四話 和解
「しかし、俺が他の大陸の密偵って可能性は考えなかったのか?」
「リョーカは怪しすぎた。特別な訓練を受けていればまずそうは思われない」
今は世間話で仲を良くしている。
最初に比べれば結構フレンドリーになったと思うし、警戒が解けたのか呼び方がリョーカになってる。
「ただ、リョーカは帝都に連れて行ってほしいと言っていたな」
「俺はここに来たばかりだからな。色々見て回りたいんだよ」
「だが、私以外の騎士に信用されているとは思うな。さらに、君はアルダイトパスを持っていないだろ? どこのを持っている? 他の国のパスを持っていたら、少し手間がかかるがパスが発行できる」
「あー。持ってねえや」
「んっ! いや、もう驚くまい。リョーカはどうやって生活していたんだ」
「俺は・・・・・。やっぱり話せない」
「うん、リョーカの事情もあるだろう」
カナンが物わかり良い人で良かった。
結構話し方も砕けて来たし、仲もよくなってきた。
こういう状況で友達みたいな奴ができる事は望ましいし、大歓迎だ。
「だがどうするかだな。どこのパスも持っていないとなると、一回西の大陸にあるバルケイトに行くしかないぞ」
「そこでどうするんだ?」
「聖地巡礼するのさ」
「聖地? なんの聖地だ?」
「この世界の聖地さ。昔世界の危機が訪れた時、ある村に住んでいた『勇者』が世界を救ったようだ。その村がバルケイトの近くにあるんだ」
どうせ言い伝えかなにかだろ、と俺は思った。
安易だし面白くないし。元の世界の都市伝説の様なものとして扱うことにする。
「で、その聖地でなにをするんだ?」
「文字通り巡礼して、証明書を貰って来るんだ」
「証明書?」
「ある意味この世界全体のフリーパスみたいなものだ。まあ国のパス発行以外には使えないんだが」
成程。わざわざ聖地を巡礼する奴には悪い奴はいないと。どんな気軽なシステムだ。
盗賊なんかに巡礼に来られたら国を自由に出入りされちまうよ。
勇者の話も信じる気にはなれないし。だがまあしかし、俺にとっては助かるな。パスを発行できるならいつかこの国に戻ってくることも出来る。
「しゃーねぇか。俺はそのバルケイトに向かうことにする」
「そうした方が良いな。地図は・・・・・持っているはずがないな。だったら私の物を持っていけ」
「良いのか?」
「いいさこんな紙切れ一枚。騎士なら無償で配られるからな。あとは、これを持っていけ」
懐から髪を取り出しさらさらとなにかを書き出すカナン。
それを俺に渡してきた。
「これは?」
「アルダイトに来た時に、それを入国管理の者に渡せ。そしたら私が向かおう」
「これを渡したらお前が出てきてくれるのか。そりゃ助かる」
「ただな、出来れば落とさないでほしい」
「なんで?」
「これはな、私のサインと魔力をこれが本物だという証明になっているからだ」
「サインと魔力が?」
「そう。私が後で魔力を注いだら発光するように。こういうものを『魔付加具』という。これは私の魔力がない限り複製は出来ないから、出来るだけ信頼した者以外に渡ってほしくない」
「なるほどな事情は了解した」
そんな凄い物を渡されるなんて、俺は結構信頼されてるな。
俺が言うのもなんだが、カナンは結構見る目がある。事実、俺はこの世界に来たばかりでなにも分かっておらず、必然的になにかを企もうという事もないからな。
「最後にこれだ」
「なんだこの厚い本」
「それは魔法について書かれた本だ。精霊を宿している者なら魔法が使えるからな。お前は多分結構な奴が宿っていると思うのだが」
「旅の途中で練習してろってこと?」
「そうだ。盗賊は殺しても罰は与えられないから気にすることなく魔法を使えるし、魔物に対しての戦闘の時に役に立つ」
「俺に使えるか?」
「詠唱は人それぞれだ。詠唱とはつまり、精霊に祈ることだからな。だが、使える魔法は今のところその本に書いてあるので全部。さらに精霊の属性によって使える魔法と使えない魔法がある」
「うん、国語辞典の魔法版ってところか。それだけ聞ければ十分だ。つーか『今のところ』ってことは、魔法を開発したり出来るって事か?」
「あー、確かにそういう事をして一儲け企む連中はいるが、そういう奴らは大体人生を棒に振る。やめておけ。魔法の作成には強いイメージ力と精霊との高い信頼が必要だからな」
「ふーん、ま、楽しみにしとけ」
イメージ力っていうのはつまり、その魔法の形や効果を頭の中ではっきりと想像するって事だろう。
ゲームや小説など、その手の物を読んでいる俺からしたらその程度簡単だ。日本人は魔法作成に向いてるかもな。
俺の聖霊はまだ分からないが、カナンが結構なものだと言っているのだから大丈夫だ。
「魔法の事は旅の途中でなんとかするさ。俺って結構馬鹿力で体も丈夫だからな。もしもの時はそっちを使うし」
「確かにスピッドウルフを倒したときの力は凄かった。多分あれも精霊の力だろうな」
精霊って魔法を使えるようにするだけじゃなくて、力を増幅させる効果もあったのか。
じゃあ俺はあっちの世界に居た時から精霊が宿っていたことにあるのだが、今考えてもどうせ答えは出ない。
「じゃあこれで一旦お別れだな」
「最後に」
「まだなにかあるのか」
「リョーカには常識が無さすぎる。私が教えたことをちゃんと理解してないとまた怪しまれるぞ」
「ご忠告ありがとよ。――――――――――ま、約束というか、またピンチになったら俺が飛んできて助けてやるから安心しろ」
「そこまで言うか。というか、私はあの位ピンチとは思わん」
「ビームでやられそうになってたのに?」
「う、うるさいなぁ! 私だって商人からの依頼でスピッドウルフを狩りに来たが、本当ならギルドに頼むことだ。だが一回来たからには騎士団が依頼を受けろと上がうるさくてな。仕方なく私が狩りに来たが、本当なら騎士は対人戦に特化しているのだ」
その慌てっぷりを見て少し笑った。さっきまでの堅物オーラが台無しじゃないかコレ。
ここでいつまでも長話をしている訳にもいかないから早く行くけど、いざ別れとなると悲しいものだ。
「じゃ、今度こそさよならだな。また会おうぜ」
「そうだな。君がここに戻ってこれればな」
「はは。物騒な事言うな」
異世界に来て初めて出来た人間関係は、ここでひとまず終わりとなる。
でも、カナンにはまた会いたいものだ。
カナンのヒロインルートはひとまずありません。(再登場の予定はあります)
でも旅の途中で主人公が―――と会うまであとちょっと。