第17話 迫り来る罠
※本作にはTS要素があります。
あれからしばらく左の通路を進んだあと、俺はもう後悔していた。
「右にすりゃよかったかな……」
神経がすり減る。
罠、罠、罠。
ちょっと進むたびに、罠。
罠だらけの通路に、俺はもううんざりしていた。
『そうは言うが、魔物に囲まれて、蹂躙されるよりはマシじゃろ』
「……そりゃそうだなんだけどね」
でもなあ。
チマチマチマチマ、前に進めてる気がしないんだよ。
これなら魔物の方が……とも頭によぎるが、戦い慣れていない俺が魔物の集団相手に立ち回れるか?
というと、まあ無理な気がする。
でもこの罠だらけの現状は、マジで精神にくる。
――この雑念がまずかった。
ガコン
おもむろに左手をついた壁が、スイッチを押したかのように押し込まれた。
俺は雑念のせいで、罠を見落としたのだ。
『……貴様、詰めが甘いのう』
「ヤバい、何がくる……?」
一気に緊張の糸が張り詰める。
しかし、やってしまったものは仕方がない。
生き残るためには、切り替えろ。
床か、壁か、天井か。
何がくる?
そして――
ズズズ……
通路の壁が動き出した。
ゆっくりと、壁が通路を狭くするように動き出す。
咄嗟に後ろを振り返る。
そちらも同様に、壁が動き出していた。
「マジか……!」
ブワッと汗が吹き出した。
どうする?
潰されないために急げば、他の罠を押してしまうかも知れない。
だが慎重に、などとは言っていられない。
――そもそも既に、歩いている場合ではない。
「どっちに行ってもリスクは一緒なら……前進一択だろ!」
俺は意を決して、進行方向に全速力で駆け出した。
「うおおおおおお!」
『ハッハッハッ!良いぞ良いぞ!面白くなってきたわ!』
「うるせえええ!!」
耳障りなバルフェリアの高笑いにキレながらも、足は止めない。
床の罠を踏み、沈むくぼみに足を取られそうになりながらも、必死に走る。
走り抜けた後ろでは、矢、槍、落石など、様々なものが飛びかっている。
一瞬でも足を止めれば、壁に押しつぶされる前に、別の罠で命を落とすだろう。
「ぬおおおおああああ!」
『ワハハハハハハ!』
壁はどんどん、容赦なく迫る。
内心焦る。
「これどこまで続くんだあああ!!」
ゴールさえ見えれば良いのだが、眼前に広がる壁は、切れ目なく視界に入る全ての通路を狭くしていく。
そんな中、焦ると余計なことが気になってしまう。
今の俺は、あるものが気になって仕方がない。
そう――胸だ。
一歩、また一歩と駆けるたびに、振動で胸が跳ねる。
その揺れが重心を崩すため、正直走りにくくて仕方ない。
「あーもう、これ邪魔だなおい!」
『ハッハハハハハハ!』
爆笑しすぎだろ!
こっちは必死なんだよ!
通路はみるみる狭くなり、今や人ふたりがすれ違える程度の広さしかない。
終点はまだ見えない。
このままじゃ、マジでペシャンコだ。
「くっそおおおお!まだかよおおおお!!」
俺の怒りの咆哮。
そのとき、俺の叫びに応えるように、終点が見えた。
通路の奥に見えるのは、部屋への入り口。
幸い、扉はない。
――しかし、際どい。
最初は緩慢だった壁の動きは、徐々に速度を上げている。
止まることなく駆け抜けて、間に合うか、間に合わないか。
現時点での道幅は、既に俺の肩に触れるか触れないかまで狭まっている。
ギリギリのタイミングだろう。
「絶対、諦めねえええ!!!」
俺はラストスパートと言わんばかりにより一層、手と足の動きを早めた。
その瞬間ーー
ガッ
俺はついに、重心のブレから罠の窪みに足を取られ、そのまま転倒してしまった。
だが、勢いよく打ち付けた痛みに気を取られてる場合じゃない。
「くっ!」
急いで体制を整え、顔を上げる。
しかし、通路はもう、足を止めてしまった俺を押し潰す寸前だ。
距離はまだある。
これは――
間に合わない。
『貴様、運がいいのう?』
「は?どこが――」
言いかけた瞬間、足元がガコンと音を立てながら、口を開いた。
「なっ――!」
『落とし穴じゃな』
床が抜け、俺の体が宙に投げ出される。
「冷静に言うなああああ!」
視界の下、暗闇の底には、無数の槍が突き立っており、俺の体を貫く瞬間を、今か今かと待ち構えている。
だが――
「諦めてたまるかっ!」
俺は咄嗟に短剣を取り出しながら、大声で頼む。
「バルフェリア!少しでいい!魔力を!」
応えを待たずに、逆手に持った短剣を振りかぶる。
『仕方ないのう』
「うおおおおおお!」
魔力を纏った短剣は、深々と壁を貫き、俺の体を支える。
しかしまだ落下は止まらない。
短剣は大きな音を立てながら壁を割き続ける。
俺は足を曲げ、体を縮め、槍までの距離を少しでも稼ぐ。
そして、槍の穂先に掛かる直前で、止まった。
ズズン……!
その瞬間、丁度頭上から大きな音と振動を感じる。
その音に頭上を見上げれば、壁は綺麗に通路を押し潰していた。
「お前の言うとおり、運が良かったのかもな……」
『フフ、そうじゃな。あのタイミングで落とし穴とは、何か持っとるのう、貴様』
「……でもこれ、どうやって出ればいいんだ?」
『ほれ、後ろを見よ』
言われて、後ろに意識が向く。
背中に微かな風を感じ、俺は顔だけで後ろを振り向く。
見れば、そこには横穴がひとつ。
脱出口だ。
何とか助かった。
助かったんだが……。
「……何度死にかけりゃいいんだ、俺……」
俺の口からは乾いた笑いが漏れるのだった。
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