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十四話 VS魔王

こんなに早くリョーカに強敵と戦わせることになるとは・・・・・。

勇者のパーティのひとり、聖地の守り神とも言われている年寄りの唱えた魔法『封護結界』が唐突に崩れた。その中にはひとりの影しか確認できず、ミリーとリューシアはそれがどっちだという気持ちで見ていた。


「・・・・・おばあちゃん?」

「お父、さんは?」


心配そうな声を漏らすふたり。結界から出てきたのがひとりで、それが年寄りの婆さんなら驚いて当然だ。婆さんも神妙な面持ちと言った感じの顔をしている。


「おばあちゃん、お兄ちゃんは!?」

「落ち着け。奥で寝かせておる。そのことについても話せるだけの事は話そう。あ奴がお前たちに隠したい事も、そうしないといけない理由もなんとなく分かったし。それ以外なら話す」

「どういう、事?」

「うむ」


話をきり出してきた婆さんはリョーカの魔法に関する事と、リョーカ自身の事を話した。

リョーカは元は魔王の魂だったこと。闇属性の魔法はその為に、魔王から引き継がれているから使えるのだと言う事。今リョーカは闇属性の魔法を完全にコントロールするために意識は自分の心理の中に居ることなど。最後には、リューシアとリョーカは兄妹だから心配するなと念を押すようにしつこく言ってきた。


「それは本当?」

「本当だ。昔、実際に魔王と対峙した自分のエックスライを疑うか?」

「エックスライ?」

「魔力を見る能力の事だ」

「それで、お父さんは、無事に帰ってくるの?」


「うむ」と婆さんは唸る。

顔もさらに険しくなり、続けて言った。


「分からんな。あ奴次第だ」

「そんな!」

「無責任」

「だが、あ奴を放っておいたら魔王の意識に身体を乗っ取られて世界が滅ぶかもしれん。これは世界の問題じゃ」


婆さんはキッとふたりを睨んだ。その視線に気圧されて黙ってしまうふたり。

その顔を崩さずに婆さんはさらに言う。


「自分は勇者に後の世を任された者。これは自分の義務なんじゃ」


その重い言葉に、リューシアとミリーは黙っていることしか出来なかった。






あれから一時間くらい経っただろうか。リューシアは足をひっきりなしに動かしてオロオロしている。ミリーも顔は落ち着いているが、さっきから組んでいる足を組みなおして組みなおしての繰り返し。

婆さんもその様子をずっと見ていた。


(まだかリョーカ。まさか魔王に負けた訳でもあるまい)


奥に居るリョーカの魔力をエックスライで見てみる。

魔力の流れは穏やかで、一時間前のリョーカとなにも変わりはない。だが、魔王にしてみれば身体を乗っ取った時に魔力の流れを変えずにいることは人が呼吸するほど簡単な事だ。魔力の流れを見ても実際は全然安心できない。

そう分かっていても、リョーカの無事を祈る。


(このふたりを困らせるなよ)


その瞬間、リョーカの魔力が爆発的に底上げされ、奥から大きな音が聞こえてきた。一瞬なにが起こったか分からなかったが、さらに一瞬で後ろに居るふたりに指示を飛ばす。


「急いで外に出ろ!」


リューシアとミリーも異常事態が起きたことは音で分かっていた。魔力の大きさからエックスライを使えない事が逆に幸いだが、近づいて来ればエックスライを使わなくても、嫌でも感じられるほどの魔力。ふたりに耐えられるわけがないと思ったからこその判断だ。

婆さんの声を聴いて急いで外に駆け出すリューシアとミリー。衝撃が奥から来たが、なんとか回避は間に合い吹き飛ばされずにすむ。

その衝撃の中で佇んでいる婆さんは、急いでリョーカの元へと急いだ。


(まさか失敗したのか? くそっ!)


