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五話 世界への順応

今俺は街道を歩いている。地図を見ながらなので歩くスピードは上がらないが、着実に目的地へ近づいている、はずだ。

方位磁石はないと言ったが、この地図には方位磁石が付属していた。

小さなボタンを押すと、立体的に映像化されたものが方角を示してくれる。

これは、電池の様にためられた魔力によって動いているらしい。これも魔付加具の一種の様だ。

よって迷うことなく歩けているので、魔法の練習に使うことにした。


「全部の属性の初期魔法試してみるか。『精霊に願うは火 我が敵を滅せよ ファイア』」


なにも起こらない。

今思ったけど、これ失敗したときに誰かに見られたら恥ずかしくね?


「まだまだ。『精霊に願うは水 我が敵を押し返せ ウォーター』」


なにも起きない。いやいや二回した位で魔法が使えたら誰も苦労しないって。


「『精霊に願うは雷 我が敵を引き裂け サンダー』」


「『精霊に願うは風 我が敵を散らせ ストーム』」


「『精霊に願うは土 我が敵を押し潰せ ロック』」


それから俺は書いてある全ての属性を試した。

俗に言う状態異常系もあったが、全て撃沈。もう俺に自信が無くなってきた。

魔法書もあと1ページだし、俺は異世界補正で魔法が使えないのかもしれない。

期待薄く最後のページをめくると、そこには注意書きがあった。


『ここまでで魔法が使えなかった人。それは貴方に魔法の適性がないか、試していない属性があるということです。全ての属性を試し終えた人は、光属性と闇属性を試してみましょう。

元々属性は魔物を見て知られたものです』


ここで出てきた魔物。

魔物とは、動物に精霊が宿ったものらしい。


『ですが、今まで魔物で確認されたにも関わらずに人間では確認されていないものがあります。それが光属性と闇属性です。このふたつは基本詠唱が決まっていません。自分で決めてください。使えた場合の魔法も人間では確認されていないので、最初に見つけた貴方がつくって下さい。

では、貴方に精霊の加護があらんことを』


光と闇・・・属性。

俺はなぜか闇という言葉に違和感を覚えた。

いや、違和感というより親しみ?親近感?

光は逆に反感を持った。

触れてはいけないというか、俺が携わって良いものじゃない様な気がした。

なにかヒントがないのかと魔法書をパラパラとめくっても、やっぱり基本属性と状態異常属性の事しか書いていない。

諦めて懐にしまおうと思ったが、その時に裏表紙に何かが書いてあった。


『光属性補足:魔物の中では遠距離魔法に特化した属性。人間に宿したものは確認されていないが、同じものだと考えられる。全ての属性の弱点となる。

 闇属性補足:魔物の中では近距離魔法に特化した属性。光属性と同様人間には確認されていない。肉体強化や付加魔法、造形魔法に異様に特化している。普通属性ほどの威力の遠距離魔法なら使える』


遠距離魔法と肉体強化系魔法。

どちらも試してみる価値はあるな。やっぱり魔法は使ってみたいし。

もしどっちかだったら強そうだ。


「でも詠唱が決まってないんだよな」


ひとまずさっきの基本属性魔法の詠唱に習ってみる。


「『精霊に願うは光 我が敵を照らせ フラッシュ』」


なにも起こらなかった。そこにはやっぱりという感情と少しの悔しさがあった。

次は闇属性を試してみる。


「『精霊に願うは闇 我が敵を虚空に消せ シャドウ』」


その瞬間、なにか身体に言い表せない感覚が奔った。

ムズムズと言うか、身体の内側からくすぐられている感じだ。

なにも出なかったから失敗したと思った闇魔法だが、もう一度試してみる価値はあるかと思った。


「『精霊に願うは闇 我が敵を虚空に消せ シャドウ』」


さっきよりも大きいムズムズ。

今思い立ったが、これはアレだ。くしゃみが出そうで出ない感じだ。

だとしたらなにかが俺の魔法が出ることを阻害している。

それはなにかと考える。


(考えられる要因としては詠唱か)


俺が唱えていたのは魔法書に書かれていなかった自己流の詠唱だ。発動出来ない理由としては納得出来る。

だが元々詠唱は自由って話だったし、それでまったく発動できないと言うのも・・・・・。


(試してみる価値はあるが、なにが悪かったのか)


