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六話 天使で天使な少女

「ご報告します!」


ソブラストライト大陸にある唯一の街にして帝都アルダイトの議会に騎士がひとり飛び込んできた。

見るからに焦っていて、報告する内容が普通じゃない事を示している。

議会の面々もそれを察したようだ。


「申してみよ」


議長が騎士に許可を出す。

それを聞いて、息を整えていた騎士はバっと顔を上げて報告を開始した。


「帝都アルダイトより15kmほど西に位置した場所。直径10kmに渡り草木や動物、魔物が死滅! いや、消失しました!」


騎士の報告を聞いて、議会は慌ただしさを見せる。

ザワザワがしばらく続き、しばらくして議長が見計らったように口を開く。


「詳しく話を聞きたい」

「いえ。遠征から帰ってきた騎士がそれを目撃し、鳥を飛ばしてきたので詳細は分かりませんが。話によると、なにも無かった・・・・・・・とのことです!」

「なにも、無かった?」


議長が顔をしかめる。

心当たりは無い。いや、


「ギルドに連絡を取れ」

「ギルドに、ですか?」

「そうだ。そして、今すぐランクSSS全員を集めるように言え。連れてくるのが無理なら、話を聞くだけでも良いとも付け加えて」


議長はすぐにギルドのSSSランクの冒険者を疑った。話で聞いた様な事が出来るのは、この世界にはもうそのくらいしか居ない。議長も色々SSSランクのぶっ飛んだ噂を聞いたことがあるのだ。

最悪冤罪だったとしてもSSSランクの冒険者の意見は聞きたい。


「は、はい!」


騎士は一礼して部屋を出て行った。その後は、今まで話し合っていた議題を一旦無視してさっきの話をする。


「話で聞いたところによると、直径10kmの範囲で生命全てが消えていた」

「ならやっぱり議長の言う通りSSSランクの連中が」

「他国の魔付加具による攻撃、あるいは実験とも取れる」

「馬鹿な! それほどの大威力の魔付加具があれば、今頃開発した国が世界を征服しているわ!」


色々な意見が飛び交う。その中で議長は黙って見守っていた。


(やはり皆も同じ考えか。魔法か魔付加具。だがしかし、反してその様な魔導士か魔付加具を保有しているというなら行動しないのもおかしい)


単に征服する気が無いだけか。

それともなにか策を案じている?


「今すぐ騎士団隊長クラスに召集をかけよ。緊急会議を開く。同時進行で特別迎撃魔砲の用意も急げ!」


ひとつ議長が叫んだら、議会の人はそれぞれが役割を果たすために行動を開始する。

この議長はアルダイト始まって以来の賢者だと言われているほどに、問題対処や政策に大きな影響を与えている。

その議長が命令したら、神のお告げも同然として扱われる。


「ふぅ。よりにもよって今日か。娘が待っていてくれたらいいが」


小声でそう言った議長の言葉は、物音がうるさく議会の面々には届かなかった。

誰にも知られていないのだが、議長は家で相当娘を可愛がっているらしい。今日はその最愛の娘の誕生日だった。

少なからず、その誕生日を邪魔した馬鹿を恨んでいた。




「特別迎撃魔砲だとっ!?」


カナンはその事を聞いて声を上げて驚いた。


「ああ。なんでも大規模な魔法だか魔付加具だかを実験した様な跡が、アルダイトの西で見つかったらしい」

「具体的にはどうなっていたのだ?」

「直径10kmに渡って生命がごっそり消えていたらしい」

「なんだその曖昧な言葉は」

「俺も詳しくは知らねえんだって! なんでも草も木も動物も魔物も消えていたらしい」

「なんだって!?」


確かにそれなら、特別迎撃魔砲の用意も納得出来る。

特別迎撃魔砲。略して特砲。またの名をエネルギー砲、破壊光線と色々呼び名はあるが、これはソブラストライト大陸の資源と人員と許されるだけの時間をかけて創り出した、アルダイトの秘密兵器だ。そう易々と表に出して良い物ではないのだが、そこまでの威力の魔法か魔付加具が相手なら出さない方がおかしい。


(ん? 西?)


