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旋律の闇色勇者(トラペゾへドロン)  作者: 傘ㇻ戯 エンリ
ヴェイング大陸バルケイト篇
18/28

十八話 妖精ってリアルにいてほしい

連日投稿いつまで続くかなぁ。

明日は無理かな出来るかな? でも明日体育祭だしなぁ。だりー。

翌日、俺とリューシア、ミリーの三人は軽く旅支度をして街を旅立った。

え、宿のシーンはないのかって?

いやー、別に語るべきこともないっつうか。世にいうラッキースケベ的現象も起こらなかったし。

ただ飯食って風呂入って寝ただけ?


「さっきから黙ってるけど、考え事?」

「ん、いや違うんだ。個人的な独白みたいな?」


心配そうに声をかけてきたリューシアには心配させないように返した。

まあ大体は本当の事を話したのだが、2割がたは昨日の声について考えていた。


(バルケイトの近くに魔物がいる。やっぱり偵察隊? でも送り出すのが速すぎる。それに『助けて』と声をかけてきた事から身動きが取れない状況にあると推測できる。

 あのキメラが言っていた「あのお方を助けたいだけだ」という言葉。

 俺の今のところの予想は、あのお方はどこかに捉えられている、または封印的なもので身動きが取れない状況にあり、それを助けるために魔物たちが動いている。

 しかしこの仮説だと魔物が街や村を襲っている理由が説明できない。元々魔物は野性的本能で動いているから進行しているついでに、というのも普通なら考えられる。だが、今回の件、魔族が関わっている。あの方を早く助けたいならそんな悠長なことをせずに速く進めばいいんだ)


リョーカが思考を巡らせている内にも三人は進んで、今はバルケイトから一キロといったところだ。

まだまだ草原は広がっている。

どこかに村があるとも思えないが、地図通りに進んでいるのだから間違っているはずがない。

リョーカは不安がるがミリーの道案内を信じて先へ進む。

脇に居るリューシアは歩きながら難しい顔をするリョーカを心配そうに見ているが、声をかける気は無いみたいだ。

いや、声をかけずらいと言った方が正しいか。

なんせ、リョーカはリューシアに聞こえないくらいの小声でブツブツと呟いて、時には目を閉じて考えたりしているから。

構ってほしいお年頃のリューシアはちょっと寂しかった。


(こんな時くらい私に構ってくれてもいいのに……)


こんな時とは今草原をゆっくりと歩いているような時のことを言っているのだが、今は離れたところで魔物が街や村を襲っている。

リョーカがそのことに関して考え事をしているかもしれないと思うと余計に声をかけずらくなった。


(お兄ちゃん最近忙しそうだし、ミリーさんも入ってきて話す事も少なくなったし。前は私を良く可愛がってくれたのに。

 でも仕方ないのかなぁ。今は大変な時なのは私も分かってるし、街に詳しいミリーさんの話を聞かないといけないことも理解してる。

 でもやっぱり寂しい……)


リューシアは今まさに、大好きなお兄ちゃんに恋人が出来た時の心境だった。

お兄ちゃんは昔魔王様だったり、街が大変なことになって解決に向かわされたり。

それらの問題にお兄ちゃんを取られて嫉妬している状態なのだ。


(甘えたい甘えたい甘えたいっ!! お兄ちゃんに飛びついて抱きしめてもらいたい!!)


俯き加減で歩を進めるリューシアは、明らかにお兄ちゃん依存症という病気にかかっていた。






ミリーは今道案内という重大な任務を課せられている。

お父さんであるリョーカに頼まれたことを完遂するべく、地図と睨めっこしていた。

しかしミリーにとって今向かっている村への道案内は地図を見ずとも出来る仕事だ。

勿論依頼で何回も行ったことがある場所であったから。

だから道案内は自分の無意識に任せて、心の中で後ろを歩いているふたりのことを考えていた。


(あのふたり、兄妹だって言ってるけど、実際はそうじゃないっぽい。まず顔が似てないし、でもリューシアがお父さんに向けている敬愛は多分本物。疑いようがない。

 でもまず見た目が似てない。一瞬で分かるほどに、顔が兄妹じゃない。

 リューシアの敬愛が本物なら、答えはひとつ。お父さんがなにかを隠している。でもじゃあなんでリューシアはお父さんを兄妹だと言っているのかとなる訳だけど。それにお父さんはリューシアに無理に合わせてる気がする。

 この旅が終わったら色々聞くことがありそう)


ミリーの見解は実に的を射ていた。

まずリョーカとリューシアが本当の兄妹じゃない事。

それにはなんらかの事情がある事。

リューシアは本当に兄弟だと思っているけど、リョーカはそうじゃないということ。

すべてミリーにはまるわかりだ。


(まぁ、他人通しが始めた兄妹ごっこって可能性もあるけど、到底そうは見えない)


