第12話 命を賭けたパズル
※本作にはTS要素があります。
――ここでミスれば、死ぬ。
宝箱に向き合うにあたって、ひとつ不安がある。
女の身体に変質した今、男だった頃の器用さを、ちゃんと持ち合わせているのか?
ということだ。
鎧野郎戦の、避けたり殴ったりといった、全身を使う動きには問題なかった。
しかし、指先のみの繊細な動きはどうだろうか?
「なあ、この身体って、器用な動きできるのか?」
『何を言う。貴様の元の身体より、妾をベースとした今の身体の方が、身体能力は向上しとるはずじゃぞ』
「でも、魔力回路とやらは貧弱なんだろ?」
この言葉がプライドに触れてしまったらしく、
『それは、貴様の資質の問題じゃ!現に、妾が倒した巨狼の死骸を見たじゃろう!あれが、この身体の本来の性能と言っても、過言ではない!』
バルフェリアの怒りの抗議が展開される。
『貧弱なのは貴様の魔力回路じゃたわけ!魔人の肉体を侮るでないわ!』
俺の魔力回路は弱いが肉体は強い。
魔力が通せればもっと強い、ということか。
ん?ということは――
「ちょちょちょ、待ってくれ!整理させてくれ」
『……』
怒りの抗議か、バルフェリア無言のジト目。
ジト目はやめて欲しい。
単眼でのその目は普通に怖い。
「ええと、俺の資質のせいで魔力がほぼ通せなくても、身体能力は上がってるのか?」
『……その通りじゃ。魔力が通せない分、ほんの少しじゃがの』
「んで、この身体の魔力回路は、俺が使うのもバルフェリアが使うのも、基本は変わらない?」
『そうじゃ』
「つまり、今は使い方がわからないだけで、成長すれば俺でも魔力を操作できるようになる?」
『どれだけ時間がかかるか分からんが……可能性は、確かにある』
マジかよ!
俄然やる気が湧いてきたわ!
しかしそうなると、余裕を持って攻撃を回避できたのも、ひょっとしてこの身体のおかげなんだろうか?
元の俺だと無理だったりした?
とにかく、今までの俺よりも器用になっていて、かつ、これからもさらに成長できる可能性があるのは朗報だ。
「サンキュー!ちょっと頑張れる気がしてきた!」
『それは良いが、落ち着いてことにあたるんじゃぞ?』
そうだ。
これからやるのは宝箱の解錠と、罠の解除だ。
勢いは必要ない。
「……よし」
俺は気を取り直して、改めて宝箱と向き合う。
バッグからピッキングツールを取り出し、ゆっくりと鍵穴に差し込む。
慎重に手指を動かす。
宝箱の罠は、だいたい鍵とも連動していると聞いたことがある。
解錠に失敗した瞬間、罠も作動する可能性が高い。
『随分、慎重じゃのう』
「……」
まばたきも忘れるぐらい、指先の感覚にのみ集中する。
バルフェリアには悪いが、野次に突っ込む余裕は今はない。
罠が発動すれば、俺の命はないだろう。
それを思うと、頬を伝う汗を拭う余裕もない。
運に任せるな。
自分で見極めろ。
――感覚を研ぎ澄ませ。
「……!」
ツールが軽く引っかかる感触。
ここだ、ここに違いない。
カチリ
――開いた。
……よし、罠は発動しない。
無事、解錠に成功したようだ。
「まず、第一段階クリアだな」
俺は大きく息を吐き、深呼吸をする。
いつの間にか、緊張で体がガチガチになっていた。
宝箱から少し離れて、体をほぐす。
大きく伸びをし、肩を回す。
『鍵を開けただけじゃぞ。大げさじゃな』
「いいんだよ。今は、これぐらい慎重で丁度いい」
『フフ、そうか』
何だよ、楽しそうに笑うじゃねえか。
まあいいや。
さて、ここからが本番だ。
再度、宝箱の前に座り込む。
宝箱の背面の隙間からチラリと覗く細い糸。
蓋を開け、これが切れた時、罠が作動するはずだ。
さて、どうすれば罠を作動させずに宝箱を開けられるか。
俺は口に手を当て――
――考える。
まず、何故糸が切れることで罠が作動するのか?
恐らく、蓋を開けた勢いで糸が切れ、その勢いがかけ合わさり、罠が飛び出してくる、ということだろう。
なら解除するには、勢いを殺す必要がある。
「勢いを殺すためには……」
呟く。
蓋を開けた時、勢いをつけさせないためには――
「……閉じた状態で、糸を外せばいい?」
『……』
バルフェリアは答えない。
だが、正解だと言わんばかりに、目がニンマリと笑っている。
しかし、糸を外すには道具が必須だ。
宝箱の隙間に入る薄さと、糸を外せるだけの強度がある道具が。
ピッキングツールは、強度は充分だが厚みがあり、隙間に入れることは叶わない。
だが俺は、ピッキングツールより薄い道具を持っていない……どうすればいい?
何か、周囲に使えるものはないだろうか?
あたりを見回す。
まず目につくのは、鎧野郎と、その大剣、無数の槍。
「……論外だな」
デカすぎるし、そもそも使えない。
ほかに目につくものは、破壊された床と壁ぐらいしかないが……。
「……あった」
これなら、何とかなるかもしれない。
一度宝箱から離れた俺は、必要なものを手に入れるため、地面に這いつくばり、“それ”を拾い上げ、ジッと見つめる。
しばらくの間、いくつも“それ”を見比べ、慎重に吟味する。
そしてついに、理想の薄さと強度を持ち合わせた“それ”を見つけた。
破壊された石畳の破片を。
薄く、刃のように欠けたそれを。
「これなら……!」
俺は宝箱の背面側にしゃがみ、ゆっくりと宝箱の隙間に、破片を差し込む。
予想通り、引っかかることなく、隙間に入り込んだ。
「よし……!」
俺は、糸を外すため、破片を素早く何度も前後に滑らせる。
すると、何度目かのタイミングで、
プツリ
握っていた破片を通して指先に、糸が外れたような感触が伝わってきた。
「これは……外れた?」
『フフ、さて、どうかのう?』
……外れたはずだ。
だが、もしそれがフェイクだったら?
その時は、宝箱を開けた瞬間に罠が発動し、俺の人生は終わりを迎えるだろう。
しかし、開けずにここで手をこまねいていても、どうせ死ぬ。
ならいっそ、死ぬも生きるも、自分の選択の結果でありたいじゃないか。
「……頼む」
俺は覚悟を決め、震える指で、宝箱を開いた――。
読んでいただきありがとうございます。
よければブクマ・評価・感想いただけると励みになります!




