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十一話 冷静が狂った時

俺は今馬車に揺られている。あの後にグレイとミリーが一緒に倒れたから俺の判断で騎手に頼んで道を進んでもらっている。リューシアは寝息を立てて気持ちよさそうに寝ている。さっきの出来事が嘘の様な穏やかな寝顔。周りもリューシアにつられている様に温かい雰囲気で、鳥がチュンチュン泣いたり風に撫でられて木がザワザワと音を立てていた。


「――――――――――ぬぅ」

「よう。目ぇ覚めたか」

「俺は―――――そうだ! あの後どうなった!」

「別になにも無かったよ。俺がすぐにお前らを馬車に乗せて、出発してもらったからな」


あの後とは、無論魔物の襲撃の事だ。あの戦いのせいでグレイとミリーは疲労によって気絶して、五時間くらい寝ていた。だが俺が予測していたこいつらの強さとはだいぶ違っていたし、魔力だけで過大評価しすぎていたか。


「それにしても現職の冒険者がただの旅人に体力で負けるとは思わなかったぞ」

「うるさいぞ。ギルドに来たらまず先輩への口の利き方を教えてやらないとな」

「悪いが、俺は国王でも多分口調は変わらないと思うし、どれだけ指導しても無駄だと思うぞ? 俺が前住んでた所はそんな大層な身分関係は無かったからな」

「そんなところがあるとは。そこに行ってみたいものだ」


それは無理だよ、とは言えなかった。もちろん俺が異世界から来て、今こうしてこの世界の生活を堪能しているなんて話を信じてもらえると思ってもないし、これからも話さずにこの世界で生きていくから話す必要性も感じられない。

リューシアにはいつか、と思わないでもないが。


「ミリーはまだ目覚めていないのか」

「ああ、リューシアは起きてたがさっき寝たし」

「そうか・・・・・」


グレイはそれ以上話すことは無いと言う様に視線を逸らした。だがその目には俺への憐れみというかそんな物が混じっている様な気がする。

いや分からないんだが。せめてその憐れみの正体のヒントでもと思ったが、まあいつか分かるだろうと思って放置することにする。いや、グレイの目を見たら分かりたく無いような気がしたと言った方が正確だろうか。


「それはそれとして、今どこら辺を走っている?」

「さあな。正確な位置は分からないが、時間的に考えて大体港町とバルケイトの真ん中ぐらいだろうな」

「そんなに眠っていたのか俺は」

「そうだな。そりゃぐっすりと。新人の前でよくもまああんなに気持ちよさそうな顔して寝れるよ」

「くどいなお前。人に嫌われる性格だ」

「自覚はしているよ、今までもそうだったし。まあこの性格だけのせいじゃないんだけどな」

「あの力か」

「ん、まあそんなところだ」


正確には大体が化け物じみたこの身体能力のせいだったのだが。小1の時とかは、俺の力は当たり前と思っていたから、体力テストで楽勝に世界新出したときは周りの教師全員が驚いていたし、ソフトボール投げはもう俺が投げるたびにボール無くなってたし、握力検査とはちょっと力入れるだけでいつの間にか計器が壊れていたりしていた。

そのおかげで最初の頃は全ての部活に引っ張りだこだったのだが、そのせいで皆から嫉妬されていじめが始まる。そこからなのだ、俺の中の世界が壊れ始めたのは。

だからこの世界に来て良かったと思ってる。この力の使い道はあるし、グレイの戦い方を見ていたら、さっきキメラと戦った時くらいの力ならちょっと怪しまれるだけだって大体予測できたし。


「ただの若造と思っていたら結構ハードな人生送ってたんだな」

「俺は別に良いよ。だけどリューシアはあの歳で俺以上にひどい目に遭っているからな。だから俺以上に不便だよ。今は四六時中笑顔ってのも結構見ててきつい」

「そうだったか。お前ら兄弟はどちらも冒険者になるのか?」

「さあな。俺は出来ればリューシアにはしてほしくないけど、したいって言いだしたら止まらないだろうし。俺が冒険者になるのは確実だがな。金も必要だし」


最低限いつか唐突にあっちの世界に戻されるとしたらそれまで、そうで無くてもずっとこっちで生きていくなら金は必須だろうし、稼いでおきたい。


「金、か。金はギルドの規則で渡すことが出来んが、お前がギルドに登録したら就職祝いとして酒場で飲もうじゃないか。もちろん俺の奢りでな」

「お前、良い人だな。ギルドの奴ってもっと実力絶対主義みたいな奴で下の奴には嫌味やらなんやらを言う連中の集まりかと思ったよ」

「ハハハ! そういう奴も居る、というよりそういう奴の方が圧倒的に居るな。比率は7対3の7の方ぐらいだ。実力が無い奴ほど器も小さいからな。俺達からしたらどんどん世間から見たギルドの印象が変わっていくから迷惑してるんだがどうも力で抑える事は出来ないらしい」