そもそも魔法書に引っ張られた詠唱をしていたのが悪いのかもしれない。

俺は俺で、自分が一から考えた詠唱を。自分にピッタリの詠唱を。


「『我が精霊に命ずる 万物を闇へと化せ ダークエリア』」


技名とイメージも一緒に180度変えた俺の詠唱。

俺の足元から闇が円形に広がっていく。どこまでも広がっていく。

その闇に触れた木や動物は飲み込まれてその姿を消した。近くにあった森にも届き丸坊主にする。闇はまだ広がっていく。やがて広がりを目視で確認できなくなり、感覚で分かる程度になる。

その闇は5kmほど進んで動きを止めた。あくまで感覚だ。


「え、いや。闇属性って光と同じで特別みたいに書かれてたけど、遠距離魔法は普通属性の魔法レベルじゃなかったっけ? この世界の魔法はそこまで危険なものなのか?」


これじゃ今にでも世界が滅びかねないぞ!

今持ってる世界地図は俺が居る大陸がそれなりに大きいことを示しているが、あんな規模の魔法を一般人が連発してたら確実に滅びる。

そう思ったからこそ、冷静になれた。


「単に俺の威力が強すぎただけか?」


魔法に必要なのは強いイメージと精霊と俺の高い信頼。

イメージ力が強すぎたか?


(いやイメージが強いのなら、逆に俺の予想の範疇で収まるはず)


だとしたらアレだ。精霊の強さ。

確かカナンが俺の精霊が結構強そうだとか、そんな事を言っていた。

俺の精霊がなにかも分かっていない状況でこれだけ大規模の魔法が使えるんだ。信頼なんか無視して、精霊が強いのなら納得出来る。


「色々実験していく必要があるな」


これだけの魔法を使えたら悪目立ちするのがオチだ。異世界に来たばかりでそれだけは避けたい。

だったら威力を抑える練習が必要だ。

確かカナンが、この世界にはギルドというものがあると言っていた。ひとつの組織が、世界中の国に根をはっているらしい。金を稼ぎたいならそのギルドに加入しろと言っていた。人に触れる必要があるから下手に注目とかされたくない。


「今日中に港に着きたいんだが、無理そうだな。最低でも明日までかかる」


そう思って、野宿できる場所洞窟を見つけて、俺は眠りについた。











俺を目覚めさせたのは、草を擦るカサカサという音だった。

洞窟に居て遠くの音に気付くのはおかしいのだが、これは昔からだ。

取り敢えず、人が居るのかと思って外に出た。


「? なんだアンタ達」


外にはそれを取り囲む数十人の男達。軽く二十人は超えるだろうか。


「ちっ、ばれちまった」

「どうしてだ。俺たちの隠密行動に気づける奴だったなんて」

「馬鹿野郎。見つかったからには殺るしかねぇだろうが」


なんかこそこそ話していたが、俺にはまる聞こえだ。そもそも洞窟から草むらの音に気付くというのに、その程度の小声で話を聞かれないとでも思ったのかこいつら。

いつの間にか周りの人間を敵認定していた俺だが、こういう話は小説などでよく聞く。


(盗賊か。めんどくさ)


恰好がそもそも分かりやすすぎる。だから逆に疑ってしまうのだが、やっぱり盗賊だ。

腰にナイフを差している奴や、剣を持った奴、ご丁寧にバンダナまでしている。

それにこの人数。結構大規模な盗賊団だ。

取り敢えず方針は決まった。ひとり残して皆殺し(出来るか分からないが)。気になる事も言ってたし。


「なにが目的だ。事と次第によっちゃ、テメェら全員殺すぞ」


やれるだけ脅してみる。できるだけ殺しはしたくないし。ま、仕方ない時は殺るけど。


「テメェは身ぐるみ差し出して俺らに殺されな!」

「やだ」

「命乞いしても無駄だぜ」

「してねえしする必要も無い」

「テメェ俺らを馬鹿にしてるのか! 今自分がどういう状況か理解できてねえみたいだな」

「理解できてるよ。俺の初めての殺しで大立ち回りしないといけないと思うとだるい」


だってこの人数。俺の蹴りにひとりでも耐えられる奴が居るとは思えないが、最低でも二十数回足を振らないといけないじゃないか。

それをだるいって言ってなにが悪い!


