。

 綾乃先輩に至っては一年経っても乗れていないのに。

「まあ、乗るだけなら数時間ってところかな? 実際には道路を走るためのルールやマナーとかを覚えないといけないから、そっちの方が時間がかかるかな? そこら辺は俺らに任せとけば大丈夫だって!」

「ほら、レオもこう言ってるんだカラ、ついでにバイクもレオのやつを貰っとけばいいんダヨ。多分、サイズもピッタリだと思うヨ?」

「アホかっ! 俺のやつは俺の体に合わせた特注品なんだぞ!」

「アンタにはもっとお似合いの三輪車をアタイが買ってやるからサ」

 再び喧嘩を始めるビアンカ先輩とレオン先輩。

 翠先生の傍に座っていた琉珈先輩が横座りになって、後ろの方に陣取っていた私達に顔を向ける。

「二人ともその辺で止めておけ。レオのバイクはさすがに無理だけど、僕の昔使ってたフレームなら問題無いだろ? こっちに来る前に市子の事はお祖母様から聞いていたから、僕らのバイクと一緒に送ってもらう手筈になっている。さすがにその他のパーツは自分で調達して貰わないといけないけど、それでいいよね?」

 それって、骨組みの部分だけ貰えるのは嬉しいけど、他の部品ってお店で売ってくれるものなのか? 自転車って、あの乗れる状態で売っている物なのでは?

 そんな私の疑問に答えてくれたのは朋ちゃん先輩だった。

「良かったじゃん! フレームは自転車ん中でも一番高い部品のひとつだからね。あとは自分の身体に合ったパーツをお店の人と相談して、ひとつひとつ選んでいくんだよ。そうやってカスタマイズするのが本来の競技用自転車なんだよ。既製品だと乗り出し価格は割安な事が多いけど、どこかで自分の体に馴染まない部分が出て来るんだよね。結局パーツを交換したりするから、下手すると最初からカスタムした方が安くなったりするんだよ」

「それと綾乃、君も自分のバイクを持っていないって話だったよね。だから、今日の内に君の自転車を決めて来よう。普通は春のシーズン到来にタイミングを合わせて買うから、実は冬場が一番選択肢が多いんだ。正直、今の時期は遅いくらいなんだけど、ひょっとしたら掘り出し物が有るかも知れないからね」

 さすがに自転車倶楽部を立て直すために来ただけの事はあって、琉珈先輩はそういう事情にも詳しいようだ。

 それはともかく、新しい自転車の事だ。

 私と綾乃先輩の自転車がどんな風になるのかは知らないが、想像するだけでもワクワクしてくる。

 例のマウンテンバイクのスコット君には申し訳ないが、私と綾乃先輩が自転車に乗れるようになるまで、今少し老骨に鞭打って頂きたい。

 だから、次の言葉はさらに衝撃的だった。

「ふたりとも、自転車に乗る練習は新しいバイクでやって貰うから、よろしくね」

 さようならスコット君。短い間だったけど、君の事は忘れないよ。


ここまでお付き合い頂きまして、誠にありがとうございます。

ようやくキャストも揃ってきて、自転車物らしくなって来ました。

今読み返すと、最初の数話は酷い出来ですね。(いや、全部か?)

折を見て書き直したいと思います。

一応プロットの方は完結部分まで出来ているのですが、なかなか思うようには行かない物ですね。

まだまだ不馴れで文体も安定してませんが、頑張って最後まで執筆致しますので、今後ともご贔屓のほどよろしくお願い致します。


私鍵

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