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パストラドゥガ・レミニセンス  作者: ラピス
第一章~Changing every day ~
8/34

7.

戦場に出てまず確認したのは狙撃ポイントになりうる地形だった。

このゲームにはまず空と地上の境界がない。

MBSは地に足をつけて戦うこともできるし、空中を自由に飛ぶこともできる。

戦い方は千差万別だ。

地上にも遮蔽物があったように空にも雲という遮蔽物が存在する。

雲は耐久力は高くはないが、衝突した攻撃、弾やミサイルなどを消滅させてしまう。

また斬撃も効果はない。

そのため、空中ではいかに雲を使いこなすかが鍵となったりもする。

また、2分毎に空が入れ替わる。

いわば天候だ。

空の種類にはおおまかに分けると、快晴、晴れ、曇、雨、雪、雷、嵐の7種類だ。

このうちの3つがランダムに選ばれる。

これがこのゲームSeventhSky(七つの空)と名付けられた所以だ。

7つの空を制する天空の王を決めるゲーム、ということらしい。

現在の空は晴れ。

雲は程々で、フィールドも明るく見渡しやすいのが特徴だ。

オーソドックスで初心者用の天候といえる。

そしてはフィールドも初心者向けのオーソドックスなものだった。

草原のステージである。

全体的に見渡しが良く、緩やかな丘陵がいくつも存在するステージで障害物が少ない。

基本的な動きをマスターするならもってこいなステージだ。

ただ、中には森になっている場所もあってそこに敵が潜んでいることもある。

俺は幾つかのポイントを頭の中でマーキングし、回避体制を取る。

そして、一閃の光がこちらへ向かってくる。

回避した直後、ポイントを絞って動き出した。

「こっちからならあそこしかない!」

だが、こちらの戦術は見事の外れてしまった。

「これは…トーチカ!?しまった、嵌められたか。」

その直後に右に大きく旋回する。その隣をまたもビームが通りすぎていった。

トーチカとは文字通り自立砲台である。

トーチカは持ち運べる台数が決まっており、武装の装備数によって増減する。

だが、こいつのトーチカの数は異常だ。

先程からかなり別の方向から何発も砲撃が飛んできている。

少なくともマークした狙撃ポイントのほとんどに設置してあるようだ。

あの無骨なフォルムに装備を全く付けなかったとしてもこの数は持ち込めない。

ちなみにトーチカにも種類はある。実弾タイプとビームタイプ、そして弾数は少ないがミサイルタイプだ。

ミサイルアラートが鳴り響く。

「クソ、なんなんだよ!」

俺は筐体の中で吠えた。

不思議な女の子から受け取った機体がきっかけでこうなるとは誰が予想しただろうか。

いや、あの女の子はわかっていたかもしれない。

だとすれば、あの子は俺を選んだということになる。

ピピーとミサイルのアラートが鳴り響く。

俺は舌打ちしながらすべてをバルカンとソードで切り落とす。

考えるのは後回しだ。先に敵を倒そう。

俺は覚悟を決め、切り込んでいった。

「やろ、トーチカを別にして持ち込みやがったな」

『今頃気づいたか、だがもう手遅れだ』

「ルール違反だぞ!

装備レギュレーション違反だ」

そう、もちろん違法なのだ。

紐で引きずれば持ち運べるのだが、そんなことをすれば装備を無限にフィールドに持ち込めることになってしまう。

『言っただろう、遊びに付き合っている暇はないと

システムに引っかからなければいいのだよ』

よく見ると銀色のものがついているものがあった。

おそらくアルミで赤外線を反射したのだろう。

だからシステムに引っかからなかったのか。

とにかくまずはトーチカをすべて撃破するしかない。

後は敵の位置だが…なんとなく予想はついていた。

俺はビームタイプのトーチカ(ミサイルタイプはさっきので弾数切れのはずだ)をあらかた落とし、上昇した。

雲に向けてバルカンを放つ。

雲はミサイルなどの爆発系を除く実弾は貫通するのだ。

そしてこの雲の近くからミサイルが飛んできていた。

それでここにいることがわかったのだ。

おそらくあそこで俺を倒す気だったのだろう。

『よくここがわかったな

褒めてやろう』

「うるさい、お前にほめられても嬉しくない」

雲から出てきた敵を追撃する。装備はスナイパーライフル一丁のみでミサイルポットなどはないようだ。

ん?

ミサイルポッドがない?

その瞬間、俺の機体が大きく揺れる。

「うわ!?

