色彩
♪〜♪〜
「ん…」
携帯の音で目が覚める。
頭はまだ寝ていたいと言っているが、無理矢理体を起こす。
(6時30分か…)
携帯のアラームを切り、時間を確認すると学校に行くにはまだまだ時間がある。
ゆっくり着替えをして布団を畳むと、のそのそと雨戸を開ける。
いきなり差し込んで来る日光にマイは目をつむる。
どうやら今日は天気がいいらしい。
雲一つない天気。
快晴とは今日の様な天気の事を言うのだろう。
天気記号なら〇だ。
(今日も…か……)
マイはそんな事を考えながら雨戸を全部開けてしまう。
マイにはこの空が灰色に見えているのだ。
いや、空だけではない。
目に写る物のほとんどが灰色に見えている。
特に目が悪いわけでもないのに、だ。
医者によると『色彩感覚とかはあるはずだし、精神的なものなのでは』とのこと。
マイの両親はカウンセラーにも病院の精神科にも何度も足を運んだ。
しかし原因はわからなかった。
両親との仲は良好だし、友人関係や学校生活も問題はなかった。
家では物静かなマイだが、先生によると学校では明るく、いじめなどには無縁らしい。
本人も不自由していないらしいので、両親はしばらく様子を見る事にしている。
朝食を食べ、一通り支度をすると家を出る。
時間は7時30分。
いつもと同じ時間だ。
駅につくといつもの電車とバスに乗る。
ごく普通の生活。
ごく普通の高校生。
ある事を除けば…
「おっはよ〜」
「おはようマイ」
「おはよう」
あいさつをするとみんながあいさつを返してくれる。
マイは容姿はそこそこ、運動と勉強もまぁできるぐらいの少女だ。
でも、誰にでも優しいからみんなに好かれている。
だが、それが本当のマイなのかどうか、誰も知らなかった。
「昨日見た?」
「見た見た。すごい面白かった〜」
昨日のテレビの話や好きな男子の話など、いろんな話をする。
どう見ても普通の高校生なのに…
左手首のリストバンド。
今時の子はよくしている物。
でも、その下には…いくつもの傷跡。
カッターで切った傷。
爪のひっかき傷。
古いものから新しいものまで…
誰かにやられたわけではなく、全て自分でやったものだ。
自分自身を傷付ける行為。
それを人は自傷と呼ぶ。
何故そんなことをするのか?
それはマイ自身にもよくわからなかった。
理由を無理にでもあげるとしたら、血が見たいからとしか言えないだろう。
この灰色の世界の中で血の色だけがはっきりと見える。
他の赤いものはわからない。赤だと認識できない。
すごく不思議だが血の色だけは赤だとわかる。
その時だけは普通の人とあまり変わらない。
マイにとっては自傷は自分という存在を確認するものでもあったから。
自傷をする人は過去になんらかのトラウマをもっている事が多いらしいが、マイはどうだろう。
はっきり言うとマイは過去のことをほとんど覚えてはいない。
だから、よくわからない。
大事な記憶なんてなかったからどこかに捨ててきたのかもしれない。
だが、マイにとってはどうでもよいことだった。そう、自分が今生きている事すらどうでもよかった。
全てに疲れ果ててそんなことなんかどうでもよかった…
ただただ、自分が普通の人とは違うという事を考えていた。
予鈴が鳴っても考えていたのはその事だった。