ものの十秒ほどで魔力の発生源に着いた。そこには婆さんでも立っているのがやっと、気持ち悪くなって今にも吐きそうになるほどの魔力が漂っていた。

リョーカの姿も確認できる。

だがリョーカの身体からはどす黒い魔力が天に向かって放出されていて、空気中の黒い粒子に囲まれていた。

これほどまでなのかと思った。


「お主はどっちだ?」


その問いにはリョーカはすぐには答えない。なんと言っているのか分からないと言った風の顔をしている。

その顔はすぐに無くなり、口を歪めて笑った。


「やっと、帰ってこられたぜぇ」


その笑みはリョーカ、魔王どちらとも取れず、婆さんは困惑する。


(こやつは・・・・・)


























俺が降り立ったのは、真っ黒な空間だった。

周りにはなにも無く、誰の気配も無い。ここには俺だけしかいない。


「ここはどこだ?」


ババアが俺の心理に入れるって言ってたから、やっぱりここは俺の心理なのか?


「ここはお前の心理だよ」


俺の問いに答えたのはどこからともなく聞こえてきた声だった。空間に響く声。まるで音楽ホールでしゃべっている様な感じだった。

どこから聞こえたんだと考えていた時に、急に横に人の気配を感じた。


「よう。やっと面を出して話せるときが来たようだな」


横に居たのはやっぱり人だった。

だが、俺はそのこと自体には気を取られない。なぜならもっと驚くべき事があったから。


「―――――俺?」


なんと目の前に居る人は俺と同じ顔だった。この事で大体予測できたのだが、こいつが魔王だろうか。


「俺は元魔王の魂。決着つける時が来たようだな」

「いやその前に。なんで俺とお前の顔が同じなんだよ」

「知らん。俺は俺の姿をなにも変えておらんぞ」

「そうだったか。もし俺に似せてつくったのなら肖像権侵害で訴えるところだったよ」


じゃあ元から同じ顔だったのだ。元が同じ魂だから同じ顔というのも頷ける。

でも魔王ってもっと凶悪な顔かと思っていた。それこそそこら辺に居る魔物や魔族の様な、前に戦ったキメラみたいなのを想像していたのだが、顔はちゃんとした人の顔だった。


「お前って人間なの?」

「元はな」

「いやおかしいだろ、魔族の親玉が人間って」

「なんでだ?」

「そりゃ魔族のトップは普通魔族で一番強い奴とかじゃねえの?」

「それはお前の思い込みだな。実際、過去には獣族の王が、正式な形で人間族だった時もある。それに魔物、それの派生である魔族をつくったのも我だ」

「はぁ!?」


一度に衝撃の事実を連続で告げてくる魔王。正直最初ら辺の話はどうでも良いが、最後の証言には驚かされた。

俺は信じられないと、目線で魔王に訴える。


「闇属性の魔法を使えば、生き物、もっと言えば人間でも隷属させることなど容易な事だ。その儀式の時に生き物にうっかり大きな闇属性の魔力を流したら理性が無くなり狂暴になってな。魔物の始まりはそれだ。そして私は魔物と魔族の軍団をつくった。あ、そういえば、最初の魔族は人間だったな。知的生命体をつかったらいきなり魔族になった」


平然ととんでもない事を言う魔王。魔物は自分がつくっただの、生き物を隷属させるだの、儀式の時にうっかりで魔物をつくっただの。挙句の果てには、人間で魔族をつくった?


(こいつ・・・・・!)

「そんな怖い顔するな。我は結局勇者に倒されたし、魂がまたこの世に戻ってくるのに何百年もかかったのだぞ? 十分な罰は受けたつもりだ」


さらに続けて俺を挑発する様な言葉を並べる。そろそろ限界だが、魔王の力も把握できていない今の時点で特攻しても一瞬で殺される可能性もある。

俺の魔力の根源はこいつから来ているのだ。


「俺が産まれてから、お前には意識があったのか?」

「もしそうだったら貴様が子どもの頃に身体を乗っ取っていたわ。我が目覚めた頃には貴様はもうこの世界に来ていたし、その時には貴様はそれなりに肉体的にも精神的にも強かった。ひとりの人間の身体も乗っ取る事も出来ないとは、長い間寝ていたブランクが相当な様だな」

「お前の力は、俺には及ばないって事か」

「魔力量だけだ。そのうち元の量に戻るし、我には長い間生きて、蓄積した戦いの技能と知識がある。しかしその発言。我を倒そうと言うのか?」


その話を聴けただけでも十分。魔力量で勝てるんなら勝てる可能性もあるって訳だ。これから量はどんどん回復していくみたいだし、今の内に倒しておかないとめんどくさい事になりそうだ。


