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十五話 ロリコン

特になにもなく平和な回です。

心理空間から出た後、ババアが立っているのもきついぐらいの魔力を放つ俺はなんとかして魔力を抑えようとした。だが、なんとも自分の意思ではしまうことが出来ない。

俺が困ってオロオロしているとさらに建物が壊れていき、ババアから静止の命令が出た。

そうしてババアが一時退却。流石にリューシアとミリーはこの騒ぎに気づいているだろう。この魔力も感じられるはずだ。俺の魔力と気づいているかは分からない。俺の魔力だと知られたら怖がられるだろうか、気味悪がられるだろうか。

そうなったら俺は正気を保っていられるだろうか。


「待たせたな」


一時退場していたババアが帰ってきた。その手には籠手が握られていて、その籠手からも魔力を感じる。それも相当な魔力だ。

あれも魔付加具の一種だろう。いや、今までのとは格段と込められている魔力が違うから魔付加具と言えるかも分からない。


「それは?」

「昔勇者が死ぬ前に残していった、勇者が手掛けた神器じゃ。これをお前にやる」

「神器ってのは?」

「この時代の魔付加具のことじゃ。勇者が生きていた頃と現代のでは効果が違いすぎるがの」


まあ思っていたことをそのまま言われた。

勇者がつくったのならあの魔力は納得出来る。今の俺よりちょっと小さいくらいの魔力がその中には秘められていた。


「これは勇者が、自分がまた生まれた時に自分に渡してくれと言ったものじゃ」

「おい良いのかよ。そんな大事なモン俺に預けちゃって」

「お主はこれを悪用する訳でもあるまい。というより、これを使ってないと逆に危険だからこれをお主にやるのじゃ」

「効果は?」

「魔力を一定量制限する。これを使えばなんとか制御できるじゃろう」


そう言われて俺は自分の手に籠手を装着する。つける瞬間、俺の魔力が吸い取られる感覚が伝わってきたがそれも一瞬の事で、俺の周りに残留していた魔力も空気中に霧散していった。

どうやら魔力を抑えることに成功したようだ。


「うむ。魔力は問題なく制御できている。魔力量はさっきと比べて落ちた。最初の時よりも少なくなっている様だ」

「ふぅ、良かったよ。このままじゃ俺が建物を全壊させるところだった。無くなった魔力って、これを外したら戻ってくる?」

「戻ってくる。あくまでそれは制限するもの。一時的に封じているにすぎん」

「ふぅーん」


その後、この籠手に関する事を頭に叩き込まれた。

勇者がつくったものだが、強度自体はいじることが出来ずにいたので壊さないようにすること。

街中でも森の中でも不用意に外さないこと。外したらまた無制限に魔力が放出されて、自然形態などに影響が出るかららしい。

整備は出来るから、ちょっとでも傷ついたり壊れたりしたらすぐに見せに来ること。


ババアの籠手講座がある程度終わり、やっと外に出ることが出来た。そこには心配そうな顔をしたリューシアとミリーが居て、ババアが俺の事に関する説明をひとこと。


「この者はリョーカだ」

「お兄ちゃん!」

「はぁ」


その言葉を聞いた瞬間、ミリーはため息を吐くだけで居たが、リューシアは立ったまま地面を蹴ってこっちに跳んできた。その衝撃に耐えられずに後ろに倒れる。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん・・・・・!」

