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「北上」型軽巡洋艦

新年おめでとうございます。新しい年になって初めての投稿です。年末の大掃除で使わなく(画面が小さくて見えなくなった)ノートパソコンの中に幾つかの書きかけの小説を発見、現在手を入れていますが時間がかかりそうです。

 「北上」型軽巡洋艦はこの世界に出現した聨合艦隊用軽巡洋艦として建造された軍艦であった。その役目は水雷戦隊旗艦として、あるいは潜水戦隊旗艦としての任務に耐えるようにされている。その諸元は次のとおりである。排水量五○○○トン、全長一五一m、全幅一七.四m、 吃水五.四m、主機石川島播磨二胴衝動式スチームタービン×二基、二軸推進、出力七万馬力、武装五四口径一二七mm単装速射砲一基、VLS三二セル、アスロック対潜ロケットランチャー一基、短魚雷三連装発射管二基、四連装対艦誘導弾発射機一基、二〇mmCIWS二基、対潜ヘリコプター一機、最大速力三三kt、航続距離一六ktで五〇〇〇浬、乗員定数一九○名というものであった。


 これは移転前に日本海上自衛隊が装備していた「たかなみ」型護衛艦の設計を流用しているが、機関はガスタービンから重油用蒸気タービンに変更していた。これはこの世界では燃料事情が悪く、軽油よりも重油のほうが入手しやすいこと、ガスタービン機関がまだ知られていない技術であるからに他ならない。とはいえ、出現した聨合艦隊艦艇が搭載している蒸気タービン機関に比べれば格段の性能差があったといえる。省スペースでありながら高出力であったからである。


 もっとも機関変更だけとはいえ、そう簡単にできるものではない。現代の艦船は電力消費が半端ではないからである。一九四〇年代に比べて数十倍ともいえる電力供給が問題とされる。電力供給が絶たれれば軍艦ではなく、ただのボートに過ぎないといわれる所以はそこにあった。レーダー、通信、火器管制装置など消費電力が桁違いだからである。また、いくら省スペースとはいえ、ガスタービン機関に比べてその重量が重いことも問題であった。とはいえ、それは見方を変えれば利点ともいえるものであった。


 変更点は電装関係にもあった。極力、LSIは使用されず、ICを使用し、しかもブラックボックス化されていたのである。これは技術流出を恐れたこともあるが、それ以上にマイクロ波レーダーや高性能火器管制装置の装備では運用側が使いこなせない、ということもあった。そして、対空誘導弾も、後に近海艦隊(元の海上自衛隊)に配備された最新の対空誘導弾ではなく、シースパローが終戦まで使用されることとなった。それが後に悲劇を生む原因となるが、誰もがこれで十分と考えていたのである。


 ちなみに、この電装関係は重巡洋艦や戦艦、空母などにも同様のものが装備されている。当初の案では最新鋭技術を導入する予定であったが、やはり、運用側が使いこなせないのではないか、という観点から見送られ、ダウングレードしたものが装備されていた。それでも彼ら将兵やこの世界では最新の技術といえるものであった。


 ちなみに五〇〇〇トンで軽巡洋艦と称したのには理由があった。この世界では三〇〇〇トン以下を駆逐艦、三〇〇一トン以上一万トンまでを巡洋艦、三万トン以下を巡洋戦艦、それ以上を戦艦として類別されていたからに他ならない。むろん、排水量だけではなく、備砲にも制限あり、駆逐艦は一二七mm、軽巡洋艦は一五二mm、重巡洋艦は二〇三mmとされていた。それ以上の艦については制限されていなかったが、慣例で四○六mm以下とされていた。というわけで、「北上」型は軽巡洋艦に相当することになる。


 この艦を最初に見た外州、特に瑞穂州や秋津島、聨合艦隊所属の一部将兵はもっと口径の大きい砲、軽巡洋艦の制限である一五二mmを望んだといわれる。しかし、その性能を目の当たりにするにいたり、その意見を引っ込めることとなったといわれる。即応発射弾数が六六発、連続発射弾数四四発、射程二万mというのがこれまで以上の性能であったからである。この世界では対空対艦対潜いずれにしても誘導弾攻撃がメインであり、備砲はいわば備えと考えられていたことも影響していたといえるだろう。


 さらに、運用する側である聨合艦隊所属の一部将兵は短魚雷ではなく、移転時に多くの駆逐艦に搭載されていた長射程の酸素魚雷発射機の搭載を望んでいたといわれるが、これは却下されていた。現代では誘導魚雷が主兵装であり、無誘導魚雷では意味がないからである。その理由は短魚雷にしても対艦誘導弾にしても、その威力が疑問視されていたからに他ならない。実際、弾頭重量が二五〇kgに満たなかった。しかし、弾種の説明を受けてその声も小さくなっていった。


