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23.転生トラック ~快適な異世界転生ライフを過ごすための研究~

斑鳩先生が異世界チートものを執筆しましたら、こんな内容になったようです。

「さすが、ジェネラリスト鷹瀬。

なにをやってもこなしますね」

「嫌味ですか、中久保先輩」

鷹瀬は棒高跳びの棒を持ちながら、先輩の呼びかけに答える。


先輩の体は筋肉という名の宇宙服に覆われており、最強との呼び名が高い。

「先輩こそ、やり投げ一本で目指せばいいじゃないですか。

すぐに、陸連の指定強化選手になれますよ」

「やだね。

やはり、総合的な能力で見せつけないと、せっかく鍛えた筋肉を完璧に使いこなしたとは言えないからな」

「ああ、そうですか」

中久保先輩の筋肉を見ながら納得した。


中久保先輩は、見せる筋肉ではなく使用するための筋肉として日々鍛錬している。

ボディビルダーの体型とは異なっているが、見る者からすれば羨望を集めるだろう。

「というわけで、その棒をかせろ」


なにがというわけでかは理解できなかったが、鷹瀬は中久保が棒高跳び用の棒が必要であることは理解した。

「先輩の棒はどうしたのですか?」

「部室においてきた」

忘れるようなものでもあるまいにと思いながらも、

「まあ、いいですけど」

鷹瀬は中久保に棒を手渡す。

「すまんな」

中久保はそう言って、棒高跳びの練習を始めていた。



「鷹瀬先輩どうぞ」

鷹瀬は、1,500m走の練習を終えると後輩から声がかかった。

「ああ、ありがとう蔵全さん」

後輩のマネージャーからドリンクを受け取ると、ゆっくりと飲んでいく。


「それにしても先輩すごいですね」

一つ年下の後輩マネージャーである蔵全は鷹瀬をあこがれのまなざしで見つめる。

蔵全は、運動部に所属したことは一度もなかったそうだが、大学に入学後十種競技にあこがれてマネージャーとして入部した。

高瀬達が入学した大学は何故か、陸上部とは別に十種競技部が存在し、陸上部とは別に活動している。

大学の陸上競技用グラウンドは1つしかないので共用しているが。

「なにがだ?」

鷹瀬は蔵全の意図が理解できずに質問した。


「十種競技の点数ですよ。

先日の競技会なんか日本最高記録にあと50点じゃないですか。

学生で8,000点超えは先輩ぐらいですよ。

なんでもこなせるなんてすてきです」


鷹瀬は両手を前に出す。

「器用貧乏なだけだよ。

走りでは杉川に勝てないし、投擲では中久保先輩にかなわないし。

それに」

鷹瀬はグラウンドの中にいる1人の学生に視線を移す。

「これから投擲する小松なんかは、成長著しいからな、俺をすぐに追い抜くさ」

「せいちゃんは、まだまだ先輩には追いつけないですよ」

蔵全は小松のことを愛称で呼ぶと微笑んだ。


「そうは言っても、幼なじみだろう。

小松のことを応援しないのか?」

鷹瀬は小松が蔵全に好意を持っていることを知っていた。

蔵全が十種競技部のマネージャーに入部した事を聞いた翌日に、野球部を退部して十種競技部の扉を叩いたのだ。

後日、野球部の同期生から

「甲子園で活躍した投手を奪うな」

と文句を言われた。

鷹瀬は自分のせいではないと主張したのだが、野球部の同期生からは鷹瀬の意見は無視された。


「・・・。

私が応援しているのは、鷹瀬先輩だけです」

「それって、どういう」


「危ない!」

遠くから、叫び声が聞こえる。

投げられた槍は、大きな放物線を描き、蔵全に襲いかかる。

「先輩!」

鷹瀬は反射的に蔵全を押しとばした。

グサリ。

「うおおおおー!」

鷹瀬の背中からへその部分にかけて槍が貫通した。

槍は急激に鷹瀬の生命を奪っていく。

「先輩!先輩!」

蔵全は腹から血を流す鷹瀬によりそいながらも、どうしていいのかわからない表情をしていた。

「ぶ、・・・じ・・か」

鷹瀬は意識を失う前に蔵全の無事を確認すると表情をゆるめていた。




「ここはどこだ?」

鷹瀬は目が覚めると白い空間の中にいた。

槍が刺さっていたはずなのだが、槍も傷跡も痛みも消えていた。

ふと、周囲を見渡すと、目の前にひとりの少女が椅子に座っていた。


「ここは、神様である私の神殿です。

こんにちは鷹瀬さん」

少女は、背中にまで届く長くまっすぐな髪をゆらしながらお辞儀をする。

月並みだが、良くできたお人形さんのようだ。


だが、鷹瀬に向けられた言葉は、普通の子どもでは実行できない内容であった。

「すいません。

私の手違いでトラックにはねられて」

少女はぺこりとお辞儀をした。

普通の人間ならば、そのかわいらしい姿に、これまでのことを忘れて許してしまうのだが、鷹瀬は違っていた。

「確かに手違いだな。

俺はトラックで槍に突き刺さったのだから」

鷹瀬の皮肉を含めた言葉に、少女は慌て出す。


「あ、あれ?」

少女は、どこからか書類の束を取り出すと、内容を確認するため書類をめくり始める。


「たかせ、たかせと。

あれ、おかしいなぁ。

確かに「誤ってトラックに跳ねられて死亡」となっているのに」

少女は該当する資料を何度も確認していた。

「誤っているところは、正しいのか?」

鷹瀬は苦笑いしていた。


「そうです。

こうしなければ、異世界転生の扉が開かれないですから」

「そのために呼ばれたのか?」

鷹瀬はあきれながら質問していた。


「そうだよ、君のさえない今の人生にさようならを告げて、新しい世界でチートな能力を受け継いで新世界の神様になる予定でした!」

「さえない人生とは失礼な。