「テメェごときに殺される俺らじゃねえええええ!」


あーうるさいうるさい。

そうだ。昨日洞窟で思いついた魔法でも試してみよう!


「『我を闇に誘う加護を与えよ ダークパワー』」


瞬間、身体が軽くなる。それに比例して俺の身体能力も飛躍的に上がっているという実感がある。

不思議と高揚感が生まれた。


「死ねえええええクソ野郎共があああああ!」


足を振りぬくと、周りの風景が一変した。

木は根ごと倒れて、葉っぱが凄い勢いで散る。俺の方に向かってきていた盗賊も、後方に吹っ飛んでいた。風圧だけで、だ。


「はっはぁ! これは想像以上だなぁ!」


ここまでの肉体強化が出来るとは思わなかった。

精々身体を引きちぎる程度だと予想していた。スピッドウルフの時は素の力で30m位転がってたし。


「ひ、ひいぃぃぃ! なんだあの力は!」

「逃げろおおおおお!」

「逃がす訳ねえだろうがあああああああ!」


地面を蹴って逃げる盗賊を追いかける。勿論すぐに追いついて、盗賊の前に立つ。


「うわあ!」

「なんだこいつは!」

「こんな奴が居るなんて聞いてねえぞ!」


気分も良くなってきたし。捕獲の方向で良いかな。

まだひとりも殺せてないが、気絶してる奴もいるし、全員殺したら正直キモくなると思う。


「おらあ!」


地面を思いっきりかかと落としした。

そこからひびが入り、地割れが起きる。その溝に次々と盗賊たちは落ちていく。

そしてひびは俺がさっきまで居た洞窟まで奔り、見事に崩れた。


「いやあ、大漁大漁」


そこには盗賊の肉詰めが出来上がっていた。

ちゃんとひとりは残してある。話は聞かないといけない。


「よ! 俺と話しようぜ」

「くっ」

「あ、拒否権とか無いから。つーか拒否ったら頭潰す」

「ひいっ!」


いちいち怖がって、それでもお前ら盗賊かよ!


「落ち着いて話しできる所ないかなぁ」


ちらっと盗賊を見る。ビクっと身体を震わせ俺の視線の意味が分かったみたいだ。


「こっちにこ・・・・・」

「あぁ?」


近くの木を殴る。それで十分俺の考えを読み取った様だ。


「こっちに来ていただけますか?」

「それで良いんだよ。盗賊ごときが、人様と同等に話せると思うなよ?」

「はいぃ!」

「は! 素直で良い事だ!」




「さぁ、話を聞かせてもらおうか」


目の前には木に縛られた盗賊がひとり。見る人が見れば俺が一方的にいじめてるみたいな絵図らだな。

え、どこに紐なんてあったのかって? ふざけんな。ちょっとしたご都合主義だよ!


「・・・・・」

「ははーん。ここに来てだんまりか。覚悟出来てんだろうな」


木をパンチで倒す、つもりが幹を綺麗に貫いた。予想外のこともあったが、これはお前の頭くらいいつでも潰せるという警告だ。


「・・・・・!」

「あ? 違うってのか?」


必死に首を横に振る盗賊。

まあここまで怯えていて黙秘もないと思うし、不思議だ。

口をパクパク動かしてるし。


「なんだよテメェしゃべれねえのか、ってさっきしゃべってたな」


なら他にこいつがなにも言わない理由ってなんだ?


「俺は・・・・・!」


やっとのことで声を出せた盗賊。だがそれ以上声を出さない。

俺も驚いた。

たった今、盗賊は舌を噛み千切って死んだのだから。


「これは・・・・・想像以上に見ていられないな」


口から血を出し、呼吸が出来なくて苦しんでいる盗賊。まだ死んでいないが、死ぬのはもう確実だ。

俺はこういう時の適切な処置を知らない。

やがて動かなくなった。


(どういう事だ? 情報を漏らさないために自殺するような奴には見えなかったし)


再び盗賊を見る。

そこには力が抜けた、人形の様な人間が居た。


(魔法で誰かに? どっかの組織に動かされていたのなら納得出来る。それをにおわせる発言もしていた)


魔法で操られるというのはいかにもありそうだ。

そうだとしたら、恐らく発動条件は自分たちの情報を漏らそうとした時。その人の意思とは関係なく舌を噛み切らせるって訳だ。


(だとしたら、その組織は結構な大きさか)


調査したいが、今はパスを手に入れるためにバルケイトに行くしかない。

他の盗賊も同じ魔法をかけられてるだろうし。

その他の盗賊のところに行くと、溝から抜け出そうと頑張っていた。ま、結構な深さだから無理だろうけどね!