「その通り。流石俺の・・精神の一部なだけあるわ」


わざと俺のという事を強調する。俺の挑発には当然乗ってきた。


「図に乗るなよ。貴様のではない、我のだ」


うん、予想以上に怒っていらっしゃる。俺ってこんな事で怒る様な小さい器の奴だったのか。これからは気をつけよう。

狙い通りなんだが、ちょっと心外だし。


「はっ、さっきから自分が魔王だの我だの、厨二かぶれもいい加減にしろ! それはお前の顔でもあり、俺の顔でもあるんだ。なんか見てて恥ずかしいだろうが!俺はそんな事言わないし、しない!」

「あぁ? 貴様、我の強さが理解できてない様だな! 貴様など、我が本気になれば一捻りだ。瞬殺できるのだぞ!」

「だからさっきからうるせぇって! その顔そぎ落としてやろうかあぁ!」


お互いに言い合いをしながら近づいていく。最終的には額で相手を押し合い、力比べになった。


「貴様は、大人しく我に従っていろ・・・・・!」

「テメェこそ、俺の首輪に繋がれてるのがお似合いだと思うけどな!」

「ぐ、貴様は」

「テメェは」


「「調子に乗りすぎだあああああ!」」


同時に後ろに跳んで距離を取る。ある程度の距離が間に出来て、同時に詠唱を開始する。


「『我望むは単純なる力 全てを飲み込む闇の波動 ダークウェーブ』!」

「『希望を刈り取る闇の進撃 天より来たれ邪の神託 ヴァニッシュレイ』!」


魔王が手をかざすと、魔法陣がそこに発生して魔法が発動する。それはまるで闇の津波だった。黒い塊が拡散しながら、回避不能の攻撃となって俺に迫る。

だが俺の唱えた魔法がそれを霧散させならが魔王に迫っていく。

俺の魔法は天から俺の闇属性の魔力を光線の様に力を濃縮して落とす、消失の性質を持つもの。

お互いの魔法がぶつかりながら、確実に迫ってきている。

それぞれ、俺は闇の津波に飲み込まれ、魔王は闇の光線に撃ちぬかれる。


(いってぇ! 心理の中なのに痛みはあんのかよ)


魔王も身体の一部を俺の魔法に消されて苦しんでいる。だがすぐに消失した部分は元通りになり、魔王も元気になった。


成程な。結局は心理だから、身体を生やすことも出来るのか。


「クソッ。大人しく我に身体を差し出せばいいものを」

「お生憎、往生際が悪くてね。お前も立ってるし、俺が倒れる訳にもいかないだろ」


自然とニヤッと笑ってしまう。

今からこいつと身体の所有権を賭けて戦う。それも実力は最低でも俺と同じか俺以上。人生の中で初めて感じる高揚感。命がけの勝負は、楽しい・・・


「『古の剣舞 今ここに顕現せよ エクスカリバー』」

(魔王が聖剣とか魔法でつくってんじゃねえよ!)


魔王が、ゲームや小説で聖剣扱いされる剣を平気で具現化しやがったんだ。これ程の矛盾を感じる事がかつてあっただろうか。

闇ってんなら、やっぱり魔剣だろ!


「『光の裏に闇あり 聖と対をなす魔 グラム』」


魔王の手と俺の手に一本の長剣が握られる。

一本は黒光りし、もう一本は黒いオーラを放つ。

俺と魔王はまたも同時に動き出し、剣を打ち合った。俺が斬りかかると魔王が受け流し、魔王が斬りかかってくると俺がパワーで押し返す。どうやら戦闘技術には魔王に負けるが、元々の身体能力は俺の方に軍配がある様だった。

吹っ飛ばされた魔王はすぐに反撃の魔法を、俺は追撃の魔法を放ったら、今度はふたつの魔法は混じり合い爆発する。俺と魔王の間に、俺と魔王を分割する煙が立った。


「はぁ。もう、面倒だな。疲れてきた」

「魔王が聞いて呆れるぜ。体力も無いのに偉そうにするからそうなるんだよ」

「貴様は、なんで疲れないんだ! 我と身体の構造は同じはずなのに」

「知らねぇよ。子供の頃からこれなんだ」

「だが、今は魔力量じゃ俺の方が上だ。『百発百中 シャドウランス』」

(もう魔力が回復したのか!)