「なんでだよ」

「そういう奴らこそ、貴族の連中は扱いやすいのさ」

「なんだ、馬鹿な連中からの圧力か」


だから貴族の連中は嫌いなんだ。世界史の勉強なんかしてたらそんな貴族の話は山の様に出てくるし、あいつらは国民から税を巻き上げるだけの豚だ。

勿論貴族が全員が全員そうだとは言わないが、悪い意味で貴族してる奴らは雰囲気で分かるし。そういう奴らこそ初めて会った時の第一声が「無礼者! 私を―――と知っての狼藉か!」などと言って来るのだ。いや知らねえしとか言い返してやりたくなってくる。帝都に行けばそういう奴らが大勢居るんだろうけどさ。


「やっぱりお前も不毛思うか。権力持った奴は大体そうなるのさ」

「くだらねえ事しようとしたら俺様がちゃんとお仕置きしてやらないといけないな。貴族はどうせ裁判なんかじゃ正しく裁かれないだろうし」

「殺すのか? もしそうなら多分貴族のほとんどを殺さないといけなくなるぞ」

「ちげぇよ。滅多な事がない限りは、な」


理不尽に人を苦しめている様なら俺は自分自身を止められるか分からないが、俺だってただ元凶を殺せば全てが解決するとは思ってないし。まずは謝罪をしてもらおうとするだろう。

あの男たちの時はちょっと俺の逆鱗に尻で触れやがったから殺したがな。


「おい、ちょっと怖い顔してるぞ。大丈夫か」

「おぉ、大丈夫だよ。ちょっと思い出してな―――――そういえばさ、さっき金の話になったら、ギルドの決まりで金は渡せないとか言ってたな。それはどういう事だ?」

「ああそれか。端的に言えば、さっき言ったみたいなギルドの連中が新人から金を巻き上げるのを防ぐためだな」

「それで良好関係間での受け渡しも無しってか?」

「脅してそういう関係を装う可能性があるからな。だから、ギルドでは個人、グループ間での現金の動きは一切禁止。それを犯した者は除名だって決まりになってんだ」

「厳しいんだな。ギルドってのはそういう奴らも居ながら、もうちょっと頭の柔らかい組織かと思ってたよ」

「大人の世界だからな。決まりがしっかりしてないと問題が簡単に起こっちまうのさ」


成程な。この世界も良い意味で俺の期待を裏切っている一面があるようだ。異世界って侮れないって今日学ぶことが出来ました。

あっちの世界の連中もそうだったら良かったんだけどな。


「ちょっとしんみりした話になったな。俺らが寝てる間はずっと起きっぱなしだっただろ? 今度は俺が見張っとくから寝て良いぞ。さっきは魔力切れが起きたから体力が続かなかったが、曲がりなりにも俺はBランクだからな。そこら辺の魔物には負けないから安心して寝てろ」

「フーン。じゃ、安心して眠るわ」


正直言ってあそこまではしゃいだのは今まで生きてきて初めてだったから精神的に疲れてんだよな。肉体とかも明日あたり筋肉痛なってそうだ。グレイの申し出はありがたい。

そうして眠ろうとしたら、提案したグレイからストップがかけられた。


「ちょっと待て!」

「んだよ。自分から寝て良いって言っただろ」

「いや、俺がBランクって聞いて驚かなかったのか? Bランクと言ったら盗賊10人を相手にしても無傷で帰ってこれる様な連中って噂が回ってるだろ?」

「それがどうしたんだよ。お前らの魔力見た時からそんくらい強いとは思ってたし、実際はもっと強そうなランクに居るのかと思ってた。お前がBならミリーはCの上位くらいか?」