ミリーは考え事をしているリョーカを睨んで体中を舐めまわすように見た。

挙動不審な点は見当たらず、リョーカがミリーになんらかの魔法をかけて記憶か精神を改竄したという最悪の考えを検討したが、構ってくれないリョーカをジト目で見ているリューシアを見ているとそう考えているのが馬鹿らしく思えてくる。


(一見して仲の良い兄妹。しかし実態は……――――――――――まぁ考えなくてもいい。答えたくないことなら無理に聞いたら悪い。それにお父さんには嫌われたくないし)


リョーカがリューシアにさえ秘密にしていること。これに踏み込んだら今の仲が壊れてしまうかもしれないとミリーは思い、追及することはやめることにした。






なんやかんやで歩いて一行は森の中に入った。

地図によると今向かっている村は森の中にある本当に小さな村で、注意して見ないと地図でも分からないほどのところだ。

あと森を一時間半も歩けば村に着くはずだとミリーはふたりに告げた。


「あと一時間半か。まぁ大丈夫だろ。リューシアは大丈夫か?」

「まだまだ全然平気だよー。私だって頑張ってるもん」

「分かった分かったから、抱き付くな歩きづらい」

「私も」

「ちょ、お前もかよ。勘弁してくれ」


体力が底なしにあるリョーカにとっては子どもをふたり抱えた程度では疲れるはずもないが、言った通り歩きずらいので村に着くのが遅れる可能性がある。

それをふたりに伝えると渋々といった感じで自分の足で歩き出した。


仲が良いパーティは森を進んでいく。

そして森に入って三十分ほど経った時にそれは現れた。


「! なんだ?」

「どうした?」

「魔力反応だ。しかし、これは……」


リョーカがどうしたら良いのか分からないといった表情で魔力が感知できた場所に向かって歩き出した。

ゆっくりと前方を警戒しながら歩いて、遂にそれを目にする。


「なんだこいつ」


そこに居たのは、金髪のちっこい女の子だった。衰弱しきった様子で息をハァハァと吐きながら倒れている。

その背中には薄く透き通った四枚の羽根が生えていた。

それも本人の体調を示すかのごとくヘタッとヘたれていた。


「あのー、大丈夫ですか? すみませーん」


リョーカが声をかけたが返事が無い、ただの略)


「大丈夫かよ」

「……この子、魔力枯渇、起こしてる。少し休めば目が覚める、はず」

「へぇ。お前そういう事分かるのか」

「自分で体験した、ことがあるだけ。案外、きつい」

「運びながら歩くか」


リョーカの提案にふたりは露骨に不満を見せるが、それが必要な行為なのだと理解しているからこそすぐに引き下がった。


「ふんっ。お姫様抱っこ意外なら、許可」

「羽が邪魔だから無理だ。おんぶだな」

「胸が当たるからだめ!」

「当たるほどの胸かぁ?」

「「ヒドイ」」

「どうしろってんだよ!」


結局リョーカがおんぶすることにした。


少女を見つけて早10分。少女は「んんっ」と呻きながら目を覚ました。


「お、目覚めた様だな」

「……へっ?――――――――――にょにょっ! 誰ですか貴方様は! なぜわたくしはおんぶされてるのですか!」

「うん、一回落ち着こうか」




「むむ、すみませんです。命の恩人とはつゆ知らずご無礼を」

「いいからいいから。君、名前は?」

「あっしはアリシアというモンでござんす!」

「そう言えばさっきと口調変わってない?」

「実はあっしの村が大変なことに!」

「あ、無視したよね今。意図的に無視したよね」


テンパってるアリシアをなんとか沈めてリョーカは話を聞くことにした。


「で、お前はなんであんなところで寝てたんだ?」

「それはあっしの村がたいへんだという話に直結する話なんすけど。

 実はあっし、見ての通り妖精族でしてね」

「そうだったんだ」

「背中の四枚の羽根、妖精族の特徴」


ミリーは分かっていた様だ。

知ってたのなら早くに教えてくれればよかったんだ。なんとなくそんな気はしてたけどさ。


「きれぇ。触っても良い?」

「どうぞどうぞ。あっしたちの自慢ですからね」


了解を取ってリューシアはアリシアの羽根をいじくり出した。


「妖精族は養成族が独自開発した転移魔法で森を行き来する種族なんですが、今拠点にしている場所を人間たちに襲撃されたんでさぁ。それであっしは助けを呼ぼうと飛んだわけっす」

「その途中で力尽きて、仕方なく地面に不時着ってことか」

「そうなんです。あっしは村長にみんなの命運を託されたのに、情けない限りっす……!」

「おいおい泣くなよ」


どうやら目の前の女の子はマジ泣きしている。

妖精族を襲撃した人間と同じ種族が目の前に立っているのに、助けられただけでここまでの義を通す奴。

悪い奴ではないと思う。


「みんな頑張ってたっす。でもあっしがここで力尽きたせいで、うぅ」

「泣き止めよ。ったく、どうすれば良いと思う?」

「? どうするって、助けるに、決まってる」


おお、流石は冒険者。即座にその答えを出せるとは。


「ロリコンのお父さんなら」

「ちょっとまていいいいいいいいいいいいい!」

「違ったっ?」

「違うわボケ! お前に俺の性癖を語られたくないわ! 俺は胸に理想を追い求めてるんだよ。小さすぎてもダメ、大きすぎてもだめ、形も弾力も考えて、Cくらいが……

 ってなに語らせてんだ思わず言っちまったわー!!!」


しまったーーー!!!

