(11)
ぱちぱち、と目の前の焚き火が燃える。
あたりはすっかり薄暗い。
結局、フェイト曰く四分の三と少し、くらいのところまで歩いたところで今日は野宿することになった。
俺はまだ歩けるのだが、フェイトがギブアップしたのだ。
フェイト曰く、もう死ぬ。
当のフェイトは俺の焚き火を挟んだ正面ですっかり寝崩れている。
いびきがうるさいので、さっきつついてみたが全く起きる気配は無かった。
俺はというと、なかなか寝付けずにいた。
そもそも、野宿と言うのは安眠していい状況ではない。
この付近には、フェイトが襲われていたくらいなので賊の類が居るらしい。
魔導師でないただの人間なんてたかが知れているが、用心するに越したことは無い。
たとえ安眠したところで俺は気配で起きられる自信があるが、このいびきのうるさい奴はおそらく叩かれても起きないだろう。
まぁ、こいつが襲われても俺には直接の被害は無いとは言え、こいつの持っている手紙が奪われでもしたら非常に面倒だし、今回の仕事はこいつの護衛なわけだから、ほうっておくわけにもいかないだろう。
そうなると、俺はおちおち寝ているわけにはいかなくなる。と、言うのは建前な訳で寝つきが悪い、というのが正直な話だ。
昨日、昔の夢を見たからだろうか。
とは言え、今日は一応これだけ歩いたわけだし、明日もきっとフェイトのケツを叩きながら歩かなくてはいけないのだ。
ここで寝ておかないと、多分明日は眠気との戦いになる。
そう思って、とりあえず目を瞑った。
「ちょっといいかな?」
突然俺の思考に割り込む声が、どこからとも無く聞こえたかと思うと、次の瞬間には俺は真っ白い空間に立っていた。
どこまでも続く白。上も下も無く、平衡感覚がおかしくなりそうな、そんな空間。
どこかにいるであろう、声の主に答える。
「・・・・・・いきなり何の用だ」
すると、いつからそこにいたのか、それとも今出てきたのか、さっぱり解らないが、気がついたら目の前に綺麗なスカイブルーの瞳を持った、息を呑むほど綺麗な少女が立っていた。
「おや、つれないなぁ、久しぶりだというのに」
彼女は長い赤茶色の髪をかきあげながら、挑発的に口の端だけで笑った。
「久しぶりだからといって人の安眠を妨害して、その上前置きもなしに問答無用でこっちに引っ張ってくるのはどうかと思うぞ」
言っても無駄だとは知っているが、言わずに居られないこと、というのもある。
案の定、彼女は悪びれる様子は無い。
「まあそうカリカリするな。歳をとると僻みっぽくなるというのは、本当のことだったようだな。私には関係の無い話だが」
結局、彼女とは根本的に違うのだ。
こうやって会話をしていると、嫌でも良くわかる。彼女はあくまで彼女であり、俺の捜し求める彼女ではないのだから当たり前と言えば当たり前のことなのだが。
「で、何の用だ。まさか用も無く出てきたわけではないだろ?」
そしておそらく、彼女にこんな口を利けるのは世界広しと言えども俺だけだろう。これを誰にも自慢は出来ないと言うのは残念だ。
「ああ、そうそう、用な。いや、何・・・・・・一つだけ、教えておいてやろうと思ってな」
くっく、と含み笑いをしながら彼女は続ける。
「お前は、会いたかった奴に会えるぞ。それも近いうちに・・・・・・そうだな、明日くらいか。いや、もう日が変わったから今日か?まぁそんなことはどうでもいいか」
「会いたかった奴?」
俺は眉間に皺を寄せる。
「ああ、そうだ。まぁ楽しみにしておけばいい。会わない道は、今のところ存在しないのだからな」
そこまで言って、彼女は背を向けた。
「用はこれだけだ。じゃあな」
「おい、何だそれ!訳がわからん。ふざけんなよ、あんたはいつもそうやって・・・・・・」
次の瞬間には、彼女の姿は無かった。
「・・・・・・ッチ。あぁもう、もっと状況が解らなくなっただろうが。あの人はいつもそうだ」
言いたいことだけ言って、居なくなる。
人に面倒なことばかり押し付けて、消えていく。
肝心なことは決して教えてくれない。
それは彼女たちにとって、当たり前でかつ、それが正しい振る舞いなのだろうが、振り回される方の身にもなってみろ。
まぁ、彼女たちにはそれこそ、『人の身になる』などという概念は無いのだろうから仕方が無いと言えばそこまでなのだが。
「面倒臭いな」
ふぅ、と小さく息を吐いて、目をつぶった。