「まさに、その通りだ・・・・・」


リョーカの行ったことはなにも間違いが無かった。もちろんグレイはそれについても驚いている。だが他に聞き捨てならない言葉を聞いた。

「魔力を見た」とリョーカが言ったのだ。

「魔力を見る」、「エックスライ」と呼ばれるもので、身体の体積の中の1立方センチメートルの平均魔力指数が一万以上じゃないと身につけられない能力だ。他種族ではその条件を無視して使える奴がザラに居るのだが、人間族は今言った条件を満たさないと身につけられない。そして、今確認されている人間族でエックスライを使える者は、世界に散らばっているSSSランクの中でも少数だけだ。

魔力が見えるということは相当貴重で、遠くに居る者を見つけることも出来るとグレイは聞いていた。


(そういえば、魔物の襲撃があった時も、モンスター達が現れて十数秒でリョーカが現れた。あれはエックスライで感知したから、なのか?)


信じられないという気持ちを持つ。だが、グレイ自身にも心当たりがある以上、新人が見栄を張って行った虚言でもないように思える。そもそもリョーカはエックスライ事態知らない様な反応をしていた。馬鹿なとは思う。だが、さっきグレイが見た弓を具現した魔法、その凄まじい威力とその魔法を発動させた後でも全く魔力切れを起こしていない姿を見ている。さっきの戦闘で確認しただけでも放たれた矢は五発。原理はミリーの銃と同じ様に矢を魔力でつくっているだろうから、エックスライを持っていても不思議ではないと思うグレイだった。


(これが本当なら、こいつは世の中に変革をもたらすかもしれん)


さっきのSSSランクの奴らでさえ、最初から使えた訳じゃない。ギルドで厳しい依頼をこなし、死地を乗り越え、それプラス地道な努力によって魔力量を増やしエックスライを得ているはずだ。

だが目の前ですでに寝息を立てている少年は、こんなに飄々としていて内にトンデモ無い力を秘めている。リョーカは隠してるのだろうか。俺に気づかれたことに気づいただろうか。なぜ隠すのだろうかと考える。そしてさっきの話を思い出す。


(この力のせいで苦しんだのか)


確かにこの歳で、ここまでの力を持っていたら周りの者に怖がられても不思議じゃない。街から追い出されるのも実際文句は言えないかもしれない。大きな力があればすべてを引き寄せる。悪でさえも。


(心の中に留めておくか)


本当ならギルドマスターに報告したいところであるが、本人が隠したいのならそれは間違いだろう。もし話してこの男と妹の身になにかあったら責任が取れるかと聞かれたら、グレイでも流石にNoと答える。

そこまで考えて、あることに疑問を持つ。


(ん、そういえばあんな弓矢をつくるような魔法あったかな)






「弟子にしてください!」


眠りから目覚めた俺を待っていたのは、そんなうるさい声だった。最初は俺に言っているのだと気付かなかったが、明らかに声の向きがこっちを向いていて、音源も俺の耳の近くだ。確実に俺に言っているのだと結論付け、そいつの方を見る。


「・・・・・キャラ変わってね? 声もデカくなってるし」

「スマンな。こいつはそういう性格なんだ」


グレイまでもやれやれと言った感じだ。こうなることが分かっていたようだ。つーかさっき言っていたことがこれなのだろう。

こんな事になるんなら事前に教えとけよ! リューシアも心なしか怒ったような顔してるしさ!


「で、弟子ってどういう事だ?」

「そのままの意味です! 私より強くて、私を颯爽と助けてくれました! 貴方は私の師匠として相応しいお方です!」

「ちょ、分かったから声を張るな。鼓膜が破れる」


俺が嫌な顔をして文句を言った途端、ミリーはその場に両膝を地面に付けて、手をハの字におでこも地面に擦りつけた。


「土下座って、古典的だなこの人・・・・・」

「ホントスマンな。また言うが、こういう奴なんだ。騎士道っていうのか?」

「冒険者なのにかよ」


本来この世界ではギルドと騎士団の仲が悪いそうだ。国と民間人を護ることを誇りにしている騎士団。民間人から依頼を受けて、報酬をもらって問題解決をしているギルド。

勿論国に仕える騎士団が早くに生まれて後からギルドが出来たのだが、騎士団が最初にギルドを毛嫌いし始めて、それにつられるようにギルドも騎士団の事が嫌いになったという。大きな争いや戦争まがいなことは起きてない様だが、街でバッタリ会った時は周りの人への迷惑を考えずに言い合い、喧嘩をしだすほどらしい。

