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 一人二階の書斎に取り残されたわけだが、いつまでもこうやってぼーっとしているのも、何か間抜けくさい。

 不本意かつ了承もしていないわけだが、一応二階を任されたわけだから、ざっとでも見てこよう。

ちらり、と書斎の中の時計を見る。どうせフェイトが帰ってくるまで時間がかかるだろう。その間の暇つぶしだと思えば良い。

 そう結論付けて、書斎を出る。

 左右に伸びる廊下は薄暗く、何か出そうと言えば何か出そうな雰囲気だ。

 魔導師の屋敷なんだから、本当に何か出るかもしれないが、それは置いといて。

 各部屋は廊下の書斎と同じ方向にあるらしく、ドアは片側にしかない。

 もう片方は壁で、等間隔に窓がならんでいるが、何せ森の中なので明かりはあまり入ってこない。

 窓と窓の間に、簡素な灯りがあるが今は付いていない。

 おそらくどこかにスイッチがあるかそれとも灯りをつける呪文でもあるのだろうが、不法侵入者の俺たちには知る由も無い。

 左右を見回して少し考えたが、とりあえず書斎から見て右側の部屋から順番に回っていくことにした。




「ここで最後、か」


 最後の部屋のドアを閉め、書斎の前に戻る。

 部屋は左右各十五部屋、計三十部屋あった。

 開けっ放しになっていた書斎のドアから中の時計を覗き見ると、部屋を回り始めてから丁度三十分経っていた。

 単純計算をすると一部屋一分になるが、中には何も無い空っぽの部屋や、物置のように色々な道具がびっしり押し込められていた部屋もあったので、全部の部屋が均等に一分、と言うわけではなかっただろう。

 そういう意味では、丁度三十分と言うのは良くやった方なのではないだろうか。

 時間的には良くやった、ような気がするとは言え何も見つける事が出来なかったことからすると、仕事としては失敗だったのかもしれない。

 アードヴォークのアの字も見つける事は出来なかった。

 何となく後ろ暗い気持ちでエントランスまで戻ると、そこにはもう既にフェイトが待っていた。


「早いな」


 もしかして、一階の方が空き部屋が多かったり部屋数が少なかったりしたのだろうか。


「アインさんが遅いんですよ!それに、僕探し物は得意だって言ったじゃないですか」


 良くやった方だと思ったのに。思わぬところでフェイトに負けてしまって、何となく落ち込みかけたが気を取り直す。


「で・・・・・・何か見つけたのか?」


 この問いに、さっきまで得意そうだった顔が急に曇った。どこまでもわかり易い奴だ。


「それが、何もなかったんですよ。空き部屋が多かったんですけどね、全部の部屋の床と壁と天井を確認したんですけど、何も無くて。もちろん、何か置いてあった部屋は棚の中とかベッドの下とか色々探しましたよ。でも、アードヴォーク様も居なければ隠し扉みたいなのも見つかんなくて」


「そうか」


 どこかに研究室の入り口がある、という考え方が甘かったか。

 もしかしたら、外の森のどこかに魔法で見えなくした研究室があるのかもしれない。

 そうなると探すのは非常に困難だ。

 どうしたものか。やはり、ここに手紙だけ置いて帰るのが賢明なのではないか。


「あ、でも怪しい部屋は見つけたんですよ!」


「怪しい部屋?」


 顔を上げてフェイトの方を向き、聞き返す。


「はい。すっごく怪しいんです。部屋の中に、棚とか箪笥とかいくつか置いてあるんですけどね、その中身が空っぽなんです。本当に何も入ってないんですよ。で、しかも入り口の向きからして何か特別ですよーって、感じっていうか」


「どの部屋だ?」


 まだまだ続きそうなフェイトの話を無理やり切って尋ねる。


「あ、あの部屋です」


 指差したのはエントランスの丁度右側にある部屋で、確かに扉の向きがおかしかった。

 他の部屋は全部廊下側に扉があるのに、その部屋だけ逆側に扉がある。

 念のためにエントランスの左側の部屋を確認するが、その部屋は他の部屋と同じように廊下側に扉が付いていた。


「なるほど」


 確かに、何か怪しいような気はする。


「調べてみるか」


「あ、でも一応僕一通り調べましたよ?」


 フェイトのその言葉は無視して、その怪しい部屋の扉を開ける。

 確かに、不規則に棚や箪笥が置いてある部屋だ。確認のため一応引き出しの中などを確認するが、何も入っていない。

 床、壁、天井を見回すが、何か魔方陣が書いてあったりスイッチがあったりということは無さそうだ。

 そうなると、思い当たる節が一つだけ。


「何してるんですか?」


 フェイトのその問いには答えずに、部屋の中を歩き回る。

 コツコツコツ、コツ、コツ。靴音が響く。

 コツコツコツコツコツ・・・・・・コン。


「・・・・・・」


 コンコンコンコンコツッ。


「アインさん?」


 突然その歩みを止めた俺を不審に思ったらしく、フェイトが心配そうに声をかけてくる。


「ここだな」


 そして、床を指差す。

 部屋のほぼ真ん中にある、棚の周辺の床。

 ここだけ周囲の床と音が違う。

 恐らく、下に空洞があるのだろう。そしてわざわざその上に棚が乗っているということは、恐らくこの下に隠し通路があると言うことだ、と思う。


「邪魔だな」


 床をひん剥くのに、とりあえず邪魔になるのがこのカモフラージュ用の棚だ。

 中に何も入っていないから多分軽いだろうとは思うのだが、いかんせん部屋が狭いのでどこにどう退かすかが考え物だ。


「お前、物を浮かしたりどこかに瞬間移動させたりする魔法使えるか?」


 期待はしていないが一応聞いてみる。


「え?えっと、無理です」


 やっぱり。

 と、なると。


「アインさん?」


 いきなり剣を抜いて正面に構える俺を見て、フェイトが慌てた声を出す。


「下がってろ」


 そう言った次の瞬間には、俺は剣を振っていた。

 一閃、二閃・・・・・・まだか、おまけに、もう一回。


「こんなもんか」


 俺が剣を鞘に戻したときには、もう棚はただの木片と化していた。

 しかし、たかが棚に三回も剣を振らないといけないとなると、まだまだ修行不足だとあいつに言われること間違いなしだ。


「すご・・・・・・い、じゃなくて。じゃなくて!何やってんですかアインさん、人んちの家具ばらしちゃって!なんかただのチップと木材になっちゃってるじゃないですか!僕知りませんよ!」


 勝手に人んちにずかずかと上がりこんできたお前には言われたくない。


「このあたりだな」


 音の変わり目のあたりを、足でぐんと踏み込む。

 と、床が半回転し、そこにぽっかりと穴が開いていた。

 良く見ると斜め下に掘られた穴のような雰囲気の空洞に、木でできた階段が続いている。


「多分、研究室はこの先だな。どうする?行くか?」


 呆気にとられているフェイトに、一応聞いてみる。


「・・・・・・もう・・・棚まで壊しちゃったんだから、行くしかないじゃないですか。アインさんったらめちゃくちゃじゃないですか。後で誤らないと」


 ごちゃごちゃ言いながらも、フェイトは階段に足をかける。と、そこで。


「・・・・・・ちょっと待ってください、アインさん。僕が先なんですか?」


「・・・・・・」


 涙目でフェイトが振り返った。



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