魔王が魔法を唱え終わると、鋭くとがった魔力の塊が百の数となって俺に迫る。流石にこれを身体で受けたら俺の身体は穴だらけになってしまう。

そう判断した俺は、すぐに詠唱を開始する。


「『迫り来るモノを飲み込め シールド』」


俺の前には大きな壁が出来る。それにぶつかった魔王の魔法は飲み込まれて消えていく。それに比例して俺の魔法は強力に、大きくなる。相手の魔力を取り込んで強度を増していく盾だ。


「くっ」


小さく魔王が唸ると、盾の陰から飛び出す。すぐに俺に斬りかかってきたが、俺は力を乱暴に振るい吹き飛ばした。

魔王は地面に転げて、こっちを睨んできた。


「片や魔力に秀でていて、片や力に秀でているのか。この勝負に勝ったら、勝ったものが全てを手に入れられる。最高だな」


否、目はこっちを睨んでいても、口だけは三日月形になっていた。簡単に勝てると思っていた相手に苦戦しているからイライラしている、という事だろうか。

俺は逆に反対の考えを持っていた。


「最低だよ。こんな滅茶苦茶な力を持ってたら国にもスカウトされるかもしれないし、暗殺者も来るかもしれない」

「もう勝った気でいるのか。その口、二度と開けないようにしてやろう」


魔王が指をクイッと振るだけで地面から魔法が発動する。俺は発動直後にすぐに跳び退ったが、足の裏に思いっ切り闇色の棘が刺さった。


(無詠唱ってありかよこの世界!)


魔法書にも書いてなかったし、勿論カナンも言っていなかった。そんな事言っていたら、俺はすでに試しているだろうし。


「これは昔、我と勇者しか出来なかった詠唱をせずに魔法を出す技術。威力は落ちるが、発動までの時間が無い」


勇者と魔王しか出来なかったって、それ絶対魔力量の問題だろ! 勇者と魔王の決闘にちょっとだけ興味持ってきたんですけど。無詠唱の押収なんかやってたら仲間の出番なんか無かっただろうに。


「これを初見でここまで避けたのは、貴様が初めてだ。ムカついてきた」

(これ避けたって言っていいのか?)


血が凄い勢いで出ている。さっき魔王がやったみたいに身体を直そうとするが、やり方が分かっていない事に気が付いた。

取り敢えず魔法の要領で肉と皮膚が出来るのを想像してみるが、無反応。


「どうなってやがる・・・・・」

「心理に初めて入った若造に、想像治療など出来るかバカ者が」

「魔法はすぐ使えたってのに」


やばいぞ。俺は足を貫かれていて動けない。魔王は想像治療とか言う奴が出来るらしい。それに魔王は全然元気。

絶体絶命というのはこういう状況の事を言うのだろうか。


「フハハハハ! やっとこの時が来た。魂になり、こんな小僧に生まれ変わり、ようやくここまで・・・・・。これで貴様の役目は終わりだ。今まで身体を育ててくれたことだけは感謝しよう、っと危なっ!」


魔王が長ったらしく話していた好きに詠唱した『アルテミス』の矢を放ったのだが、簡単に避けられた。超速で迫ってくる矢を避けられたのは、やっぱり魔力を感知して放ってくるのが分かったからだろうか。


「舐めるなよ」

「んん、なんだ? 貴様がまだあの矢と魔力で繋がっていて、方向転換させ後ろから我を狙うなんて事する訳でもあるまい?」


見抜かれていた。


「そんな幼稚な手で我を倒せると思ってる訳じゃなるまい。もしそうだとしたら、あんな矢、我の魔力で受け止めてやろう」


でも―――――


「全てじゃない」


俺は笑っていた。本能的というか、喜びからというか。とにかく、理由ははっきり分からないが笑っていた。


「最初に、調子に乗るなって言っただろうがあああ!」


繋がっていた魔力の糸から魔力をさらに流す。

矢は飛翔速度を急激に上げて、どんどん増えていく。威力の同じものが一本から二本、二本から四本―――――。

最終的には一六本になり魔王を襲う。


「なにぃ!」


魔王もこれは予測していなかったのか、驚きの声を上げる。だがやはり魔力量は凄い様で、魔力の壁をつくり矢を受け止める。一本から一五本までは止められた。あと一本は、魔王の魔力の壁を遂に破り、魔王に向かって飛ぶ。