聞いた限りじゃ本末転倒だな。

まあなにが言いたいかと言うと、ギルドにこんなお堅い奴が居るとは思っていなかったということだ。


「はぁ。で、弟子にしてくれ、だったか?」

「はいそうです! あの魔物を一掃する一撃見事でした! 見惚れました憧れました一目惚れしました!」

「途中からなにか違う意味の言葉が聞こえてきたがもうそれは良い。答えは勿論却下だ」

「ええ?!」

「驚くなよ。俺は金欠で、さらに妹とふたりで旅してんだ。ギルドに入るまでは今持ってる資金で行かないといかないし、ギルドに入ってからもなるべく金は貯めておきたい」

「では―――――」

「もちろん、お前の金を使うのは論外だ」


さきに自分の提案をポッキリと折られてしまったミリーは土下座の体勢のままズーンと暗い雰囲気を放ち、見つからに落ち込む。

ここまで落ち込むなら最初から弟子になんかなろうとするなよという気持ちである。


「俺は基本的に、金は貸す分は良いが、使う分には俺の力で手に入れた金しか使いたくない」

(まあこれは虐められていた時、親も適当で放任だったからバイトするしかなく、その時の俺が決めた決まりだが)


その決まりはこの世界でも貫こうと思う。実際本当に他の人に金を借りたら、早く返さないとと思って結局は一日で返せる状況をつくり、借りた意味がなくなる時がある。

だが、ミリーは落ち込んで沈めていたその顔をバッと勢いよく上げると、ある種のドヤ顔で言い放った。


「カッコいい! まさに私の理想の人です!」


俺はズッコケた。拒絶したはずが、逆効果になったのだから苦笑いものである。


「ったく。俺はそんなキラキラした目をされても連れていかんし、お前が落ち込んでも可哀想とは思わない」

「それでも良いです! そばに居させてくれるだけで!」

「嫌だ。俺って出来ればパーティで動きたくないんだよ」


グハァと銃弾に撃ちぬかれたように胸を抑えるミリー。さっき言ったように可哀想だとはこれっぽっちも思っていない。

これ以上は問答したくない。せっかく休んだのに疲れて来たし。


「分かった。勝手に行動はしない。無駄な発言はしない。俺の言ったことに絶対服従。この条件が満たせるなら良いだろう」

(フフフ。これならどんな奴だって・・・・・)

「喜んで!」


ですよねぇ~。

うん、実際は分かってたよ。言い出して三秒位で気づいてたよ。これまでの話を考えたらそんな事は関係ないとばかりに喰いつくと思ってたよ。


「いややっぱり駄目だ!」

「なぜ?!」

「曲がりなりにもお前はCランクの冒険者だ。そんな奴が、ギルドに登録したばかりの奴と一緒に居たら不自然。絶対絡まれるか目立つかする」

「そんな物は逆に見せ付けてしまえば良いんです! 私としても師匠の凄さを知らずに偉そうに絡んでくる奴とか居たら殺したくなるので!」

「じゃあ元から俺と行動しない方が良いな。これでこの話は終わりだ。俺はもう一眠りする」


「まあ待てよリョーカ」


その声の主は今まで傍観を貫いてきたグレイ。


「なんだよ」

「こいつの事情を聴いた後でも良いんじゃないか?」

「事情?」

「ああ。こいつも結構苦労してるんだぞ?」

「苦労だと?」


その言葉に瞬間的に反応してしまうのは俺の性だ。もう条件反射になっている様な気がする。

でも仕方ないだろう。ミリーの歳は見る限りは確実に俺と同じくらい。まあ前までの大人しい雰囲気になったら超大人に見えてくるんだが。

とにかく、俺と同い年でも子供は子供。そんな子の事情や苦労といった単語を聞くと反応してしまう。

グレイがミリーに話して良いか確認ととって言ってきた。


「こいつはな、今ひとり暮らしなんだよ」

「冒険者なら普通だな」

「違う。冒険者になってからひとりになったんじゃない。ひとりになってから冒険者になったんだ」


俺は素直に驚いてしまう。

俺と同い年でCランクなのだ。これまでの上がる時間を考えて、相当な時間をひとりで暮らしてきたことになる。


「へぇ、それで?」

「お、興味持ったな。それでな、こいつの親は貴族なんだが、ちょっとした訳ありなんだよ」


うんうん、それで?


