第10話 死にかけながらの初勝利
※本作にはTS要素があります。
カッコつけてはみたものの――さて、どう戦うか?
この頑丈そうな甲冑に対して、俺はといえば素手。
武器と言えるものは持ち合わせていない。
……これってどうなんだ?
「まあ、やってみるか」
手をこまねいていても仕方がない。
余裕ができたのだから、反撃すべきだろう。
大剣を避け、試しにすれ違いざまに殴りつける。
カン
「ぅ痛ってえ!」
逆に俺の拳が痛んだだけだ。
軽い金属音を立てただけ。
当然、鎧には傷ひとつ付かない。
『貴様、本当に阿呆じゃな……』
「うるせえ!何だよ、その目は!」
バルフェリアは、可哀想なものを見るような視線を送ってくる。
マジでやめろ。
『このダンジョンに貴様の拳で殴り倒せる、虚弱な魔物がいるとでも?それともあの鎧騎士が、そう見えたのか?』
この野郎。
ここぞとばかりに煽ってきやがる。
「あのな……何事も、試さないとだろ!」
バルフェリアに反論とばかりに、自分の言葉を体現する。
鎧野郎の剣を避け、転がっている床の破片で、思い切り殴りつけた。
ガァン!
さっきよりも景気のいい、大きな音が鳴る。
だが、それだけだ。
依然としてダメージは与えられない。
さあ、どうする?
どうにかして、奴の武器を奪ってみるか?
ただ、仮に奪えたとしても、そもそも俺が振るえるものには、まったく見えないんだが。
このままだと、やられることはない。
だがそれと同時に、倒すこともできない。
「考えろ……」
相手が鎧なら、基本の挙動は人と同じだ。
という事は、体を動かすには関節を動かさなければいけない。
つまり、関節部位には隙間があるはずだ。
ならば狙うのは――
無防備な場所。
つまり、
「膝裏だ!」
俺は鎧野郎が振り抜いた大剣を避け、懐へ飛び込んだ。
そして背後へと回り込み、低い姿勢で踏み込む。
「食らえええ!」
鎧に覆われていない膝裏に、手に持った大きな破片で渾身の一撃を叩き込む!
ゴッ!!
「どうだ!」
手に広がる、鈍い確かな感触。
俺はダメージを期待して、鎧野郎を見上げる。が、奴は何事も無かったかのように、今この瞬間俺に大剣を振り下ろすところだ。
「あっぶ!」
ブォン!
唸りながら迫る大剣。
俺は地面を転がり、間一髪で難を逃れた。
『発想は悪くなかったがの〜。ただ、よう考えてみい。相手は魔物じゃぞ?そんなもので殴りつけたところで、どうにもならんわ』
身も蓋もない、バルフェリアの一言。
つまりなんだ?
それじゃ、俺が勝つ方法なんてひとつもないってことか?
このまま、石畳に転がる死体になれって?
“石畳”という単語に引っかかりを覚える。
「石畳、か」
――そうだ。
そういえば、この通路には、最初に踏みそうになった“アレ”があった。
ゴクリ
俺は唾を飲む。
「……やる価値はある」
俺は飛び起きると、正面から鎧野郎に対峙する。
そして襲いかかる鎧野郎に対して、その攻撃を避けることに全力を注ぐ。
手は出さない。
『貴様、避けるだけでは勝てんぞ?』
「いいから見てろ……考えがあるんだよ!」
『ふむ、よかろう。ならば、見せてもらうぞ』
避ける。
避ける。
避ける。
俺は避けながら、少しずつ立ち位置を変える。
場所を間違えるわけにはいかない。
避けながら、ジリジリと後ずさる。
「あと少し……!」
緊張が走る。
奴には、追撃をしてもらわなければならない。
つまり、最後に大きな隙を見せる必要がある。
そう。
ミスをすれば、俺は確実に死ぬ。
心臓が早鐘を打ち、体温が上がる。
そんな中ついに――
“ここが目的の場所だ”と、俺に知らせる“アレ”が視界の隅に入った。
迷っている暇はない!
「ここだ!!」
俺は、鎧野郎の一撃を大きく飛び退いて避ける。
その一瞬、無防備な時間。
ここで追撃をされれば、俺は避けられないだろう。
だからこそ奴は、このチャンスを逃さないために、必ず追撃に動くはずだ。
「こい!」
そして奴は、チャンスを逃すまいと、さらに前に出る。
空中の俺を叩き潰すために、1、2、3歩と大きく踏み込み、振りかぶって――
「来ると思ったぜ・・・・・・!!」
ガコッ
奴の足が、石畳を踏んだ。
そう、俺がこの通路で踏みそうになった“槍の罠”の石畳を。
さっき俺の視界の隅に入ったのは、槍の穴。
床に空いていた無数の穴から、まるで噴き上がる烈火の如く、無数の槍が鎧野郎目掛けて飛びかかる!
ガンガンガンガンガン!!!
鎧と槍の衝突音が通路に響き、激しい火花を散らす。
槍は頑丈な鎧を、次々と貫いていく。
そして、鎧野郎の剣撃が俺に届く寸前で、奴の動きは止まった。
本当にギリギリ、あと数センチの差だったが――俺の勝ちだ。
「どうだこの野郎!!」
『ほう……見事じゃ!』
焦げ臭い匂いが立ち込める通路。
その中で俺は、雄叫びと共に両手を勢いよく突き上げた。
こうして、俺は文字通り“死にかけながら”、ダンジョンでの初勝利を掴み取った。
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