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(1)

「うわぁ! やめてください! 」


 図書館のあった町を出て、街道を数分歩いたとき、少年のものらしき声が聞こえた。


「なんだ? 」


 争いごとの雰囲気を感じ、腰にある剣の柄に手をやり、声のする方を覗き込む。声は、街道を右に曲がった先、ここからは木と看板が邪魔でよく見えない場所から聞こえてくる。


「……」


 息を潜めて様子を伺うと、四、五人の盗賊と思しき格好の男と、それに囲まれた金髪の少年がなにやらもめているようだった。

 流れ的に、恐らくさっきの声は金髪の少年のものだろう。


「だからよぅ、有り金全部置いてけって言ってんだ。別に身包みはがそうって訳じゃねぇんだぜ? 素直に金置いてってくれれば後は何もしねぇよ」


 盗賊の一人がしゃがれた声で言う。それに対して金髪の少年は首を左右に振って答える。


「これは僕のお金じゃないんです! だから、渡すわけには……」


 良く見ると、少年は今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「じゃあ今殺されるか? ああ、でもこういう綺麗な金髪の奴って、奴隷商人に売り飛ばすと結構高値で引き取ってもらえんだよなぁ、たしか……顔も綺麗だし、もしかしたらてめぇが今持ってる金より高く買い取ってもらえるかもなぁ?」


 さっきしゃべった盗賊の隣の奴が、ナイフを手に持ちながら少年を脅している。

 助けるべきか、助けないべきか。

 一連のやり取りを見ながら、考える。確かに、あの道は俺がこれから通ろうとしていた道だ。でも、少し引き返して左に曲がっても、遠回りにはなるが目的地に行けないことは無い。

 あいつを助けて、俺に何かメリットはあるのか?

 見たところ金髪でか弱いだけのただの少年である。多少良い物を着ている雰囲気はあるが、如何せんここからはよく見えない。

 謝礼金はさっきの口ぶりからして恐らくもらえないだろうし、そうなると盗賊が言ったように奴隷商人に売りつけるくらいしか使い道は無さそうだが、生憎俺にはそういった事をやる気は無い。

 第一、奴隷商人の知り合いなんかいないし。

 どこをどう考えても自分のメリットにはなりそうも無い。

 別にこれからあの少年がどうなろうと、知ったことか。

 そう結論付けて、引き返そうとしたとき、丁度金髪の少年のうっすらと青みがかった目がこちらを見た。


「助けてください! 」


 そして、事もあろうに少年は俺に向けてそう叫んできた。


「誰だ! 」


 少年の声で盗賊が全員俺の存在に気がついてしまった。


「……っち」


 面倒なことになった。

 心の中でそう呟きながら、とりあえず身を隠していた場所から出て、剣の柄を握り直す。


「別にあんたらが何やってようと、俺には関係無い。ただ、俺はそこを通りたいだけだ」


 俺は盗賊と少年が占領している道を指差す。少年は裏切られたかのような視線をこちらに向けてきたが、知ったことでは無い。


「何も見なかったことにするならここを通してやるぜ? 」


 俺には別に断る理由も無い。


「解った」


 そしてそのまま、少年と盗賊の横の隙間を抜けて行く。

 途中、捨てられた子犬のような目になった少年と至近距離で目があったが、あまり心は動かなかった。少年、それがお前の運命だ。諦めろ。

 そう心の中で言った時、背後に殺気を感じた。


「あっ! 」


 俺が剣を抜いたのと、少年が叫ぶのと、ほぼ同時だった。

 きぃん、と金属と金属がぶつかる音が響き、薄く火花が散る。


「なんてな! よく見ればあんたの方が金持ってそうじゃねぇか! 」


 俺の剣に当たった金属は、盗賊の持ったナイフだった。

 俺に切りかかった盗賊は、剣とナイフが当たった瞬間にバックステップして、もう剣の射程外に逃げていた。


「顔は綺麗だが、黒髪だし、なによりその左目の眼帯が邪魔だなぁ。欠陥品は基本的に売れねぇんだよなぁ」


 喋った事の無い盗賊が口を開く。

 盗賊達は手にナイフや短剣を構え、臨戦態勢に入っている。


「まぁあれだ、金さえ置いてってくれりゃあ命まではとらねぇよ。五対一だ、この状況があんたにとって不利だってことくらい、わかんだろ? 」


 盗賊がそう言うのと、俺が地面を蹴るのは、ほぼ同時だった。

 剣とナイフや短剣だったら、有利なのはリーチの長い剣だ。

 ただ、剣は小回りが効き難い。その隙を、小回りの聞くナイフや短剣で連携して突いてくる予定だったのだろう。

 しかし、俺の剣は盗賊が何かをする前に、盗賊全員の武器を持った方の手を掠め、全員の武器を地面に落とすことに成功していた。もちろん、全員に傷は付けていない。

 髪の毛は全員、伸ばしっぱなしの汚ならしい髪型を綺麗なおかっぱにしてやったが。


「五対一が、何だって? 」


 ステップした先の地点で、なんとなく気持ち悪かったが剣についた盗賊の髪の毛を手で払い落としながら言う。

 盗賊は、やっと自分がもう既に武器を持っていない事に気がついた。そして、どうやら自分たち全員の髪型が変わっているらしいことも。

 焦る盗賊に、剣の切先を向けて続ける。


「次は、斬るぞ」


 盗賊の顔が面白い程急に青ざめていく。


「た、退散! 」


 一番最初に喋った盗賊の一声で、盗賊はすごい勢いで逃げて行った。


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