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プロローグ

  私こと多田野市子は今、真夏のフランスの大地を、高校入学以来の相棒である自転車にまたがって走っている。

  こう書くとなんだか颯爽として格好がいい感じがするのだが、現状はそんな清々しい表現とは程遠いところにある。

  どんよりと厚く垂れこめた雲の下、日本ほど滑らかではないアスファルトの上、真夏とは思えないほど冷たい向かい風の中で、顔を汗と土埃でどろどろにしながら必死にもがいているのから。

  しかも、着ている服はといえばピチピチのサイクルジャージといううら若き乙女にはかなり恥ずかしい姿で、辺りに気心の知れた仲間が居るわけでもなく、一人で顔を真っ赤にして涙目になっている姿は、誰が見てもただの馬鹿か頭がかわいそうな人にしか見えない。

  それもこれも元はといえば全て自分の見通しの甘さのせいなのだが、極々普通の日本の女子高校生にはあんまりな仕打ちだ。

  ここまで読んでも「何がなんだか、さっぱりわからん」と思われていることだろう。だから、もう少し大きな目線で私が置かれた現状について説明せねばなるまい。

  私は今、世界中の自転車乗りにとって出場するだけでも名誉な「PBP」という四年に一度フランスで開催される大会に参加している。

  目的は至ってシンプル。自転車で首都のパリから西の港町のブレストまでを往復する。それだけだ。

  ただし、全行程千二百キロを九十時間以内にという一文が付くのだが。

  普通に考えれば正気の沙汰じゃないことなのだが、何をどう間違ってしまったのか、この神経を疑うようなイベントに参加してしまったのだ。それも誰かに強要されたのではなく自分の意思で。

  その時の私は、脳内に怪しげな分泌物を大量に放出していて至極真っ当な判断が出来なくなっていたのだろう。もし可能であれば、半年前の自分の能天気な頭をかち殴って、穴を掘って埋めてやりたい。

  大体、スタートして十時間、距離にして二百キロも走っていないのに、

「サドルに乗せてるお尻が痛い。手が痺れてきた。足がつってきた。首から肩が凝ってきて頭が上がらない。腹が減っているのに食欲が無い。」

 こんな状態で完走できると思うほうがどうかしている。

  では、なぜこんなことになってしまったのか、高校入学の時点から順を追って振り返ってみよう。

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