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あるパイロットの独り言-10-

 沿海州に展開していた僕らに、中津島への帰還命令が出たのは一〇月末のことであった。そうして帰還した僕らは一週間の休暇を与えられたが、安田鉄夫中尉と僕は聨合艦隊司令部に呼び出され、次期作戦と再び欧州への派遣が命じられることとなった。しかも、あろうことか指揮官として第一航空戦隊に搭載の二四機の指揮を執ることとなった。実際には二隻の空母に一二機ずつ分散されての搭載であった。こうして、都合二度目の派遣は航空隊の指揮官として欧州に向かうこととなったのである。


 基本的に航空隊の指揮官は少佐をもって充てるものであり、中隊指揮官は大尉をもって充てる、というのが慣例になっていた。むろん、実際に航空機に乗る指揮官であり、その上には団司令がおり、中佐をもって充てるのがこれまでの慣例であった。つまり、空母一隻に四八機、これを指揮するのが団司令であり、一個航空隊二四機を指揮するのが航空隊指揮官で、中隊一二機を指揮するのが中隊長である。


 対して、僕ら<雷電>航空隊は航空隊指揮官が中尉か少尉、中隊指揮官が飛曹長なのである。これは<雷電>への機種転換課程において最高位が中尉ついで少尉であったことにある。つまり、<雷電>への機種転換においては大尉以上の高級士官が存在しないので、こういった結果となったといえた。ちなみに、この<雷電>への機種転換課程に移行する前に、それと知らせないで(次期戦闘機の試作型ということは知らされていた)、シミュレーターによる試験を行ったところ、高級士官の多くが不合格であったといわれていたのである。


 当初はHMDであったがゆえに不合格となったといわれ、量産型(僕らの乗る機体がそうである)はHUDに変更されているから、僕らの後の機種転換課程には数人の大尉クラスが含まれている。順調にいったとしても、彼らが前線に出られるのは一年半後ということになるだろう。つまるところ、彼らにとって<雷電>のシステムはそれほど敷居が高いということになる。


 僕らにとっては選ばれた者であるという意識はない。だから、<流星>のパイロットを格下に見ることはなく、用途が異なるのだ、との認識があるだけだろう。彼らより先に新鋭機に乗れた、そういう意識はるかもしれない。多くのパイロットが<雷電>を珍しがっていたが(未だ機密扱いされているから、パイロットにすら公表されていなかった)、彼らは単座ということで驚いていたようである。元上司である友永少佐や三沢准尉などから質問攻めにされたことは堪えた。ただ、操作の難しさだけは多くのパイロットは瞬時に理解したようである。


 ジブラルタルのセウタまでの航行中、多くの訓練が行われたが、僕らがヒヤッとする出来事が起こる。ニアミスがそれである。<雷電>はステルス機であるため、レーダー反応が弱い(まったく写らないわけではない)ため、<流星>の後席要員が見落とすことがままあったのである。幸いにして事故は発生しなかったが、本当にヒヤッとした瞬間であった。


 また、対艦攻撃訓練として、機動部隊や打撃部隊を敵艦に仕立てての訓練も行われた。機動部隊には「こんごう」型イージス巡洋艦がいたことで四八機中、三六機が撃墜判定されるが、「こんごう」型イージス巡洋艦二隻と空母四隻に被害を与えた、という判定を得ている。打撃部隊に対しては戦艦七隻に命中弾を与えた、との判定を得ている。このとき、僕は初めて自らが操る<雷電>の凄さを認識したといえた。


 実はこの訓練で僕の指揮下にある中隊は電子戦を挑んでいた。むろん、電子戦ポッドを装着してのものではなく、元から機載機器を使ってのレーダー妨害である。電子戦ポッド使用しての本格的なものではないが、少なくとも打撃部隊に対しては有効だったと判定されている。イージス巡洋艦が存在する機動部隊に対しては評価が分かれた。いずれにしても、僕ら移転組のパイロットでも、それなりの結果を出せた、そのことに意義があることであった。いずれにしても、皇国以外の国の電子戦能力がそれほど高くはないため、有効であろうと思われた。が、実戦での使用が許されるかどうかはまた別であった。


 <流星>との対空戦闘においては、ほぼ互角と判定されてもいる。電子戦モードをAUTOにしておくだけで、それなりの効果があったからである。もっとも、最新のAAM-6誘導弾であれば話しは別だろうと思われた。セミアクティブレーダーホーミング方式である米連合軍の誘導弾に対しては、有効であろうと思われた。


 このとき、僕は僕ら<雷電>隊の任務をある程度推測できていた。そして、それはそのとおりであったことが判明する。僕の推測とは、レーダーに捉えられにくい、米連合軍が使用しているセンチ波およびミリ波レーダーでは、移らない可能性もある、特性を利用しての敵レーダー施設への攻撃、そして攻撃隊の護衛であろう、と考えていた。少なくとも、レーダー施設への最初の攻撃は僕らであろうと思っていたのである。


 とにかく、地中海に入ってからは僕らの飛行回数は減るはずであった。理由は明確で、<雷電>自体が機密であるからに他ならない。だからこそ、インド洋上においては僕らの訓練が優先されることとなった。この時点で<雷電>が正式に配備されていることを知っている国はなく、極東で戦闘中のソ連には妙な機体があることは知られていたかもしれない。が、それが情報として欧米諸国に伝わっているかどうかは疑問であった。ただし、ソ連に比較的近い米連合国、あるいは共産圏国家では情報として流れている可能性があった。


 そのため、皇国はパナマ攻略時に初めて目撃された<ホークアイII>の存在を公表していた。むろん、細かな性能までは公表されていないが、大型のレーダーを搭載した機体で防空監視任務についていることまでは公表していた。現状、英仏ではそれぞれの陸上双発機にレーダーを搭載してのテストが行われているといわれる。当然として、米連合国には知られている可能性が高かった。開発しているかどうかは不明であるが、警戒する必要があるとされていた。


 つまるところ、僕ら<雷電>部隊はそういった未確定要素に対する備えだと思われた。僕ら下級将兵にとって、戦略を考慮する必要はなく、あくまでも、戦術を実行し、それに勝利を得るだけであった。もっとも、士官であり、航空隊隊長である僕にとってはそれだけでは済まされなかったのである。地中海に入ってからの僕らは予想通り訓練機会が激減することとなった。まるっきり機会がないとはいえなかったが、多くは離着艦訓練であった。地中海とはいえ、狭く、どこから情報が漏れるかわからないからであろう。


 僕らがおっぴらに飛行訓練を再開したのは北大西洋に出てからであり、米連合国に対する攻勢開始直前であった。そうして、僕らは米連合海軍最大の根拠地であるノーフォークに対する攻撃の一番槍として攻撃の火蓋を切ることとなった。これが北米に初めて攻撃を加えた出来事となり、今後は起こりえない作戦であったのだ。つまり、皇国は北米を統一するであろうアメリカ合衆国とはことを構えるつもりはないということだった。



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