「『悪には永遠の苦しみを コフィン』」


一気に盗賊を脱出不可能の闇の棺に閉じ込めた。これで、いつかは餓死するだろう。

予想外の妨害にあったな。今日中には港に着くだろうけど、遅れるのは好ましくない。さっさと向かうか。


そこから俺は全力疾走で港に向かった。俺の元の身体能力と闇属性魔法の肉体強化を合わせたら、ものの二時間程度で着いてしまった。意外と道に迷ったり方向が分からなくなることはなかった。

こうなるなら最初からしておけばよかったよ!


「ここが港町か。ま、典型的だわ」


木造の倉庫みたいなのが林立していて、帆船が停泊している。おおむね俺の予想通りだぜ!


(道具屋の類いはないな。さっさと俺の戦闘スタイルを確立するために武器が欲しいんだが)


ある建物はいずれも倉庫だろう。大陸間で貿易もしてるだろうし。

と、ここで俺は重大なことに気が付いた。


「金ねえじゃん!」


どうしようか。金が無いなら船に乗れない。密航は論外。

こうなるならカナンから借りときゃよかった。


(知らない人に金借りたくないし・・・・・)


予想以上に深刻な問題だこれは。

正確にはここソブラストライト大陸とバルケイトがあるヴェイング大陸は繋がっている。だから頑張れば徒歩での移動も可能だ。

だがしかし、ソブラストライト大陸とヴェイング大陸の間にはふたつの大陸があり、相当な距離になる。

それこそ、俺の今日の速度で1ヶ月位は軽くかかると思う。

だからこその船なのだ。

なにか売って金に換えられないのかね。


「すいません。ちょっと聞きたい事があるんですけど」


近くの手ごろで忙しくなさそうな人に声をかけた。

一瞬顔をしかめたが、すぐに立ち止まってくれて話を聞いてくれる。


「この辺りに金になりそうなモン無いですかね。即急に必要なんですが」

「なんだあんた。船でヴェイング大陸に行きたいのか?」

「そうなんだけど」

「やめとけやめとけ。今あそこは荒れてる。見たところ、ギルドの者って感じだな。なんで渡るのか知らねえが、テメェじゃ死にに行く様なもんだ」


親切に俺に忠告してくれる。

そう、親切に挑発っぽく言ってくれた。


「ああ、ありがとよ。でも大丈夫だから」

「だからテメェじゃ行くだけ命の無駄だって」

「それでも良いから、さ」

「ギルドランクはどうせG、なりたてだろ? 俺の善意の忠告は無視しない方がいいぜ」

「・・・・・・・・・・」


なんだこいつ死にたいのかつーか喧嘩売ってんのかマジ殺すぞ頭潰すぞ臓物引きずり出すぞアホかアホなのか俺に喧嘩売るとかあっちの世界の奴らでもしなかったぞあそうかこいつ頭が悪いんだ前人未到の馬鹿なのかそうかそりゃ納得だわ~。


「なあ、最後・・になんで今ヴェイング大陸に行ったらまずいのか教えてくんない?」

「やっと諦めたか。今あそこの街は次々と魔物に襲われてるみたいんだ。それで無くなった街のあるらしい。国のお偉いさんも大急ぎで対策を考えてるんだとよ」

「へぇ~、そら危ないなぁ~」

「俺に感謝しろよ冒険初心者よ」


あぁテメェに忠告されるまでもねえよつーかテメェが死ね俺が殺してやろうかそれとも魔物の餌にしてやろうかいくらでも地獄を見せられるんだぜ調子に乗るなよ!