なんだ!?」

なんとか体制を立てなおすと、そこには2体目のシュトラル・ウォルムだった。

「おい、今度は2体目かよ

とことんルール無視する気だな。」

『なに、これは合法さ』

「飛び入りしたのか」

『そういうことだ

それでは遊びはここまでだ』

飛び入りとは対戦に乱入することである。

これは敵側には通知されず、耐久力は半減された状態でスタートとなる。

これは戦場をイメージしているため、援軍が出来る仕様なのだ。

ただし、その分のハンデがないとならないため、耐久力半分でスタートとなるわけだ。

ちなみに、ゲーセンの暗黙の了解として飛び入りする場合は必ず二人で、2対2の形にするようになっているのだが、俺の方にはもちろん援軍は出ない。

向こうはグルなわけだからな。

むしろ、黒服が占領している場合がある。

2体目のウォルムのミサイルが発射され、1体目のスナイパーライフルの閃光が飛び交う。

俺はシールドを展開し、攻撃をすべて防ぐが、シールドの耐久力はギリギリだ。

俺はまだ使っていないツインバスターを起動する。

背中に装備された二門の砲身が脇の下に回ってくる。

敵の間めがけて発射した。

太い閃光が敵に向かって進む。

ミサイルを叩き落とし、スナイパーライフルのビームを弾いたが、残念ながら外してしまった。

「くそ、どうすれば…」

『こんな時こそ俺の出番だろ!』

という声と同時に表示されたのは援軍マーカーである。

名前はARA-548 シュトゥルム・トーレス。

ARナンバーは近接戦闘用だ。

フレームはこいつもナイトフレーム。

そのAシリーズであるシュトゥルム・トーレスは企業側がSS開始時に発売した機体ですべての機体の基礎となっている。

初心者から熟練者まで幅広く使われている機体だ。

「真也か!?

助かる」

『まったく、やりもしねーのに筐体占領する奴がいたからよ、係員にどけてもらってたんだ』

「さすがに2体は難しいからな

後でなんかおごってやる」

『クローバの新パーツで頼むぜ』

「了解

じゃ、行くぞ

俺の位置はわかるよな?」

『おうよ

バッチリだぜ』

通信を切り、黒服たちへ回線を開く。

「筐体の占領とはマナー違反にも程があるぞ!」

『ほう、そんな奴がいたのかそれは難儀だったな』

やはりとぼけられたか。

そんなやり取りをしている間に周囲の様子が変わってきた。

雲が多くなり始めたのだ。

おそらく曇りの天候だろう。

曇りは遮蔽物である雲が空を覆い尽くし、フィールド全体を薄暗くするものだ。今は時間帯が昼ということもあり、幾分か明るいが、これが夜の時間だったらかなり暗くなってしまう。

先程も言った通り雲は爆発系以外の実体弾で貫通できる。

つまりはこの天候の間は実体弾以外は殆ど役に立たなくなるのだ。

この場合、雲の下で戦うか、中に隠れて実体弾で攻撃するかの二択ができる。

ちなみに曇りの間に雲を破壊し続けると晴れになるらしい。

『なにか来たようだが、まとめて始末してやろうか』

『へっ、ナメんじゃねぇぞ、おっさん!』

と真也と合流した。

『健司!

ミサイル装備のウォルムは頼んだぜ!』

「了解

そっちもしくじるなよ」

そして、戦闘再開。

俺はミサイル装備のシュトラル・ウォルムへと突っ込む。

『私に突っ込んでくるとは、いい度胸だ。しかし愚かだな』

そう通信が聞こえたと同時にミサイルが発射される。

俺はバルカンとソードでかたっぱしから落とし、的に肉薄する。

「そこだ!」

すかさずソードで攻撃したが、シールドで防がれてしまう。

何度でも攻撃を加え、シールドブレイクを狙うが、その前に横槍を入れられてしまった。

『ぐはぁ!?』

という声とともに味方機のシグナルが消失。

どうやら一撃で仕留められたらしい。

「真也…弱っ!」

これで2対1の状況に逆戻りしてしまった。

そしてビームがすかさず飛んできたが、シールドで防ぐ。

しかし、もう一体のミサイルが連続でヒットしてシールドブレイクされてしまった。

「くそ、このままじゃ。そうだ、アビリティ。」

機体にはそれぞれアビリティというものが設定されている。

使用制限は時間内発動や耐久値条件などが設定されているが、なぜだかシェイドには使用制限は存在してなかった。

「トランス!?

変形か?