確かアイツはパスを発行するために西にある大陸ヴェイングに向かっていたはずだ。最悪巻き込まれたのかもしれんがそれは考えすぎというものだろうとカナンは思った。その今日知り合った人間、リョーカが犯人だとは知らずに。

魔法は長い時間をかけて習得していくものだからリョーカがまだ魔法を使えないと思っているカナンにしたら当たり前なのだが。


「分かった、すぐにも加わろう。あれを帝都の中央の発射台の上に乗せるのはいくら人数が居ても困らんだろう」

「助かる」


カナンは帝都防衛の為、全力疾走で特砲の元へ向かった。


























アルダイトが事件の対処で騒がしくなっている時。事件の当事者は船で揺られていた。


「はぁ~。なんだこの船。めっちゃ揺れまくりじゃねえか。―――――――うぷっ」


乗り物酔いである。あんな事をしてソブラストライト大陸を騒がせてなにのんきに乗り物酔いになってんだと言いたくなるが、当の本人は無自覚だから仕方がない。

このまま平和にヴェイング大陸に流されるだけである。


「ふーすっきりしたぁ。しっかしアレだな。じつに暇だ!」


この世界には娯楽が無い。いやこの船に無いだけで小説などはあるだろうが、とにかく暇をつぶすものが周りに無い。

ジャ●プでも置いていてくれていたら、酔いなんかも気にせずに船旅が出来ただろうに。あれ結構愛読してたんだけど、もう読めないんだよな。


(このまま元の世界に戻れなかったらな)


そういえば、俺はどうしたいんだろうか。と考えるまでも無かった。

あの世界は娯楽とか好きなものを捨てる価値がある位腐ってた・・・・。今更戻りたいわけがない。カナンなんていう結構親しい人間にも出会えたし。

あの世界では、俺の力が祟ってどう足掻いても出来なかった友達みたいな関係だ。こっちは逆に捨てたくない。


「お?」


俺が昔の事を考えて物思いにふけっていた時、不意に船尾の方からドシーンと大きな音が響いてきた。船も少し揺れる。


「これは、なにかあったのか?」


その匂いの元に急行することにした。




船尾まで行くと、人がざわざわとひしめき合っていた。円形に集まっているから恐らくなにかを取り囲んでいるのだろう。俺もその中に入るとこにする。

最初こそは集まっている人に押されて見ることが出来なかったが、俺の力で少しずつ退かしていった。嫌な顔もされたが、まあ興味があったのだ。

中央に行くと、そこには女の子がひとり座っていた。

髪の色は綺麗な白。首筋の肌の色からすると相当な美への執念を感じる様な気がする。それに服装も膝までの長さがあるワンピース。髪から服まで白だが、似合っていると言っていいだろう。色の配色なんて気にしないでも良いくらい女の子は可愛いのだという印象を受けた。

取り敢えずなにがあったのかを身近な奴に聞き出すことにする。


「なにがあったんだ?」

「ああ。なんかこの子が空から降ってきたらしい」

「空からぁ?」


にわかには信じがたい。だが、俺は改めて女の子を見ることで理解する。なんと女の子の背中には翼の切れ端の様なものが両肩の真下にひとつずつ付いていた。


天使族エンジェル・・・・・?」


確かカナンに教えてもらった世界常識の中に、この世界に住んでいる種族のことがあった。

この世界は多種族で回っているらしい。人間族、獣族、昆虫族、水生族、地生族、天使族、妖精族、宇宙族、魔族( 魔物)。ひとつの種族の中でも数十の民族に分かれるのだが、このさいそれはどうでも良い。この全てが知的生命体であり、ひとつの村や小さな町をつくっていたりする。その中でも天使族、妖精族、宇宙族は他の種族の目に触れることすら稀であるとカナンに聞いた。そのひとりがこんなに近くにいるのだ。翼は無くなっているが。