「くそ―――――」


その声は最後まで続かなかった。矢は魔力によって少し軌道を変えて魔王に当たった。

だから死んでいないと思うのだが。


「まだだぁ! 我が想像治療すればこんな傷―――――」


「知ってるから」


俺の声を聴いた魔王は周りを見て、物体化した絶望を目の当たりにして絶望した。

俺はあの時矢だけではなく、弓も一緒に数を増やしていた。それを、矢をセットした状態で、魔王を取り囲むように浮かべていたのだ。

魔王には、上にも横にも逃げ道は無い。


「貴様はぁ、なんで我を拒む! 我がこの身体を使えば世界を取れるんだぞ!」

「興味無いし」

「なぜだ! 世界の王、いや、神になれるのだぞ! 理解しているのか!」

「してるから、興味無いって言ってんの」


俺の身体を乗っ取らせる訳にもいかないし、そもそも世界を手に入れてなにをするんだ? 俺には政治の知識が無いし、まんべんなく人々の生活を楽にする自身も無い。

リューシアとミリーを近くに置いてるのは偶然俺と出会ったからだし、これからもそんな感じで良いと思ってる。実際世界中の全てを個人で護るなんて理想論を言うつもりはない。出会った奴は出来るだけ悩みを解消したいと思うだけだ。目の届かないところの奴はどうでも良い訳でもないが、どうしようもないこともあるのだ。


「そろそろ消えて」

「ま、待て!」

「アルテミス十六連、発射ー!」


魔王の静止を無視してアルテミスの矢を放つ。

中心にいる魔王の元に集まっていくその矢を見ながら俺は思った。


(きっつぅ。俺と同格の奴とか初めてだったよ)


まあいい経験だったから良かったけど。対人戦もこれで安全に切り抜けられるか。


























「やっと、帰ってこられたぜぇ」


俺が俺の心理から解放されて発した最初の言葉。俺がまだ完全に覚醒してない時にババアがなんか言ってきたが聞こえなかった。

さらに周りは黒いオーラみたいなので満たされている。俺から出ていて上に伸びているのは魔力だろうか。天井を突き破って相当な高度に達しているのが感覚的に分かる。

さらに俺の周りには日光を反射して黒く光る粒子が飛んでいる。幻想的で綺麗だ。


「貴様は、どっちだと聞いている」


唐突にババアから声が発せられた。

そしてああなるほどと思い当たった。


「俺だよ俺。リョーカ」

「馬鹿な! この魔力量はなんだ!」

「知らねえよ。意識が戻った時にこうなってたんだ」


これは本当である。俺が目覚めた瞬間、俺の身体が爆発したようになって、俺から黒いものが漏れ出した。俺の魔力のはずだから消そうとするのだがどうも上手く操れない。


「ああ分かったぞ」

「本当か!」

「予想だが、俺が魔王を倒したから、魔王が持ってた魔力が俺に回されたんじゃね? 魔王もそんな事言ってたし」


そうだったら、俺はこの世界でさらにチート存在に近づいたことになる。いや、最初から俺の身体も魔力も高スペックなのだが、魔力方向で言えばもう言い表せないほどになったと言った方が良い。


「なる、ほどなぁ?」

「疑問形じゃねえか」

「仕方ないじゃろう。色々驚くことがありすぎて、どう反応したらいいかわからんのじゃ!」


俺の魔力に突き破られた屋根から、その悲痛とやけが混じった老人の声は広くこだました。




そしてこの日、バルケイトに属する街や村をある噂が駆け巡ることになる。

何者かが勇者を祀った聖地にある建物にいた勇者のパーティのひとりを殺害し、その建物は爆破されたという、とんでもない尾ひれのついた噂が。

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