そこで一旦、俺の意識は飛んだ。































気が付くと、俺の手には金が握られていた。カナンに貨幣の事を教えてもらっていたから、ちゃんと船の代金分あると思う。

それに目の前に居たはずの男はいつの間にかいなくなっていた。


「あれ?」


いまいち状況が呑み込めない。

だがまあ俺の手の中にあるってことは、これは俺の金だと思う。

誰も俺の事を追ってきてないし、周りの人達も俺に見向きもしないから盗んだものである可能性はゼロ。

立ち止まっているのに迷惑じゃないのかな俺。つーか誰も見てくれないって悲しくね?

なんか俺の存在が居ないみたいになってるし。


「でもこれでヴェイング大陸に渡れるってことだな!」


いやぁ良かったぁー。渡れなかったらどうしようかと思ってたし、また野宿になるところだったよホントさ!

取り敢えず、次の船がいつ出るのかを聞きに行こうかな。

あそこに予約するカウンターみたいなのもあるし。


「すんませーん」


誰もカウンターに居なかったから奥に居るのかと思って呼びかけた。

しばらくして出てきた人は、まだ十代後半といった女の子だった。

長く黒い髪をなびかせて、切れ長の目でこちらを見据えている。

日本なら、大和撫子?


「なんでしょうか?」

「あの、次の船っていつ出るんですかね」

「次の船ですか。次は・・・・・・・・・・もうすぐ出ますよ。ご乗船するのでしたら私が」

「あー、お願いします」


元々そのつもりでこのカウンターに聞きに来たんだから。


「それではお名前は」

「リョーカです」

「リョーカ様ですね。職業は?」

「しょ、職業ですか」


どうしよう。俺ってこの世界に来たばかりだから職になんか就いてねえよ。

それに職業ってなにがあるんだ?


(冒険者で良いか。どうせギルドには加入するつもりだし)

「冒険者です」

「冒険者ですか。私の夫も冒険者なんですよ」

「へぇー・・・・・」


夫?

夫!?

ちょ、ええ? この人って十代後半位ってさっき予測したんだが。結婚してるならもうほぼ成人してるんじゃないか?

確かに大人びた雰囲気は出してるけど、ちょっと無理があるような。


「驚いていますね。いつもそうなんですよ。これでも私25歳ですから」

「マジで!」


思わず声に出しちまった。でもそれだけ驚いているということ。この、目の前の人がそれほど幼く見えていたということ。


「そこまで童顔で幼いんでしょうか私・・・・・」

(うわぁちょっと落ち込んでるよ)


フォローした方が良いんだろうか。

でも結婚している人に下手に話しかけて、ナンパみたいなもんだと思われるのもなぁ。


「ま、良いんじゃないんですか? 現に結婚しているみたいですし、貴方の旦那さんも見る目ありますよ」


思わず声に出したが、ちょっと上から目線じゃね?


「ま、それはそれとして」

(綺麗に流された!)

「これで次の船に乗れます。恐らくもうすぐですが頑張って間に合わせてください。それでは良い旅を」

「え、ちょぉ・・・・・!」

「早くした方が良いですねぇ。予定通りならあと30秒で出ると思いますが」


ご親切にどうも! あとちょっとイラッとしました!

ヤケになりながら俺は全力疾走した。いや町の中だったから町で出しても大丈夫な範囲での全力だが。


「なんと足のお速い方なのでしょうか。あれなら10秒とかかりません」


カウンターで見守っていた女性は、ただただ呆然とその背中を見ていた。


全力疾走で船に向かった俺だが、もう船が出ていた。あと三十秒とか嘘じゃん!

でもたった今出発したのだろう、まだ港から全然離れていない。これなら行けるぜ!


「! そこの男止まれぇ!」

「ほら、乗船券はちゃんと持ってるよ!」


乗船券を見せながら俺は跳んだ。

距離は余裕で足りて、無事乗船することに成功する。


「こらぁ! 券を持ってるなら良いが、これからは気をつけるんだぞ!」

「はいはーい分かりましたー」


リョーカの長く続くことになる大陸巡りは、慌ただしく始まった。


数日後。

リョーカが去って行った港町から大量の餓死者が出た。

それは近くリョーカの耳に入るのだが、それが自分のせいだと気付くことは出来なかった。

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