「うん、可愛い妹に抱き付かれるのは兄として別に拒否することもないが、一回離れようか」

「嫌だ・・・・・」


これは困ったな。ここまで来たらリューシアが絶対にしていることをやめないのは今までの旅で重々承知だ。一目がないのが救いだが、やっぱり恥ずかしい。


「離れないのか?」

「離れたくない・・・・・」

「良いじゃないか甘えさせても。自分がある程度の事はしゃべったからな。心配だったのだろうたったひとりの兄じゃろう?」


こちらを見て、不敵に笑いながら言うババア。

こいつは絶対理解してやがる。俺とリューシアが出会った経緯も、なんで俺がリューシアのお兄ちゃんになってしまったかも。

ぶっとばしてやりたくなったが、リューシアの為にここは踏ん張る。


「お父さん。どう、だった?」

「俺の中に居た魔王は消してきたよ。しばらくは・・・・・大丈夫じゃね?」

「そう―――――しばらく?」


俺の言葉に機敏に反応する。ミリーの疑問を聞いて、リューシアとババアも「え?」みたいな顔をしていた。


「一時的に精神を弱らせただけだ。俺が魂ごと消す方法なんて知ってる訳ないだろう? なあ、ババア」

「確かに、な。それは自分の失念じゃった」


自分の失態を恥じる様に下を見る。こいつの性格を考えたら当然かもしれない。

だって勇者のパーティに入るようなババアだぞ? なんかその肩書きだけで堅苦しそうだし、義理堅いと言っても良いくらいだと話をしていて思ったし。

なんせ勇者の為に今まで生きてきたりしていたんだから。


「まあ魔力自体は俺の中にあるから、また目覚めてもなんの害もないと思うぞ?」

「さっきの魔力はお兄ちゃんと魔王の魔力が合わさった魔力だったんだ」

「確かにあの大きさは異常でした! さすが師匠! 魔王をぶっ飛ばしてその力まで奪って来るなんて!」


ミリーが鬼人化してしまった。

いきなり来るもんだから、リューシアもババアも驚いている。俺も実際ここまで瞬時に変えられるとびっくりするし、腰抜かしそうになったのはここだけの秘密だ。


なんとかしてミリーをなだめ、俺はこれからの話に移る。


「で、ここで巡礼でもしたらくれるんだろ? 国のパスを発行するためのモンをよ」

「いや、その必要はない。お主には今すぐにやろう」


その言葉に驚いたのは、ミリーだった。取り乱し、その発言に異論を唱える。


「そんな。私は、タダで貰えなかった」

「タダではないだろう。ある意味こ奴は世界を救ったのも同義。フリーパスをやるには十分すぎる功績だと思うぞ」

「私なんか、一日木に、逆さにされて吊るされていた」


その時を思い出したのか、ミリーは目の焦点があっていない様に見える。表情もなにを考えているかやからないほどに無表情。正直ミリーのその有様は、その時にあったことを想像もしたくなくなるほどだった。

逆さに木に吊るされて、一日耐えるなんて芸当、俺は出来る気がしない。出来たとしてもやろうとしないと思う。


「お主がギルドに入ったと言っていたからな。少し根性を試してやろうと思ったのだ」

「でも、あれは度が過ぎていた」

「はいはいもう良いから。でだ、俺はそのフリーパスとやらを貰って行って良いんだな?」

「もちろんだ。自分に二言は無い」


何気にカッコいい事を言う。


「そもそもお主がここに近づいてきた時から決めておった」

「じゃあありがたく貰うぜ」


建物の奥にババアと共に進んだ。そこには厳重に鍵が付いた扉があり、一流のピッキングでも無理かもしれないと思わされた。

その鍵をすぐに開けて、ババアひとり奥に入って行った。付いて行こうとしたら「来てはならん」と一蹴されて、扉の前で待たされている状態だ。

10分ほどすると、奥からババアが現れた。その手には一枚の紙が握られている。


「それが?」

「ああ。これがどこの国のパスでも発行できるフリーパスだ。絶対に失くして、悪人に渡らない等にしろよ」

「信用ねぇな。そんなドジしないって」

「人はまず疑ってから接するものだ。だから自分がここをずっと護っている」


そう言って、紙を渡してきた。その紙には魔力が籠っている。ババアの魔力だ。


「それは判別するための魔力だ。国に入る前に検査されるぞ」


俺の心を見たかのような的確な返答をしてきた。


建物から外に出て、今から出発することをリューシア達に告げる。それは分かってるといった風な反応が返ってきた。

元々俺はなにかトンデモない試験をさせられる予定だったからもっと時間がかかると予測していると思っていると俺は思っていたのだが。俺がフリーパスを貰いに行った時にふたりで話し合ったか。


「じゃあ世話になったな」

「好きな時に寄れよ。ずっと一人というのも寂しい物だからな」

「そのまま孤独死しない様に気をつけろよ」

「口が減らん小僧が」


ババアと別れた後、来た道をそのまま戻って行った。やはりというか、リューシアはまたも途中で疲れたために俺がおんぶしたのだが、来た時よりもさらにきつくなかった。これも魔王を倒したことによる恩恵なのだと実感できた。

ミリーも、ババアの試験に耐えただけの事はある。やはり、行きと変わらずに息ひとつ乱していない。今はその凄さがなんとなく分かるような気がする。


「リューシアも、俺についてくるならある程度の体力は付けないとな」

「お父さんが、鍛えればいい」

「小さい子を鍛えるって響き自体が嫌いなんだよな」

(なんとなくあっちの世界の児童虐待を思い出すから)


