第9話 視点を変えろ
※本作にはTS要素があります。
ズン、ズン、ガシャン、ガシャン
重量を感じさせる地響きと、それに混じる金属音が、こちらに近づいてくる。
俺は、隠れる場所を探す。
しかし、脇道もないこの通路には、残念ながらそんなものはなかった。
そうこうしている間に、ついに地響きの発生源が姿を現した。
「甲冑の……騎士……様?」
その姿は、全身を金属鎧に身を包む、俺より二回りは大きい騎士だった。
得物も馬鹿デカい両手剣。
俺なんかじゃ、どうあっても到底扱えないであろう代物だ。
「え、もしかして、冒険者が助けに来てくれた?」
『たわけ。仮にそうだとしても、単独でこのようなところに来るものか。しかもあのような武器を背負って最奥など、人の身で可能かも疑わしい』
「念の為、声かけてもいい?」
『…………好きにせよ』
バルフェリアは呆れ返ってるが、もしアイツが人間だったら、助かるって事だぞ!?
保護してもらうチャンスを、みすみす逃すわけにはいかない!
「おーい!こっちは魔物じゃないよー!」
俺は、両手をブンブン振って呼びかける。
甲冑の騎士のリアクションは……ない。
いや、あるにはある。
無言で馬鹿デカい剣を、俺の方へと向けた。
「……ですよね」
はい、魔物確定です。
『それにしても、貴様はどうも運が良いのう。あの警報でどれほど集まってくるかと思ったが、まさか一匹だけとは』
確かに。
あれだけの大音量で、来たのがアイツだけってのは、ラッキー以外の何ものでもないと思う。
だが、あの大剣の威圧感はヤバい。
「運がいいって……アイツめちゃ強そうなんですけど」
『当たり前じゃ。最下層に雑魚などおるものか。ま、妾にとっては赤子に等しいが』
「くそ、こうなりゃ、何とかするしかないな……!」
俺は、やや身を屈める。
最大限、いつでも動ける形だ。
武器もないし、スキルもない。
どうやら逃げ場もない。
こうなったら、この戦いの中で奴の弱点を見つけて倒すしか、俺が生き延びる道はない。
それなら――
「腹を括れ、アレックス!」
『うむ、その意気じゃ!』
パチン!
俺は両頬を張り、気合を入れる。
そして目前に迫る鎧野郎を、精一杯睨みつけた。
それを合図に、鎧野郎が大剣を肩に背負い、重量感たっぷりな走り方で迫ってくる。
ズンッズンッズンッズンッ!
重い動きに、やや間抜けな走り方だが、迷いのない動きには、言い表せない迫力がある。
そして鎧野郎はその勢いのまま、俺目掛けて大剣を思い切り振り下ろす。
ビュゴウッ!
大剣は空気を震わせる。
斬る、というより、叩き潰す勢いのそれを、俺は咄嗟に避ける。
よかった、避けられないスピードじゃない。
ただ――
バゴンッ!!!
俺という目標物を逃した大剣は、その圧倒的な質量で、俺がそれまでに立っていた石畳を、容赦なく破砕した。
破砕された石畳だったものが、つぶてとなって俺の体をビシビシと弾く。
「いてててて!」
もちろん致命傷には程遠いが、痛いものは痛い。
身体中を打ち据える痛みが、俺の心に焦りを覚えさせる。
「くっそ」
気を取り直して、身構える。
「さて、どうするかなあ……」
動きは遅い、おかげで避けることはできる。
しかし、本当にヤバいのはその破壊力だ。
かすりでもしたら、たちまちミンチになってしまうに違いない。
考えただけでゾッとする。
その間にも、鎧野郎は俺を潰すために襲いかかってくる。
壁を床を、次々にへこませ、破断し、圧倒的な力を見せつけてくる。
俺はそれらを何とか避けるが、未だに反撃に転じられずにいた。
「はあ、はあ……」
『貴様、いつまで遊んでるつもりじゃ?』
「真剣だっつーの!」
奴の隙を伺うが、あの破壊力だ。
うかつに飛び込んでまともに食らったらと、想像をすると足が竦む。
『まったく、奴の動きをよく見よ』
「よく見てるから避けられてるんだよ!これ以上、何を見ろって!?」
『ほう、避けながら悪態をつくとは、まだ余裕があるではないか?』
「うるせえ!」
何が言いたい?
俺は、徐々に息が上がりつつある。
余裕なんて、ひとつもないんだが。
『それだけの余裕があるならば、剣ではなく、もっと奴そのものを見るがいい』
は?
避けるためには剣を見ないといけないのに、鎧野郎を見ろだって?
ふざけるな。
それじゃ、避けられないだろ!
『さらに言えば、一点ではなく全体を見よ』
一点ではなく、全体……?
剣じゃなく、鎧野郎を見る……?
よく分からないが、このままだとジリ貧だ。
しかもバルフェリアが煩くて集中できない。
「分かった!やってみるから、黙っててくれ!」
『ふん、期待しておるぞ』
俺は、一旦距離を取り、自分の視界に鎧野郎を捉える。
てっぺんからつま先まで視界に入れ、全体を見渡すように視野を広げる。
「これで何がどうなるってんだ……?」
そこに再び、鎧野郎が大剣を背負いながら突っ込んでくる。
「あ」
剣を振る前に、踏み込み、腰が回り、肩が動く。
つまり――
『ようやく気付いたか、この阿呆』
コイツは、力に全振りの脳筋野郎だ。
挙動のひとつひとつが遅く、デカい。
つまり、予備動作がハッキリ見える。
ブォン
避ける。
ブォン
避ける。
その予備動作で、大剣の軌道が事前に分かる。
破壊力そのものは脅威だが、当たらなければなんてことはない。
さっきまでは息が上がっていたのに、今は肺に引っかかっていた息が、すっと通る。
今では奴の見え方も、心持ちも変わった。
――いける。
「さて――次はこっちの番だな!」
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