こうみえても、次のアジア大会で日本人最高順位で入賞すれば、B標準記録を持っている俺は、オリンピックにも出場できるのだよ」

鷹瀬は思わずむきになって反論した。


「おかしいなぁ。

君の人生は、高校の時に幼なじみに振られたことで、生き甲斐をなくして成績も落ちて大学に入学できないはずなのに」

少女は資料を確認しながら答える。

「いや、もう2年前に入学しているから。

だいいち幼なじみって、箕浦かなのことだろう?」

「そうです」

少女は次の資料の記載事項を確認しながら答える。

「彼女となら、大学の卒業と同時に結婚の約束をしているのだが」


「おかしい、絶対におかしい。

こんな、リア充を転生することになるなんて。

どうしてこうなった?」

少女は理解できないという表情で鷹瀬を眺めていた。

「いや、俺の方が聞きたいよ。

で、俺はこれからどうなるの?」


「・・・。なかったことにします」

少女はしばらく悩んでいたが、しっかりと断言した。

「なかったこととは?」

「元の世界に戻します」

「いや、槍が刺さったままのはずだが?」

鷹瀬は気絶する前の自分の状況を理解していた。

あの状態で元にもどされても、再び死んでしまう。

事故とはいえ、再びあの苦痛を受けるのは勘弁して欲しいというのが鷹瀬の希望だ。


「それもなかったことにします」

「あらそう。じゃあ戻して」

鷹瀬は少女の強い言葉に、「本当にできるのか?」と少し疑問を感じたが、今更なにを言ってもどうにかなる問題ではない。

鷹瀬はそう考えて、うなずいた。

「はい」

少女は何か呪文のような言葉を発した。

「う、あ」

鷹瀬は急にめまいを感じて、再び意識を失った。




「すいません、先輩。

手が滑って」

鷹瀬は部活を終えると、後輩である小松と蔵全と一緒に帰宅していた。

「当たらなかったからよかったけど、気をつけろよ」

「はい・・・」

小松は長髪をかきあげながら鷹瀬に謝る。

「わかったなら、いいさ。

ところで、」

鷹瀬は返事をするより早く体を動かした。

「!」

歩道にトラックがつっこもうとしており、トラックの目の前に、少女が驚いた表情で立ちすくんでいた。

鷹瀬は、驚異のスピードで少女を突き飛ばすと、自分がトラックに跳ねられた。


「またやっちまったか」

鷹瀬は、周囲の状況を確認すると、意識を手放した。




「また、あったの」

目の前に、先ほど自称神様がいた。

「俺は何故ここにいる?」

「トラックに跳ねられて命を落としたから」

少女はお人形のように表情をかえることなく、たんたんと事実を述べる。

「どういうことだ?」

「異世界チートを実現させるためです」

「いや、意味がわからないのだが?」



少女はどこからか黒縁眼鏡と白衣を取り出し身につける。

白衣は、少女の体型を考慮していないようで、袖の途中から先は垂れ下がり、白衣の後ろ30cmほどは引きずっていた。

「そもそも、異世界チートとはなんでしょうか?」

少女は、眼鏡を指で上下させながら、鷹瀬に質問を投げかけるのだが、

「知らないのだが」

あっさりと返事がかえる。

「古典も知らないとは残念です」

「異世界チートが古典だと?」

鷹瀬は納得できない表情で、少女を睨んだ。


「異世界で技術力チートというのは、古墳時代の渡来人から始まる、日本古来の様式美なのです。

日本で最初の物語である、竹取物語も異世界チートを元にしているともかんがえられています」

少女はよどみなく、鷹瀬の疑問に答える。

「まあ、20世紀後半から日本の技術が世界に伝えられるという風に変わっていったのだけどね。

それでも、様式美だから廃ることはあり得ないでしょう」

少女は近年の状況を踏まえて話をまとめる。


「で、俺と様式美とはどのようなつながりがあるのだ?」

鷹瀬は少女の話に一定の理解を示しながらも、自分を巻き込むなと訴える。

「ですから、あなたはトラックに跳ねられて死亡したので、異世界に転生してもらいます」

鷹瀬は思わず笑ってしまった。


「ああ、そういうことか」

鷹瀬は、不審そうに睨んできた少女を慰めるように話し始めた。

「残念だったな。

俺はまだ死んでいない」

「そんな馬鹿な、・・・。

どうして?トラックと正面衝突でしょう。

どうして、死なないの?」


「知らなかったのか?」

鷹瀬は哀れみの表情で少女を見つめる。

「何のこと?」

「俺は、前の世界で少女を助けるためにトラックにぶつかって死亡したのだよ。

そして、すでに一度この世界に異世界転生しているのだよ」


「なんですって!」

少女の表情は真っ白な顔から急激に赤みをおびると思わず感情を発露した。

「あいつめ、きちんと引き継ぎしてなかったな」

鷹瀬がため息をついた。

「だったら、俺がこの世界で使えるささやかな能力も知らないようだな」

「いったいどんなチート能力を?」


「残念ながら、使用が限られる特異な能力なのだがね」

鷹瀬はたいした能力ではないと、断りをいれる。

「それは、一体?」

「わからないのか、「トラックにはねられても無事な能力」だよ」





このように、異世界転生と言っても様々な状況が考えられる。

本書では、様々な実例を参考に、異世界転生とはどのようなシステムなのか解説していきたい。

本書によって、みなさんの異世界転生ライフが快適に送れることができれば幸いである。




~転生トラック ~快適な異世界転生ライフを過ごすための研究~(2012年斑鳩茂市)~

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