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「結構入国審査ってかかるんですねぇ。僕、一人で国から出たことはあっても他の国に一人で言ったことって無いんですよね! いつも師匠が一緒に来てくれてて。その時も王宮魔導師の証を見せたらすぐ入国できるし。僕、誰でもあんなふうにするっと入国できるもんだと思ってましたよ」
結局、城門に着いたのは昼頃だったのに、入国審査が長引いて入国できたのは夕方六時を過ぎた頃だった。
「そんな誰でもほいほい入国させていたら問題があるだろう。しかし、それにしてもこの国の入国審査は時間がかかりすぎではある」
とは言え、この国の人間の、しかも宮廷魔導師見習いが同行しているにしては時間がかかり過ぎではある。
「やっぱり、僕が王宮魔導師証を盗賊に盗られたのが原因なんですかね?」
確かに、こいつは自分の装備品などと一緒に王宮魔導師証を盗賊に盗られてしまっていて、それで少々時間がかかったのも事実ではあるが、幸い門番がフェイトの顔を覚えていたため、フェイトの師匠に連絡を取るだけで済んだのだが。
「それは・・・まぁ、多少はあるかもしれないが。それを抜きにしても、かかりすぎだ。普通、国外の者が入国する場合の審査はかかって三時間程度、同行者に国民がいる場合はその半分。そして、王宮の関係者が同行者であった場合は更にその半分の時間で済むはずだ」
王宮魔導師見習い、しかも王宮魔導師証紛失中が同行していて、通常の二倍の時間。
もしフェイトが同行していなかったら、優に半日はかかっていた、という計算になる。
そして、門番のあの態度。常に警戒をしていた。
この国は結界に守られている、平和な国であるいうのに、この警戒具合は明らかに異常だ。
持ち物検査も、目で確認するだけではなく魔力感知機で一つ一つ呪いが掛けられていないか、変な魔法のかかっているものは無いか、丁寧に確認をしていた。
審査の質問項目も今まで見たことが無いほど細かく、少しでも曖昧な表現をすれば、それについて事細かに聞かれる始末。
観光にも力を入れている国だというのに、ここまで入国がし難いというのには、絶対に理由があるはず。
なのだが、門番は何を聞いても「国の事情で」か、「これが規則なので」としか答えない。
これは絶対、何か厄介なことがこの国で起きていると考えて間違いない。
もしかしたらフェイトに聞けば理由がわかるのかもしれないが、そんな国の厄介事に頭をつっこんでまわるほど俺も暇ではないので、目的だけ済ましたら巻き込まれる前にこの国を出よう、と心に誓う。俺はこの事件に全く興味は無い。起こっているであろう問題も特に知りたくはない。入国審査が死ぬほど面倒だったが、過ぎたことだ。忘れよう。
俺は当初の目的だけ済ませて、とっとと出国をする。
それでこの国とはおさらばだ。
城門をくぐってしばらく行った所で、微妙な違和感を感じた。
薄い膜で、感覚を阻害されているような、そんな感覚。
そういえば、以前立ち寄った国でも同じことがあった。と、言うことは、これは結界によるものだろう。
俺の感覚に異常が出るということは、ずいぶん強力な結界を張っているということになる。
以前立ち寄った国は、他国との戦争状態であったから強力な結界を張っているのも理解できるが、この平和な国が、何故こんな強力な結界を張っているのだろうか。
考え込む俺をよそに、フェイトはぺらぺらとしゃべり続ける。
「なんかものすごく時間かかっちゃいましたね。もう夜ですよ、夜。ここまでくるとほとんど夜です。ってことで、今日は僕の家に泊まりませんか? 父は旅に出ちゃっててなんで居ないんですけど、母は居るんで、今から言えばご馳走は間に合うと思うんです。だから王宮の師匠を訪ねるのは明日にしましょうよ」
フェイトに両手を掴まれ、そのうえぶんぶんと上下に振り回される。
「お前、王宮魔道師証明証を取られたことを、師匠に言いたくないんだろう」
そう言うと、明らかにフェイトの顔色が変わり、動きが一瞬止まった。図星、だな。
「そそそそそそそそんなわけ、ないじゃないですか、やだなぁアインさん、僕はただアインさんもお疲れだろうしなぁと思って・・・・・・それにほら、ココまできたらそれじゃあ宿屋に泊まってくださいって言うのもどうかと思うじゃないですか、そしたらやっぱり僕の家かなぁなんて、ね、ほら!」
「・・・・・・」
なんか、目の色を変えて必死に言い訳をするフェイトが哀れになってきた。
「わかった。今夜はお前の家に泊まって、王宮に行くのは明日にしよう」
「うわぁありがとうございます! で、さっそくなんですけど、僕の家あの角の赤い屋根の家なんです! 先に行って母に知らせてきますね、アインさんは後からゆっくり来てください、あ、この辺商店街なんでこの国のこととか色々話聞いたりできますから、そのへん見てから来てもいいですよ、それじゃあ、先行きますね!」
フェイトはそこまで早口でまくしあげると、百メートルほど先のフェイトの家だと言う赤い屋根の家に向かって走っていった。




