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(3)

「そういえば、アインさんは魔力結晶って結局のところなんだか知ってます?」


 ヴィントクラーデの城門が目視できるところまで二人で歩いてきたところで、不意にフェイトがそう切り出してきた。

いや、正確にはフェイトはここ一時間程、ヴィントクラーデまで同行すると決まってから延々と話し続けてはいたのだが、俺が全く興味の湧かない話だったので全て聞き流して適当に返事を返していたのだ。

つまり、久しぶりに俺の興味が少しは湧く話が一時間話し続けてやっと出てきた、と言うことである。


「ああ」


 魔力結晶。

含まれる要素によって、それぞれ色は違うが、形は宝石の原石のようで、見た目では区別が付きにくい。

もちろん、純度にもよるが強力な魔力の塊であるため、魔導師や魔力を持つ者が見れば一瞬でわかる。

一般的には、魔力を持たない者である騎士がそれを見分けるのは至難の業であり、騎士が魔導師に雇われる理由の一つにもなっている。


「本当ですか! 僕つい最近師匠に教えてもらうまで知らなかったんですよ! アインさんすごいなぁ。えっと、魔力結晶は世界のはざまの神界の魔力が、世界の亀裂からこっちの世界に流れ込んできて、それが集まって固まったもの、なんですよね。僕ただ単に空気中の魔力の要素が固まったものだと思ってたんですよ、びっくりしたなぁ」


「まあ、ざっと言えばそんなもんだろうな」


 しまったと思ったが、時既に遅し。

尋ねた後で、自分が話さなければならない状況を自分で作ってしまったことに気付いた。

あまり話すのは得意では無いし、ついうっかり話す気の無かったことを話してしまう可能性もあるというのに。

こいつのペースに乗せられたとは言え、自分の迂闊さに腹が立つ。


「え、他にも何かあるんですか? ざっとって事はもっと色々あるってことですよね? 僕が聞いたのはそれだけだったと思うんですけど。何か知ってるんですよね、知りたいなぁ、教えてくださいよ!」


 ああ、やっぱり。

 話さざるを得ない状況になりかけている。だが今ならまだ間に合うかもしれない。


「いや、大した事じゃない。から別にお前が聞きたいような話じゃない」


 と、早口で言うが、俺を見つめるフェイトの目はきらきらと輝き、期待に満ちている。

 その雰囲気は昔拾った子犬に似ている。

 あいつの、飯をねだる時の目だ。


「だから、ほら・・・・・・」


「聞きたい、なぁ」


「・・・・・・」


 口は災いの元、とは良く言ったものだ。

ここまで来ると話さざるを得ない、ような気がする。

俺は不本意ながら、渋々と話し出す。


「魔力結晶は、さっきお前が言ったように基本的にはこの世界と、世界のはざまである神界との薄い境い目のわずかな亀裂からすこしずつ漏れ出す神界に溢れる要素、魔力が長い時間をかけて固まったものだ。だから、本当は採れる場所が限られているし、そんなにたくさんあるものではない」


 うんうん、と隣でフェイトが頷いている。


「しかし、今この世界には腐るほどの魔力結晶が溢れている。純度の高いものから、低いものまで、たくさんだ」


「確かに、採れる場所も量も限られてるって言うわりにはたくさんありすぎですね。僕なんかも持ってるくらいだし、商店に行けば小さいものならいくらでも手に入りますよ」


「この世界に魔力結晶が溢れだしたのは、二百年前、天空の神がこちらの世界に、天空の一族の持つ、古の契約以外の方法で呼び出されてからだ」


「古の契約以外の、方法・・・?」


 これについてはやはり全く聞かされていなかったようで、フェイトの頭の上に疑問符が浮かんでいる。


「ああ。ある愚かな魔導師が二百年前に行なった、おぞましい儀式だ。大前提の話として、神の一族達は先祖代々神と契約を交わし、神の一族は神を守り、俗世間から離れて暮らしている。ちなみに一説によると民の一族は神界からやってきた神の血縁者であるとも言われているが、そのへんは定かではないな。この場合の神を守る、というのはこちらの世界からの神界への影響を減らすことで、それは神の一族が神へと繋がる扉の鍵を管理することによって成り立つ。ここまではいいか?」


 フェイトは解ったようなわからないような、そんな微妙な顔で頷いている。


「まあ、大体は理解できました。それで、続きは?」


 いまいち不安ではあるが、先を促されたので話を続けることにした。


「そして、神は神の一族に自分を守る役割の代わりに大きな魔力を授けた。その魔力は鍵を守る為にも民が自らの身を守る為にも不可欠なものだから、まぁ当然といえば当然だ。そして、その愚かな魔導師は民の持つ強大な魔力に目をつけた。民に力を持つに値すると見なされなかった魔導師は、それでも諦めきれずに、色々と考えたんだろう。そして、その方法を思いついた。あいつは、民の持つ魔力を集め、その到底常識では考えられない程の魔力を使い・・・・・・」


 瞼の裏に蘇る、凄惨な光景。

 暗闇。

 光る刃。

 何かの裂ける音。

 悲鳴。

 怒号。

 業火に焼かれる村。


「ちょっとアインさん、どうしたんですか、ぼーっとして」


「・・・・・・っ」


 隣から聞こえたフェイトの声に、我に返る。

 見渡せばのどかな田舎道。

 あの光景は、どこにも無い。


「なんでもない」


頭を振って、あの光景の残滓を振り落とす。

あんなもの、忘れてしまえばいい。思い出したところで、どうなるわけでもない。

今は、俺のやるべき事をするしかないのだから。


「それで、その続きは?」


「とにかく、その魔導師は魔力を集め、無理やり扉を開いた。それが契約以外の方法になるわけだが、その魔導師が言うなれば力ずくで扉を開けたため、この世界と神界の間の壁がきしんで、扉を中心に大きなヒビが入った。もちろんそのヒビは呼び出された天空の神の力ですぐ修復され、今は微小なヒビしか残って無いが、大きなヒビが入ったことは事実だからな。ヒビが入ったときに、むこうからこちらに大量の魔力が流れ込み、それが今ある巨大かつ純度の高い魔力結晶となった。わかったか?」


 フェイトを見ると、難しい顔をして眉間に皺を寄せている。


「えっとつまり、その魔導師のせいで小さなヒビが増えて、そこから魔力結晶が良く採れるようになった、ってことですか?」


「まあ大体そんなところだ。そして、今存在する大きくて力の強い魔力結晶はその大きなヒビが出来たときにむこう側から漏れ出してきた魔力が固まったものだ、という事だ」


「ふうん、なるほど。アインさん、物知りですねぇ! さすがです!何か、見てきたみたみたいに詳しいですね!」


「そんなことはない」


 やっぱり、フェイトと一緒に来てしまったのは間違いだったかもしれない、と今更になって後悔をする。


「あ、アインさん、城門が見えて来ましたよ! 結構長かったですね~、僕もう疲れちゃいましたよ!」


 入国したら謝礼分の魔力結晶をいただけるようだったらいただいて、とっととフェイトと別れて、元々の目的の方をとっとと片付けて、早いところ国をでよう。

こいつと一緒にいると碌なことが起きそうもない。


「ああ、そうだな」


 そして、これ以上余計な事は言うまい、と固く心に誓った。


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