とある店長代理のゆるやかな休日
「はぁあ…暇だ」
珍しく一日オフになったある日。午前中にやるべき事を全て終わらせた良基は、思わずそう呟いた。
気怠い午後、ぽかぽかとした日射しが差し込む、暖かな空間。
―それは、本当に久しぶりに感じる手持ちぶさたな時間で。
思わずほぅ、と漏れるため息に、良基は一人苦笑する。
「そういえば最近、全然休めてなかったからなぁ…」
名義上は祖父が店長なのだが、不在率が高過ぎる為に実質、良基が店の責任者となってしまっている。その為、中々休みを取れないのが現状だ。偶にはちゃんと休んで下さい!と、皆から怒られてしまった。
「……まぁ休んでも大してする事がないから、休んでなかったのもあるんだけど」
そんな事を言ったら、また怒られてしまいそうだ。
「さて……どうしようか」
良基はうーん、と一つ伸びをして、緑茶を啜る。
これで猫でも膝に乗っけていれば、隠居した老人に見えるに違いない。
……こう見えても一応、まだ若い筈なのだが。
昔からじいちゃんっ子だった所為か、実年齢の割に落ち着いてる、とか、渋い趣味だね、とか、そんな風に言われ続けてきたので、まぁ今更と言われれば其処までである。
「にゃー」
「おっ、にゃー子さん、お前も暇なのか?」
「うにゃー?」
と、飼い猫のにゃー子さんがすりすりと擦り寄って来て、良基は思わずそう話し掛ける。
にゃー子さんは日本猫風の雑種で、お尻にハートマークがあるのが特徴だ。良基が小学校の頃から飼っている老猫だが、未だに元気に外を走り回ったりしている。……そのうち尾が何本かに別れるんじゃないだろうか。
ぱたん、ぱたんとゆっくり左右に触れる尻尾を見つめながら、良基はぼんやりとそう考える。
ぽかぽか陽気と擦り寄ってくる心地よい温もりとに助けられて、段々うとうとと眠気がやってくる。
良基は膝に乗ってくるにゃー子さんを撫でてやりながら、ぼうっと庭を眺める。
庭先には盆栽やら植木やらが置かれていて、何というかとても落ち着いた和の空間が広がっている。良基のお気に入りの場所の一つだ。
「……」
正座のままうとうととまどろんでいると、何時の間にかにゃー子さんが膝上で丸くなっていて。
じんわりと伝わる温もりに、思わずふにゃり、と破顔する。
「……偶には、こんな休日もいいか」
何もしない、のんびりまったりした休日。古本屋も好きだけど、飼い猫とゆっくり過ごす時間もいい。
良基は小さくそう呟くと、膝上のにゃー子さんを優しく撫でた。