ヒロイン対決
【注意】クドイです。読めば分かりますが、一部うっとおしい位にクドイ表現があります。
11/28:攻略対象の名前と他部分を少々加筆修正。流れは変わらず。
放課後、人気のない教室にドカドカと足音が迫る。
教室のドアは開いていた。カモシカの様な細い足で懸命に掛けて来た人物は、その枠に白魚のような手を置き、ぷるんとした唇に相応しくない荒々しい息をふんぬー、と吐いた。
「四条 かなめぇええ!」
女とは思えないその声に、教室の中央に佇んでいた四条 要は完璧に整えられている眉を顰める。
「遅かったわね、徳山さん。・・・彼、もう行ったわよ。」
要の声は、叫んだ女とは対象的に今はもう静まり返った教室に相応しい涼やかなモノだった。
彼とは、この学園の王子と言われている龍王院 貞継の事である。仰々しい苗字の通り、龍王院コンツェルンの跡継ぎだ。しかし、登下校は自転車と言う庶民派で人気の高い男子ある。
「おまっ、屋上からココまで、どうやって!」
入り口で輝く白い歯をギリギリしていた徳山は、その切れ長で自然な睫毛たっぷりな大きな瞳を極限に細め、忌々しげに要を睨んだ。
先程まで要は屋上で、スポーツ特待生の東郷 みつると逢瀬をしていた筈である。それを見てすぐに教室に向かった徳山をどう追い抜いたというのだろうかと、徳山は魅力的な厚みの唇を噛む。
そんな徳山を見て、フッと完璧な造形の唇の口角を上げて要が笑った。わざとらしくない、これこそまさに鼻で笑ってしまった(女性版)の見本ですと言わんばかりの自然な笑いだった。軽く下を向く角度、教室に差し込む夕日が彩る横顔。全てが一枚の絵のように完璧だった。
「私が正ヒロインなのだから、場面スキップなんて当然でしょう。」
フフンと見下すように、けれど下品さは微塵も無い要はその細く白いシミ一つ無い首を晒しながら徳山を見た。
「バカな!ここは現実、ゲームとは違うんだぞっ。」
徳山のとっさの叫びは要に何かしらの衝撃を与えるかと思われた。
この学園、いや世界は乙女ゲームである。高校生活の限られた期間内で魅力的なヒロインが攻略対象と呼ばれるイケメンのみを狙うという、その他大勢のモブ男子には爆発してほしい世界である。なぜなら、ゲーム期間内の彼らは恋愛を封じられてしまうから。このゲームはモブに厳しいのだ。ちなみにモブ女子はヒロインが失敗した場合、ざまあと出来るので今の所は静観している次第である。
「甘いわ!」
そう言い放った要は、カッとその等間隔に反り返る睫毛たっぷりなアーモンド形の大きな瞳を見開いた。
「ヒロインならば、何をしてもイベントに間に合わせる。それが通り。」
「くっ。これでも最短距離を最速で駆け下りたと言うのに。どうやって!」
要の言葉は確かに頷ける、だが徳山は方法を知り今後の対策としたいのだ。徳山の目的は攻略対象を出来るだけ自分の虜にする事である。そうしてから今後の相手を一人選べばいいという、徳山はそのかわいらしい小さな顔に似合わない姑息な考えを持っていた。
「ハッ!階段を悠長に駆け下りるなんてナンセンスね。屋上からロープで伝って降りたに決まってるでしょう!」
「なっ、そこまでして逆ハーを狙うか。四条 要っ。」
通りの良い魅力的な徳山の驚きの声に、要は黄金率な顔を完璧な呆れ顔にしてみせた。そんな呆れ顔になっても要の上品さは微塵も失われない。
「逆ハー?何を言ってるの?」
「とぼけるな!全ての攻略対象に手を伸ばしているお前は、どう繕っても逆ハー狙いに決まっているっ。」
同じ目的で全て要に先手を取られていた徳山は、その悔しさも含めて細い人差し指で要をズバリと指す。この上品の塊のような美人は実は八方美人なのだと指摘してやっているつもりだった。
そんな小さな体躯で鬼の首を獲ったかのような徳山に、要は華奢な肩を竦めた。
「ヤレヤレ。これだからニワカプレイヤー、略してニワプは困るのよ。」
「ニワプて。おい、変に略すのはヤメロ!」
「いーい、徳山さん。常識を知らない貴女に特別に教えてあげる。このゲームの逆ハーはね。ヌルイのよ。」
「ヌルイ?」
「そう、途轍もなくヌルイの。もちろんヌルゲーのヌルよ。友情エンドなんて、目じゃない位にヌルイの。ヒロインそっちのけでキャッキャウフフって、どこのベーコンレタスゲームなのよ!腐った乙女に媚びたい臭で逆に嫌われた癖に!」
涼やかな声で突然激昂し始めた要の迫力に負け、徳山のカモシカのような足は一歩後ろに下がった。
「そ、そうなのか?」
「バカねえ。ヒロイン乗っ取りたいなら、そう簡単に信じるんじゃないわよ。」
「なっ。嘘なのかよっ。」
つい、要の言葉に乗りかけた徳山は激昂した。小さな頭から湯気が出そうな位である。