 ただし、海軍本部側では、エレクトロニクスの塊ともいえる艦艇をそれまで触れたことのない運用側が使いこなせるかどうか、というところに疑問を抱いていたといえる。実際、初期の訓練ではまるっきり使いこなせておらず、操作を誤るケースが頻発したからである。しかし、それも徐々にであるが、解消されていくこととなった。訓練を重ねてゆくにつれ、曲がりなりにも使えるようになっていったからである。


 ちなみに、この艦艇の建造を進言したのは海軍の一大尉であったが、建造する側の企業、その多くは旧日本国企業であった、はコスト軽減と技術維持を目標として、「たかなみ」型そのものを建造することを最初の会議で海軍側に示していたという。しかし、海軍技術本部に押し切られる形で建造していたとされる。そして、彼ら企業側がその真の理由を悟ったのは、世界大戦の勃発以降のことであったといわれる。


 この 「北上」型軽巡洋艦と「雪風」型駆逐艦で編成された水雷戦隊は幾多の場面で活躍、その評価を上げていった。少なくとも、この世界に出現した聨合艦隊所属将兵にも習熟が可能であったことが最大の理由であったと思われる。大戦末期にはその機能を十分に使いこなしていたといわれていた。そういう意味で、軽巡洋艦や駆逐艦の指揮官たる艦長や副長は現代戦術を最も早く身に着けたといえるだろう。


 英米仏では世界大戦時の最良の軽巡洋艦として、「北上」型軽巡洋艦を評価しており、購入を打診されている。大戦終結後には同型艦が売却されることとなった。本来は上のクラスに分類される「こんごう」型や「あたご」型、「すずや」型の購入を望んでいたようであるが、それを拒絶したこともあり、代わりにこの 「北上」型軽巡洋艦が売却されたのである。皇国としては、イージスシステムを知られることが問題であったが、この艦であれば、ということで一部(電装関係と通信機器)をダウングレードして売却している。これは、衛星通信システムの存在を知られることを嫌ったということであろう。


 これは、英米仏にとっては正しく最新の技術の塊であったといえる。ミリ波レーダーや火器管制装置いずれもダウングレード、VLS、一二七mm単装速射砲などこの世界ではまだ実用化されていない技術であったからである。当然として、英米仏はこれを元に自国で軽巡洋艦を建造、配備されることとなった。もっとも、レーダーや砲はともかく、火器管制装置は製造できず、皇国に部品として購入を打診している。この世界では既にトランジスタやICは実用化されていたが、大量生産は皇国以外では未だ不可能であった。


 ともあれ、こうして「北上」型軽巡洋艦はこの世界で評価される艦艇として完成をみることとなった。後年、皇国内ではベースモデルとなった「たかなみ」型軽巡洋艦と比較されることが多いが、誰もが「北上」型を優れているとしている。その理由は時代に合った艦艇だということにある。ここでいう時代に合った、というのはおそらく、艦載機関や電装関係のことであろうと思われる。


 また、南北戦後一〇年、世界の艦艇分類が変更されるまでは、最高の軽巡洋艦であったといわれる。それ以降、五〇〇〇トン以下が駆逐艦、それ以上が巡洋艦とされると、にわかに注目され始めたのが「北上」型駆逐艦(類別変更により軽巡洋艦ではなくなる)であった。


 移転暦三〇年には先進国の環境が整備され、特に燃料事情が移転前の一九八〇年代にまで発展したことで、西側各国ともガスタービン機関を使用するようになった。ちなみに、このころには艦艇の隠密性という観点から、ガスタービン機関が使用され始めたようで、その意味では「たかなみ」型が評価される。さらに、皇国で退役が決定した「たかなみ」型はトルコやアルゼンチン、チリ、ブラジルなど途上国に格安で売却されるが、ここでも、部分的にはダウングレード改装が行われてから売却されている。


 「北上」型軽巡洋艦は輸出艦も含めると総計で二四隻建造されているが、英米仏の各国で退役が決定した場合、その多くが前述のトルコやインド、アルゼンチン、チリなど途上国に格安で売却されている。もっとも、長く現役でいたのは、トルコに売却された、元『神通』で、移転暦五一年まで現役であったという。ただし、元のままではなく、途中で電装関係は改装されてはいるが、機関は換装されることはなく、蒸気機関のままであったとされる。最後の蒸気機関搭載軍艦といわれるのはそのためである。


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