もうすでに誰かが話を聞いていた。だが、天使族の女の子は怯えていて話をするどころじゃなくなっている。蹲って自分の顔を隠している。


「お?」


女の子が不意に立ち上がった。キョロキョロと辺りを見渡して誰かを探している様だ。

魔力反応が女の子から出ているのが見える。なんか洞窟にいる時に出来るようになったのだ。あの時は盗賊程度の小さい魔力だったから話さなかったが。あ、耳が良いのは本当だぞ? 


(ん、なんか変な感じだ)


なにかがくっついてきた、そんな感じだ。恐らくはあの天使族の魔力だ。俺の魔力と同調している。

女の子もそれも狙っていた様に、俺の方に寄ってきた。ヨロヨロと危ない足取りで、俺の近くで倒れた。もう少しで床に倒れるところだったが、俺が受け止めた。


「おっと」

(なんだこいつ。俺に用があるのか?)

「なああんちゃん。|天使族(その子)はお前の知り合いか?」

「え、いや・・・・・」


ちょっと待て。俺はこの子の事を知らない。この子も俺の事を知らない。それだけは確実だ。俺は異世界に来たばかりだし。

だがどうだ。この子は知らない俺のところに寄ってきた。それは理由があったからだ。この子と俺の魔力は同調していた。この子も同調させるために魔力を放っていた。俺を、もしくは『闇属性』の使い手を探していたのだ。それがこの船に落ちてきた理由かもしれないし、違っていても誰かが面倒を見ないといけないなら、意識が途切れる瞬間に俺に近寄ってきたこの子は俺が事情を聞いた方が良いのかもしれない。


「まあ、昔旅の途中で出会ってな、その時からの知り合いだ」

「そうか。天使族に知り合いが居るなんて凄いな。珍しいのに」


驚いているが、疑っている様子じゃない。ひとまずは切り抜けた。

まずはこの子を俺の部屋のベットに寝かせよう。





















「んぅ。むぅ・・・・・。はっ!」


夜になって女の子は目を覚ました。目覚めた瞬間女の子は驚いていたが、俺の姿を見て安心した。


「よぅ目覚めたか」


あいさつはしておく。一応俺が預かってる事になっているが、名前も知らない者同士なのだ。


「貴方は、私を保護してくれたんですか?」

「そうだな。一応、だけどな」

「どうもありがとうございます」


ん? そういえば言語が通じる。種族間の言語も同じなのかこの世界は。これじゃいつか魔族と話す機会もあるかもしれないな。


「別に良いよ。俺が勝手にやった事だからな。それはそうと、なんでこの船に落ちて来たんだ?」

「・・・・・」

(だんまり、か。この子にも事情があるだろうし、良いか)

「ま、理由は良いよ。別になんとしてでも知りたい訳じゃないし」

「いえ! 話させてください。同じ、闇属性使いとして・・・・・」


暗い顔になる少女。その顔は、この世のすべてに絶望している顔だ。

知っている。俺はこの顔を知っている。毎日鏡で見ていた。いじめばかり受けて助けを求めた教師に見放される人生に疲れ、世界に絶望していたかつての俺の顔。忘れた訳じゃない。


「私は天使族のリューシアです。―――――いえ、もう天使族じゃないんですけど」

「天使族じゃない? でもその翼は・・・・・」

「そうです。天使族の証である翼、の切れ端です。私はもう天使族じゃないんです」


翼があったであろう場所をさすりながらどんどん暗い声になる天使族の女の子、リューシア。顔もさらに暗くなり、涙が目から溢れている。


「私は、さっき言った通り闇属性の精霊を宿している天使族です」

「うん、俺と同じか」


確か魔法書にも人間には闇属性は確認されていないと書いてあったし、だとしたら他種族でも珍しいのだろう。それが今回の事の発端。


「はい。天使族というのは、ほぼ・・全ての属性の精霊に愛されやすく、多属性の使い手も沢山いたんです。でも私は、生まれた頃から闇属性ひとつ。天使族にとって闇属性というのは嫌悪の対象だったのです。だから私は翼を斬り裂かれ、事実上天使としての権利を捨てさせられて、町を追い出されたのです」