「嘘って。・・・・・ヤダ、貴女、本当に知らないの?このゲームやった事ないんじゃない?駄目じゃん。その程度のニワカ知識で私に挑もうってした訳?」
要はアーモンド型の瞳を見開き、驚きで開いた口を上品にその白い美しい手で隠す。要に徳山を騙すつもりは無い。ただ、逆ハーレムの結果を教えたかっただけだ。全てのエンドを経験した正ヒロインである要だからこそ、逆ハー結果のヌルさに苛立ちを感じてもいたのだ。
「ぐぬぬ。」
唸るだけで何も言えなくなった徳山の豊かな胸元から、要は目に見えぬ速度で生徒手帳を奪った。この乙女ゲームはステータスが生徒手帳に記載されるシステムだからだ。
「え、何々。転生ヒロイン・傍観系・乗っ取りも出来るよ!って何よ、それ。お前、乙女ゲーヒロイン舐めてんだろ。あー、舐めてる。これは舐めてるね!お前もう、全国のヒロイン敵にしたわ。」
「いや、あの舐めてるわけじゃ・・・。」
徳山の生徒手帳を叩き付けた音に徳山はその小さな身体を飛び上がらせた。
「いーや、舐めてる。お前は舐めてる。ヒロインってのはな。身体張ってんの。分かるだろ。垣根飛び越えたり、壁よじ登ったり、ベランダ伝ったり。」
「ふ、普通に移動したらいいんじゃ。」
「正ヒロインがそんな素人染みた真似するわけねーだろうが!!」
「ヒィっ。」
床の生徒手帳を回収しながら、言葉のガラが悪くなった要を宥めようと徳山が掛けた言葉は逆効果だった。
「こちとら正統なヒロインなんだよ。スキップ機能搭載のヒロイン補正舐めんな。鍛えときゃ、3階から飛び降りた位じゃ骨も折らねーつうんだよ!」
「そ、それって補正じゃなくて・・・。」
人外染みた身体能力じゃないか、そう徳山は言いたかった。しかし言えなかった。そんな身一つのライバル要に負け続けた等、徳山は思いたくなかったのである。それならば補正の差で負けた事にしたかった。
「ああ、ちょうどいい。ここは3階だったな。テメーもヒロイン名乗ってんなら、ヒロイン補正持ってんだろ。」
要に問われて、ブルブルと小顔を懸命に振って、徳山は否を唱えた。そんな人外補正など貰った覚えは無い。実は徳山は神とやらに与えられたチートの筈が、なぜか要には負けるかわいらしいミリキ(笑)しか持っていないのだ。
「なんだテメー、その程度で正ヒロインたる私に挑んだってのか。笑わせるわ。一昨日きやがれ!」
内容とは違い涼やかな声で要に怒鳴られ、窓から放り投げられるのは勘弁してくれと、ニワカヒロイン徳山は脱兎の如く、しかし小尻を包んだパンティをチラ見せしながらSSサイズなスカートを翻して逃げ去った。
「・・・フッ。どいつもこいつも骨のない偽者ばかり。正統ヒロインの敵ではないわ。」
美乳を美しく強調するべく、計算し尽くしされた角度で腕を組み、四条 要は不敵に笑う。
正統ヒロイン。
それは各乙女ゲームの真のヒロインの事である。
彼女の使命は攻略対象を乙女達の希望通りに堕とす事。
乙女の希望と、夢を叶えるべく、今日も弛まぬ努力によって四条 要は過酷にルートを進んでいく。
結果がヌルい逆ハーだとしても。
乙女ゲームの世界は正しきヒロインによって守られなければならない。
プライドと弛まぬ努力を武器に彼女は戦う。
いつしか増え始めた偽ヒロインを蹴散らしながら。
<完>
※ニワプ:ニワカプレイヤーとはライトユーザーを指す。信者とは違うのだよ、信者とは。
※逆ハー:逆ハーレムの事。ヒロインちゃんは俺のもんだ、いや俺の・・・ヤメテーワタシノタメニアラソワナイデー・・・お前いい奴だな、お前もな・・・ヒロイン放置で友情を育むヒーロー達であった。めでたしめでたし。
※ヌルゲー:多分悪い意味。しょうもない的な。
※友情エンド:彼氏?何それ美味しいの?ヒロインとヒーロー達の戦いはこれからだ!
※ベーコンレタス:ベーコンとレタスの恋愛を描く超大作(嘘)BLをギャクではこう伏せる時もある。
※腐った乙女:BLを好む腐女子の事は要さんなりに敬意を払ってるらしいです。
※ヒロイン補正:3階から飛び降りた位じゃ骨も折らない。スキップ機能と名付けただけの、弛まない努力によって培われた身体能力の事を指す。
※ミリキ(笑):所詮紛い物なので(笑)正ヒロインの弛まない努力に負ける程度な魅力を指す。
※正統ヒロイン:乗っ取りヒロインには決して負けない。弛まぬ努力によって、乙女の望む攻略相手を彼氏に、または逆ハー要員にしてくれる特別な存在の事。
コメディー。
たぶん、今度こそコメディー。
ヒロインなんで色々盛りました。文才ないので美しさの表現が120%当社比でうっとおしくなってると思います。
11/28追記:地の文を増やしました。色々説明不足なので。