この世界に来てからそっちの管理はなにもしてなかったから話題に出されると思わず語っちまう!

あっちでは暇を持て余してたから時間が有り余って、処理も結構やってたから、くそぅ。


「変態が、ここに居る」

「お兄ちゃん……」

「リューシアまで、そんな目で見ないでくれ」


ミリーに指まで刺されて、リューシアには今まで見た事が無いほどの重い視線を浴び、俺は崩れ落ちた。


「じゃぁ話を進めたいと思います」

「お前はなにしれっとしてんだちょっとは話に触れろ! 無関心が逆に心にダメージ負うわ!」






「さて、リョーカさんも収まったことですし」

「これから妖精たちのところに行く?」

「アハハ、ソウダネ。イコウカ」

「お兄ちゃん元気出して。私は見捨てたりしないよ?」


リューシアも励ましてくれてるし、そろそろおふざけの時間は終わりだな。

やる気にもなってきたし、行動を開始することにしよう。


「で、その妖精の集落?って言ったらいいのか?はどこにあるんだ?」

「ここから真っ直ぐ東の方にありまする。急がないと最悪みんなが皆殺しに!」

「どうやら悠長に構えてる場合じゃないらしいな。急ぐぞ!」


俺は比較的体力のあるミリーを普通に走らせて、アリシアとリューシアの手を取って走り出した。

前はミリーが走っている。俺の全速力にまったく及ばないまでも、それでも人間基準だと速い方だ。


色々無視して一心不乱に走り続けた結果、ものの五分でそこに着いた。

妖精族が居る場所と聞いてもっときれいな場所を予想していたのだが、そこは妖精族がいた痕跡が無いほどに人間に蹂躙された場所でしかなかった。


「なんだこれ」

「ヒドイ……」

「みんなーーー!」


アリシアが駆け寄って行った。

地面に横たわる妖精族と思しき死体に。


「なんでこんな事に……。どうして人間、昔から……」

(昔から?)


昔とはいつからのことを指すのか。

リョーカは些細なことながらもそれが気になった。

だが今はそういうことに気を取られている場合じゃない。


「俺はこのあたり一帯を見てくる」

「分かった」

「怪しい奴が来たら自衛優先。最悪殺す覚悟もしとけ」


それだけ言い残して俺はテントが立っている場所を見て回った。

テントの入り口で血まみれで倒れている奴、上半身が吹っ飛んでなくなっている奴、剣が心臓部に刺さっている奴など、大量の死体ばかり・・・・・置いてあった。


「妙だな」


リョーカは呟きながらあたり一帯を徘徊したが、生存者を確認することは出来なかった。

そもそも、エックスライで感知できる魔力が近くにないということは、そういうことだ。


「やっぱり妙だ」


徘徊しながらつぶやくことしかしないリョーカ。

大体を見回ってミリーたちと合流した。


「誰も来なかったか?」

「うん」

「近くに、気配も無い」

「そうか。後は、ちょっと用事がある」


リョーカは仲間の死体を見て泣いているアリシアの元に歩み寄った。


「どうして、どうして……!?」

「―――――悲しんでるところ悪いが、聞きたいことがある」

「……なに?」

「まずひとつ、ここに居た妖精族は何人だった?」

「えっと、30人くらいかな」

「なるほど。じゃあ次。妖精族はなんでお得意の転移魔法で逃げなかった?」

「それは、ここには転移してきたばかりで、森の魔力を集めていた最中だったから」

「森の魔力?」

「はい。転移魔法は空気中に漂う魔力を少しずつ集めてやっと使用できる物ですから」

「フーン。じゃあ最後、お前が村を出たのは、今から何分前だ?」

「……………」

「沈黙、か。まあ良い。それが答えだな」


リョーカは納得がいったように言葉を出した。そしてはぁと息を吐く。


「案外早く分かっちまったな。将来名探偵になれるかも」

「どういう事? 今の質問は?」

「こんな時にお兄ちゃん冷静すぎじゃないかなぁ、なんて」

「冷静だから見えてくるモンもあるだろ」


リョーカは、リューシアとミリーから見ても悲しそうな顔をしていた。

いや、寂しそうと言い換えた方が良い。

しかしそれはリューシアの嫉妬とは全く違う寂しさ。例えるなら深海のようだ。

リョーカは一拍置いて、そしてゆっくりとアリシアの方を見た。


「なぁ、アリシア」

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