「成程。それはお前ひとりか?」

「はい・・・・・」


ひとりという単語に過敏に反応したリューシア。恐らく追い出された後、ずっとひとりで居たのだろう。


「それはおかしいじゃないか。だって、天使族はどんな精霊にでも愛されやすいって、だから多属性の使い手も居るって言ってたじゃないか。ならなんでお前だけ追い出された?」

「それは「ほぼ」と言ったはず――――――――――というより知らないんですか?」

「知らない?」

「闇属性の使い手は魔族以外には確認されていないんですよ?」

「な・・・・・!」


そんなの聞いていない。魔法書にも書いてなかったし、カナンも言ってなかった。そんな常識知ったこっちゃないんだよ俺は!

とリューシアに言っても仕方ないので、心の中だけで文句を言っておく。でも冷静に考えれば、人間がつくった魔法書だから人間の事しか書いてなくても不思議じゃないか。


「なんで私が闇属性を使えるかは分からないし、だから異端として追い出されたのです。まあ、私が同じ立場だったら、魔族が行使する力を持っている仲間なんて、近くに置いておきたくなかっただろうけど・・・・・」

「追い出された後はどうしてたんだ?」

「天使族の街って空に浮かんでるんですけど。そこから翼は無くなった状態で、丸腰で放り出されたんです。空も飛べないし、どうしようかとも思ったんですけど。闇魔法で翼の代わりをつくっていました。で、さっき魔力が無くなって船に落ちたんです」


途中から笑いながら話すリューシア。でも笑顔ではない。精々苦笑い程度の笑みだ。

そんな彼女を見ていたら、俺は苦しくなった。

俺はリューシアに寄っていって、抱き寄せた。


「馬鹿、こんなボロボロになるまで我慢をするなよ! この狭い船の中大声で泣けとは言わない。けど、せめて口には出して、その街の連中を罵倒して、軽蔑しちまえ! リューシアみたいな小さな女の子は、そん位で丁度良い。正直に思いの丈をぶちまけて、大人に顔をうずくめる位が丁度良い!」


言ってて途中で恥ずかしくなってきたが、止まらない。

この子は俺と同じだ。周りの人に嫌悪され、拒否され、暴力を振るわれる。それをこんな身体も心も小さな子供が我慢してどうする。この世界そのものが結託して、我慢させて苦しめてどうする。別に俺がそうなるのは良い。

『俺と同じ境遇の子供をつくってはいけない』

異世界に来て密かに誓っていた俺の掟。例え知らないところでなにが起こっても、俺がそれを止める。

だがどうだ。結局異世界に来てすぐにこんな子供が出てきている。

それに俺が関与していなくても、未然に防ぐことが出来るようなことじゃなくても、止めたかった。世界がそれを許さなくても、止めたかった。

この子の事は俺のせいでもある。意思を持っていたのに・・・・・。


「街を追い出されて、仲間に突き放されてどうだった?」

「・・・・・寂しかった」

「ひとりの旅はどうだった」

「・・・・・苦しかったし、やっぱり寂しかった」

「行くところはあるか?」


俺の問いに、少しの間を空けて――――――――――首を横に振った。


「だったら最初からこう言うんだよ。『助けて』ってな」


俺の言葉を聞いたリューシアは、俺に埋められていた顔を自分から更に埋めて、小さな声で泣き出した。

それは自分の苦しみを押し殺してずっと我慢し続けてきた女の子の、重たい涙と共に出た、今リューシアが世界に対して出来る精一杯の反抗だった。

その声はしばらく続き、俺とリューシアは誘われるように眠りについた。

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