36.この桂馬を失うくらいなら、この勝負負けてしまっても構わない! 斑鳩先生最後の事件簿
これで、最後です。
本書のタイトルは、言うまでもなく「この桂馬が取られるくらいなら、この勝負負けてしまってもかまわない」であり、これが斑鳩先生最後の事件簿である。
本作について、語る前に簡単ながらこれまでの事件簿について振り返ろうと思う。
最初の事件簿「冷やしビーフストロガノフ始めました!」は、私の行きつけの中華料理店が冷やしビーフストロガノフを始めたことを知り、店ののれんをくぐった所から始まっている。
「ビーフストロガノフを冷やしてどうする」とか、「中華料理店でなぜビーフストロガノフがでるのか」という素朴な疑問はとりあえず脇に置いてほしい。
○読者への挑戦状
前書きのなかで、この文章が登場したことに読者は戸惑うかもしれない。
だが、すこしばかり、遅かったかもしれない。
しかしながら、フェアプレーを求めるなら、そしてなるべく多くの読者にこの謎を解いて貰うために、私はあえてここまで引き延ばしてきた。
私は、ここで例の言葉を使おうと思う。
私は読者に挑戦する。
「兵藤 歩」を殺したのは誰か?
今さら言うまでもないが、読者は既にこの謎を解くために必要な情報を、第一作「冷やしビーフストロガノフ始めました!」の中で充分以上得ているはずである。
さて、先ほどの読者の挑戦状を眺めた読者は戸惑ったかもしれない。
特に「冷やしビーフストロガノフ始めました」を読んだことのある読者の中からは、
「あの事件は、既に解決しているのではないか?」
などと、いぶかしむ声もあるだろう。
もちろん「豆腐の角による連続殺人事件」は私の小説やニュース等でも示されたような解決を迎えている。
もちろん、私の記載内容には多少の誤脱字を除いて、虚偽の内容は記載されていない。
そして、今この時点で「読者への挑戦状」を送ったことの意味に気がついて欲しい。
そして、第二の事件簿「美味しい洗剤の作り方」は、私の友人が食べることができ、なおかつ美味しい洗剤を開発するにいたったエピソードを小説にするため、友人宅に訪問したところから、話は始まる。
もちろん、「どうして、食用の洗剤を作ったのか」というつっこみがあると思うが、内容については、拙書を確認して欲しい。
拙書を購入できる環境にない場合は、「食べられる洗剤 開発秘話 嫁の料理がおかしい」あたりで検索して貰ってもかまわない。
もっとも、印税の事を考えると購入してもらうのが一番ありがたいのだが。
○第二の挑戦状
「御車優香」を殺したのは誰か。
すでに、答えは「美味しい洗剤の作り方」及びここまでの内容の中にある情報だけで答えを出すことができるはずである。
そう、第一の挑戦状を見事に解いた読者であれば、この謎もある程度簡単に解くことが出来るだろう。簡単な誘導に引っかからなければ。
続けての挑戦状に驚いたかもしれない。
それでも、この時点で挑戦状を出したのには理由がある。
繰り返しになるが、「冷やしビーフストロガノフ始めました」と同様に「美味しい洗剤の作り方」に記載されている内容は事実しか記載されていない。
もちろん、与えられた事実が、真相とは限らない。
その事を頭にいれ、違和感を元にすれば自然と解決への糸口を得られるはずである。
よく考えて欲しい。
私が巻き込まれた「混浴露天風呂連続殺人事件」は、あくまで小説として(もちろん、自分の誤解を解消するために執筆した理由もあるが)取り扱っており、事件簿には入れていない。
この事実を考慮にすれば、私の言いたいことが理解できると思う。
そして、この作品に「この桂馬が取られるくらいなら、この勝負負けてしまってもかまわない」について言及しよう。
昨年行われた、将棋名人戦第七局。
対局成績を3勝3敗で迎え、勝った方がタイトルを獲得できる一戦において、事件は起こった。
新進気鋭のプロ棋士角田直行が、序盤から圧倒的に有利な状況を築き上げ、新名人の誕生かと期待された。
二日目の朝、金村将志名人の封じ手が公開されると、関係者や試合を観戦していた他の棋士が驚愕した。
ただでさえ、劣性だった局面をさらに悪化させるような手であったからだ。
早い段階での現名人の投了が予想される中で、挑戦者角田が突然投了を宣言した。
圧倒的優位な状況であるにもかかわらず投了した。
観戦した多くの棋士はその真意を確かめるために、対局場に殺到したが、角田は感想戦を行うことなく、対局会場を後にした。
この対局の謎を解くため、私が角田の自宅に訪れたことから、この事件が始まっている。
第三の、そして最後の挑戦状
二度あることは三度ある。
前書きに、読者への挑戦状を仕込む人間は普通いない。
だが、ここまで読んでいただいたのであれば、最後まで続けさせて欲しい。
安心して欲しい。
唐突に始まった挑戦状も、これが最後であるから。
「将野銀沙」を殺したのは誰か。
それを指摘する材料は全て出揃った。
そして、犯行の動機も既に直接明示されている。
あとは、自分自身の力を信じて、この謎に挑んで欲しい。
さて、ここまでで全ての挑戦を終えた。
ここまで読んだ読者は、
「これから先の本文は、すべて「解決編」なのか?」
と思うかもしれない。
この小説が推理小説であれば、そのとおりとしか答えることができない。
だが、この小説が「斑鳩先生最後の事件簿」であるかぎり、この小説の目的が推理小説を目指しているわけではないことを、ご理解いただけると思う。
前書きで書くべきと思ったことは、すべて書いた。
あとは、本文で理解して欲しい。
私が犯行に及んだ理由について。
~「この桂馬が取られるくらいなら、この勝負負けてしまっても構わない」(2026年斑鳩茂市)
完結しました。
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「毎回、話が違いすぎて評価できるか!」とお考えかも知れません。
私もそう思います。