第11話 勝利の後で
※本作にはTS要素があります。
「マジで死ぬかと思った〜〜〜!」
俺の足から、力が抜ける。
緊張の糸が切れ、踏ん張りが効かなくなった俺は、そのまま床にへたり込んだ。
「勝った……!」
俺は勝利を噛み締める。
死ぬかもしれない。
その恐怖の中、何とかあの、鎧野郎とやり合い、ギリギリで勝利をもぎ取ったんだ。
少しぐらい、気を緩めてもいいだろう。
そう思った。
が、その瞬間、気を緩めた自分が、あまりに決定的な隙をさらし続けていることに気付き、ふいにゾクリと体温が下がる。
“もし、近くに魔物が潜んでいたら?”
“もし、近くに罠があったら?”
そんな考えが頭をもたげ、咄嗟に立ち上がり、息を止め周囲を警戒する――
が、幸いにも、魔物の気配も罠の形跡も、見当たらなかった。
俺はホッと息を吐き、改めて腰を下ろした。
『そうじゃ。パーティならまだしも、貴様は独り。簡単に気を抜くでない』
したり顔?でバルフェリアが言う。
「……分かってるよ」
『ふん、ならいいがのう。次に同じことをすれば、貴様の命はないと、しかと胸に刻んでおけ』
「……」
『気を抜くな、とは言わん。ただ、気を抜くタイミングをよく考えろ。良いな』
……正直、コイツの言う通りだ。
観察し、何もないことを確認してから気を抜くべきだった。
「ああ、次からはそうするよ」
『お?貴様が素直なのは、何やら気持ち悪いのう』
「うるせえなぁ……でも結局、さっきも今も、生き残れたのはお前のおかげだ。感謝してるよ」
なんか、コイツに礼を言うのしゃくだな。
言った後で妙に照れ臭くなり、俺は床に視線を落とす。
『カッカッカッ!何、礼には及ばぬ。貴様に簡単に死なれるとつまらんからな。存外、楽しかったぞ』
コイツ、多分これ本音なんだろうなあ……。
どれだけの間、封印されていたのかは知らないけど、娯楽に飢えている。
で、必死に戦っている俺の姿は、さながらコロシアムの拳闘士ってところか。
今は色んなことが、刺激的で楽しいに違いない。
『おい、貴様。いつまでそうぼんやりしておる。アレを見い』
「アレ?」
言われて顔を上げる。
バルフェリアの言う“アレ”を探すため、あたりを見回すと、鎧野郎のすぐ近くに、それはあった。
「宝箱か」
不思議なことだが魔物を倒すと、まれに宝箱を落とすことがある。
「……そういえば、何でダンジョンの魔物は宝箱を落とすんだ?みんなはご褒美だ、って割り切ってるけど」
『ああ、簡単なことじゃ。最奥まで行かせぬための仮初めの褒美よ』
「仮初めの褒美?」
『左様。ダンジョンとは、基本的に最奥のものを守護、または封印をするために作られておる』
そうなのか。
初めて知った。
『命が掛かっている状況下よ、誰しも目の前の褒美に、目が眩むもの。その目眩しで、侵入者を満足させ、最奥への到着を鈍化させるというわけじゃ』
「はー、なるほどな」
『ま、此度の宝箱は、単純な褒美と考えて良い。なにせ妾の封印は、既に解かれておるからな』
そりゃそうだ。
バルフェリアが、このダンジョンの最奥の封印物だったとしたら、それはもう無くなっている。
というか、俺と融合してしまっている。
そもそも、この宝箱は貴重だ。
例え罠があったとしても、これを開けないという選択肢は俺にはない。
なぜなら今の俺には、武器も防具も、持ち合わせも何も無い。
この宝箱から装備品が出る可能性がある以上、何があっても、絶対に開けなくてはならない。
たとえ罠があっても。
「……開けるしかないよな」
『愚問じゃな。この状況でリスクを取れないようなら、どうせそのうち死ぬじゃろう』
俺は息を整え、立ち上がる。
ゆっくりと宝箱に近づき、じっと見下ろす。
生きて帰るなら、慎重にならなくては。
もっとよく見ようと、前屈みになる。
……胸が邪魔して、宝箱が見にくい。
「こういう時、胸って邪魔だな」
『ハッハッハッハッ!』
ぽつりと呟いた俺の言葉がツボに入ったのか、バルフェリアの爆笑が止まらない。
「おーい、うるせえよ。集中させてくれ」
『ハーッ、ハーッ、ハハ、すまんすまん』
気を取り直し、宝箱を中心に、ぐるりと一周するようにゆっくり歩いて、側面、背面、逆側面とじっくり見回す。
「パッと見は、異常なし、か」
宝箱の前に、しゃがみ込む。
あまり振動を与えないよう、体重を掛けずに指先だけで触れ、鍵穴を覗き込む。
――鍵が、掛かっている。
そのまま、またゆっくり回り込み、至近距離で、宝箱を舐め回すようにジッと観察する。
違和感はないか、気付くことはないか。
すると背面の、天面と本体の隙間に、細い糸のようなものが見えた。
「これって……」
『罠じゃろうな。下手に開ければ、糸が切れ、罠が作動する仕組みじゃろう』
「罠、か」
自然と体に力が入る。
俺がここに跳ぶきっかけを作った、諸悪の根源。
下手に触れば、待ち受けているのは、死と破滅だ。
「……しかし、あれだな。注意深く観察するのって、大切なんだな」
『当たり前じゃ阿呆。どうせここまで跳んできたのも、罠がないことをお祈りでもしながら、何の気無しに開けた結果じゃろ』
……図星だ。
この環境に身を置き、バルフェリアからのさまざまな助言を受けるまでは、観察しようなんて気はまったく起きなかった。
『まあ、おかげで受肉もできたし、退屈凌ぎにもなっておるがな』
「……そりゃどうも」
本当に、ひとこと余計なんだよな。
だが、不思議と生きる気力が湧いてくるもんだから、侮れない。
「さて……そろそろやりますか」
命を賭けたバトルの次は、命を賭けたパズルときた。
ただし、死ぬつもりなんて毛頭ない。
さあ、挑もう。
――この宝箱の中身が、俺の運命を変えると信じて。
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