最近まで結構な社会問題になっていたことだ。家や学校で、親や先生に暴力を振るわれる。それが原因で自殺、なんてこともザラだった。

下手をしていれば俺も同じ立場になっていたと思ったところで、もう何回も自殺未遂していて、さらにもうすぐで死ぬところだった事を思いだした。

俺ってそこら辺の奴等よりも苦労していると言っていいだろうか。


「じゃあ、私が、鍛える」

「ミリーが? 力の加減は出来るのか?」

「お父さんよりは、マシ」


ま、確かにそうだよね。俺がいくら力を抜いたところで、結局はリューシアの訓練にならなくなるのがオチだ。


「それか、ギルドに依頼を出せばいい」

「それは却下」

「なぜ?」

「下手に他人と会わせる訳にはいかない。俺が近くにいたらダメなわけでも無いけど、四六時中なんてもんは無理だろ?」

「そもそも、お父さんが付いていないといけないこと自体、分からない」


そうなるんだがな、ミリーにもリューシアが天使族である事は言うつもりはない。他人と会わせる訳にいかないのもそれが理由だ。

秘密とは、知っている者が多いほど、他に伝染しやすい性質がある。出来るだけ俺以外には知られない様にした方が良い。


「俺の都合で街を移動することがあるだろうし。―――――ミリーに頼むわ。勿論その時は俺も付き添いな」

「ん、任せて」


静かに返事する。だがなぜかその目には闘志というか、やる気が見えてきた。それはなんでかと考えていると、ミリーが頭を突き出してきた。一瞬頭突きかと思って身構えたが、俺の胸の位置くらいでピタッと止まっている。


「えっと、なにがしたいんだミリー」

「撫でて」

「はい?」

「撫でて、そして褒めて」


こっちを見たミリーが、また頭を突き出してくる。

どうやら本気で言っている様だ。仕方ないので、渋々頭を撫でる事にした。


「よしよし。ミリーは偉いなー」

「ん、ぅぅ・・・・・」


猫の目の様に目を瞑って喜んでいるミリーを見ていると、もっとしたくなった。


「気配りさんだし、料理は上手いしなぁ」

「えへへ。―――――は!」


一瞬だけ情けない声を出したことに自分で気づいて、正気を取り戻す。そのことで、ミリーは恥ずかしそうに身体をクネクネさせて、顔まで赤くなっている。


「あまり、からかわないで」

「お前がやれって言ったからやったんだけどなぁ」


する前とは逆に、渋々頭から手を放す。

ミリーも名残惜しそうにその手を少しの間見ていた。手も伸ばして掴もうとする。こいつも可愛いんだなぁ、と今俺は思ったんだ。娘だが、本当の娘じゃないから大丈夫だよな。これって変態の部類に入らないよな。単に目の前の女の子が可愛いと思っただけだし。


「お父さん、なにか変な事考えてる?」

「え、いや、なにも考えてないぞ! お前が可愛いだなんて絶対に思ってないし!」


馬鹿か俺はさぁ! なんでわざわざ声に出して言ってんだよ! 自爆してんじゃねえか!

ミリーはさらに顔が赤くなってるし。怒りなのか、可愛いと言われて照れているのか。無表情を貫きながら顔を赤くしているから判断しかねる。


「お兄ちゃん、変態」


背中から声が聞こえてきた。

声の主は当たり前の様にリューシア。寝ていると思っていたので。その声を聴いた瞬間、内心声をあげそうになったくらいびっくりした。


「お前いつの間に。違うぞリューシア! 俺はお前たちふたりとも可愛いと・・・・・」


またやっちまったあ! これじゃ、見方帰ればただの誑しじゃねえか、つうかもう俺は学習というものを知らないのか!


「「変態」」


ふたりからの完全シンクロした波状攻撃。

その攻撃は俺の心にクリーンヒットした。兄妹と娘から変態とはっきり言われた。これはもう反抗期どころじゃないじゃないか! 俺ちょっぴり傷ついたんだよ!


「俺は、変態じゃない・・・・・」


「変態だよね」

「変態。もっと言うと、ロリ方向で」


「それだけは言わないてくれえええええええええええ!」


今日、俺は人間の尊厳を失いました。

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