「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・終わり?」

「ん? ああ、後は本人から聞けってね」

「貴様ぁ!」


図ったなこの男! この俺がそんな事で動くと思っているなら早計だぞ!

早計、だぞ・・・・・。


「うむ、どうしよう」

「!」


ミリーの顔が見るからに明るくなった。もうなにかを抱えている少女には見えないほどに。


「ありがとうございます! 私はきっとお役に立てると思います!」

「まだ決めてねぇって!」


どうしようか。連れていっても百害あって一利なしの可能性もある。かと言ってここで俺が定めた決まりに背けるわけない。

ひとまずリューシアと相談することにした。あいつらからは声を拾われないところに行く。


「どうだリューシア。俺はもう連れていっても良いかもと思ってる」

「むぅ・・・・・」

「これは俺だけの旅じゃない。お前にも選択権はある」


頭を抱えて悩むリューシア。うん、可愛いなぁ。

じゃなくて、真剣に悩んでいるのは良い事だ。ただ、ここでリューシアが反対してもミリーに関して言えばそれなりの対処はするつもりである。


「分かった。お兄ちゃんも連れて行くつもりなら。それに、私も友達は作りたいし、ミリーさんはお兄ちゃんを必要として弟子になりたいって言ってるんだよね。だったら私と一緒。私だけでお兄ちゃんをひとり占めするわけにはいかないよ」


ったく、俺の望んだとおりの答えだし、本当によくできた妹だ。ちょっと俺の性格が移ったかな。


「良いんだな」


もう一度問うが頑として首を縦に振る。表情も引き締まっていて(なんでだ?)これ以上なにを言っても無駄だとわかる。


話し合いが終わりミリーを連れていくことになったので、それをふたりに報告した。

そしたらミリーが手がつけられないほどにはしゃぎ、喜んだ。


「あなたはやっぱり理想のひとです! 私の目に狂いはありませんでした!」


うるさい。

俺はあっちの世界では学校で読書ばかりしていたから基本的静かな環境が好きなのだ。俺の周りで騒いでる奴がいたら無意識に睨んでしまうくらいに。

これからはこいつと一緒に旅をしないといけないのか。


「騒ぐな。魔物と戦う前のミリーに戻ってくれ」

「分かった・・・・・」

「切り替え早っ!」


こいつ実際は二重人格なんじゃないか?!と思うくらい瞬時に前のミリーに戻りやがった! 口調も前みたいにため口に戻ってるし。

そこに関していえば有能だな。下らんことだが。


「師匠は、これから、どこに行く?」

「聖地だったかな。そこにちょっと用があってな」

「なんだ? パスを失くしたりでもしたのか?」

「そんなところだよ」


実際は元からパスを持っていないのだが、そこまで素直に話す理由はない。ミリーには俺が異世界人だとばれそうなものだが、グレイは馬車から降りたらもう別行動。ギルドの時以外は赤の他人になるのだから。


「お兄ちゃんは街に入れないの?」

「今のところは。でもその聖地で巡礼すれば良いらしいし」

「え?」

「あ?」

「はっ?」

「なんだよ」

「・・・・・何でもない」


グレイと物凄く短いやり取りをした。「え、こいつなに?」みたいな目で見てくるし、ミリーは目は輝かせていて口は笑っていない。リューシアは全然なにを話しているか分かってないという様に首をコクっと傾げた。


「なんだよ。俺とリューシアだけ話についていけてないだろうが」

「師匠」


ミリーが服を引っ張ってきた。


「師匠は、人間族じゃ、無い?」

「あ? 人間族だよ」


なんだこの意味の分からないやり取りは。ミリーまで変な質問してくるし。


「まあ、頑張れよ。お前なら大丈夫だろうが」

「師匠。生きて帰って来て・・・・・」


なんだこの葬式の時みたいな雰囲気は! 生きて帰って来いって物騒な言葉まで出て来たしさ! 一歩間違えたら死亡フラグだよそれはぁ! 最低俺が苦労するパターンだろうが!


「なんか急に旅が辛くなってきた」

「大丈夫だって。お前ならやれる」

「師匠。自信を持って、鋼の精神で行ってください」

「お兄ちゃん! なんか分からないけど頑張って!」


周りの奴ら全員から励まされるってのは嬉しいんだけどさ。その励ます理由が分からないとここまで不安になるものなのか。


「やっぱ異世界って大変だなぁ」


グレイたちには聞かれないように超小声でぼやいた。

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