まあいいや、行くぞ、トランス!!」

その瞬間機体が変化する。

画面に表示されていた手足がなくなった。

『これは…これがシェイドの能力だというのか?』

『まさか変形機構を備えているとは…』

やはり変形だったらしい。とりあえずフルスロットで移動する。

「ぐあ!?」

すると俺の体にGがかかる。

このゲームはリアリティの追求のため、移動速度が一定速度を超えると軽いGがかかるようになっている。

加速性能がすごい。

だがこれでは問題の解決にはならない。

ミサイルアラートがなったので雲に隠れてやり過ごし、トランス状態を解除しツインバスターを起動させ、チャージを開始する。

さっき使って思ったのだが、こいつは起動しているときは他の兵装は使えなくなるらしい。

雲が「破壊」され、敵の姿が見えた時、トリガーを引く。

不意はつけたはずだが、残念ながらまた避けられてしまった。

「クソ、捌ききれない」

『諦めるのだな』

その時、メインモニターの端に援軍マーカーが現れる。

また真也か?

名前は…FHC-666 ヴァンダルギオン。

真也ではない。

確かこの機体は…………。

『助太刀します』

少女の声だった。

「誰だ?

名前は?」

ここにいるはずのない人物の機体だったがために俺は援軍してくれた人に聞き返す。

夜神満空(やがみみそら)です』

「夜神!?

あの夜神か?」

『えっと、あのって言われて思い当たるってことは多分あっていると思います』

ヴァンダルギオン。

FHは高機動戦闘用のナンバーだ。

どの型式でもCシリーズはいわゆるカスタム機のCで世界に一つしかない機体だ。

666というのは文字通りカスタム機の登録番号だが、不吉な数字であることで知られている。

故に彼女と機体の通名は死神と呼ばれていた。

この機体はカスタム機の中でも特異で、足がない。

まあ、見方によっては足にも見えなくはないものがついているが、あれが戦闘中に地面につくことはない。

フレームも独自のものを使用している。

フレーム名はイカロスフレームだったはずだ。

そして夜神満空は天才的な操縦センスの持ち主で、これまでの記録はなんと無敗。

大会で真也とあたったことがあるのだが、先ほどと同じように一撃で落とされていた。

「一応、聞いておくが真也は?

さっき落とされたやつなんだけど」

『その、あの弱い人ですか?

確か私と戦った時にも一撃でしたよね

落とされたすぐ後に筐体から追い出しました』

「そ、そっか」

『とにかくズルは見過ごせない質なので、協力させてもらいます』

「助かる」

短いやり取りを済ませ、敵と向き合う。

「一瞬で勝負かけたいんだけど、できるか?」

『一体だけなら不意打ちで可能です』

「ならもう一体は俺が仕留める」

『分かりました

お任せします』

俺は夜神との通信を切り、黒服たちに弱音を吐く。

「チッ、ここまでか…」

とりあえず弱音でも吐いておいて油断を誘おうかと思ったのだ。

『ふふっ、よくここまで耐えたものだ

それは褒めてやろう

やはり君には過ぎた機体だったようだな』

「ああ、そうだよ

俺にはもったいない機体だよ

だけど、お前らにはもっともったいないんだよ!」

『今さら何---』

そう言いかけた黒服の機体がいきなり吹き飛んだ。

胸部(設定上のコックピット)にクリティカルしたようだ。

俺のいきあたりばったりな作戦が功を奏したらしい。

『なっ!?』

もう一人が驚きの声を上げたと同時に俺は必殺技を発動させる。

必殺技とは文字通りだが、必殺技が存在する理由は運営企業以外の企業もこのSSにプラモを出しているからだ。

いわゆるスーパーロボットには必殺技を持っているロボットも存在している。

それを再現して欲しいという要望が後を絶たなかったのだ。

結果、全機体に必殺技を導入されることとなった。

そして正体不明のこのシェイドにも必殺技は存在していた。

「ツインバスター超高出力モード起動

アームとのリンク、確認」

ツインバスターが展開され砲身が伸びる。

拳が収納され、そのままツインバスターの銃床が両腕にドッキングした。

「スタンバイOK

いくぞ、スターライトサーベル!」

腕とドッキングしたツインバスターから巨大なビームが放出される。

しかしその太いビームは途中で止まり、巨大なサーベルとなった。

そしてそのまま乱舞を開始。

敵を太いビームで切り刻み、止めに串刺しにした。

「そんなバカな…こんなことは…………」

必殺技は基本的に必殺技ゲージというパラメーターがなければ使用不可だ。

ちなみにこの必殺技ゲージを使用することで発動するアビリティも存在している。

俺は応援に駆けつけてくれた夜神とシェイドの性能に助けられ、勝利することができたのだった。

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