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カウントダウンストーリー

2026年へのカウントダウン

作者: 和泉ユミ
掲載日:2026/01/01

「おじゃましまぁーす」


デパ地下の大きな紙袋にはオードブル。


玄関で靴を脱ぎながら、相変わらず綺麗な部屋だなと感心する。

モノトーンで整えられた室内は健のイメージ通りで、都会的。

私の部屋はもっと生活感があって、ごちゃっとしてる。


リビングからはテレビの音、紅白だろうか——


見つけた。

カウンターキッチンに、黒いエプロン姿の健が、待ち構えていたみたいにじっと見てくる。


「はい、ストップ」

「何?」

「この瞬間の美也を目に焼き付けてる」


呆れながら、持ってきた紙袋を持ち上げてみる。


「オードブル、限定50個のやつ間に合ったよ」


言いながら、健に近づいて、ぎゅっとハグした。


「テーブルセットまでしてある。すごいね」

「プロポーズしてから、初めての年越しだからな」


デパ地下パワーを借りて正解。

今年一年ちゃんとしてましたっていう感じがすごくする。


「で、健は?」

「もちろん、買ってきたよ」


有名ワインショップの¥2,980、お楽しみ福袋。

健が得意げにテーブルに置く。

福袋好きなのかな、すごく楽しそう。

これは、結果次第では恒例になりそう。


「じゃーあけよっか」

「うん」


袋の口をほどき、一本目が出てくる。


「うそ」

「……ドンペリ?」

「……すぐに乾杯しないと」


テーブルを挟んで、健。

うん、すごくかっこいい。

私、面食いだったのかな。


「2025はどんな年だった?」

「美也にプロポーズできた、最高な年だった」

「それってクリスマス、ついこの前じゃない。一年通してだよ」

「美也以外、考えられない」


こんな時、どういう顔をすればいいのか、ちっともわからない。

戸惑ってるのがバレないように、手元のドンペリを一口飲んだ。


「美也は?」

「私は……金属運がすごい一年でした」


一週間前に健と飛び込んだジュエリーショップで買ってもらったエンゲージリング。

健の目の前に指先を出して、キラキラをアピールしてみる。


「付けてくれてるんだ」

「気に入ってマス」


気のせいかな。

健の口元がニマニマしてる。


「このオードブル美味いな」

「でしょ?」


テレビのテンポのいい曲。

紅白の歌手って全部知ってるわけじゃないけど、年末年始っていう感じがする。


「健、もーいっぱいドンペリください」

「酔ってる?」

「……よってないよ?」


健はグラスを軽く押さえて、笑う。


「好きなだけ飲めばいいよ。これ飲んだら次は赤にしようか?」

「お蕎麦食べたい」

「そうだね、で、その後赤ワイン」

「だねー。えへへ」


健がそば用意をしながら会話は続く。

キッチンに立つ姿も素敵。

私のフィアンセ。


「年末年始の休みはいつまでなんだ?」

「4日まで。本当はもっと短いんだけど、今年は土日挟むからね」


部屋の中に出汁の匂いが広がって、肺を満たしていく。

出汁って、こんなに幸せな香りだったのか。


「じゃあさ、ずっと一緒にいようか」

「着替え持ってないよ?」

「着替えはなんとかなる」

「え?」

「ほら、年越しそば」

「健シェフ!」


二人で黙ってズルズルと蕎麦を啜るのは少し面白い。

きっとこれからも、面白いこと二人でしたりするんだろうな。


「お腹いっぱい」

「ほら、赤」

「何?どうしても飲ませたいやつ?」

「うん。イギリスのワインなんだよ」


「美味し」

「ロンドン駐在の先輩から教えてもらって——」


健の低い声で、ワインの蘊蓄を聞いているうちに、目がトロトロとしてきた。

(声もいいんだよね)


「なんか、しあわせ」


健の肩に頭を乗せて甘えてみる。

これは素面だと勇気のいる行為。


健はそのまま私を、受け入れてくれた。


「こういう時間を、二人で続けていくんだよ」

「……うん」


赤ワインは飲み切りで、少し酔ったかもしれない。

健がそっと、ブランケットをかけてくれた。


二人でひとつの時間を過ごす。

(いいな)


音を絞ったテレビからは、MISIAの『Everything』が流れてる。

大好きな曲。


「美也、眠いならベッドに行く?」

「……このまま、ちょっとだけ」


今の2人なら、このくらい甘えても大丈夫だよね?

健が私の頭をそっと撫でてくれた。


(好き過ぎて、どう愛したらいいかわからない)


春になったら、健がロンドンに移動して、少しの間遠距離になるかもしれない。


おしゃべりな二人の、静かなこんな時間。

紅白は紅組が優勝して終わった。


「美也、ゆく年くる年始まるよ?」

「うーん……」


新しい年が始まる。


テレビの中で、どこかの名刹の除夜の鐘が、ゴーンと低く響いた。


「健、初詣行こう!」

「え、今?」

「今!」


健は戸惑ってるけど、狸寝入りでズルをしていた私は、休養も十分。


コートを羽織って、二人で神社を目指す。

外に出ると、吐く息が白くて、一年で一番澄み切った空気が肺を満たした。


「さむ」


鼻の頭まで赤くなりそうな私たちを、神社へ続く街灯が、少しだけ優しく導いてくれる。


「混んでるかな」

「たぶんね」


外国人の参拝客もちらほらいて、列は思ったより長い。

やっぱり幸せ。

去年の今頃は、健は何してたんだろう。後で聞いてみなくちゃ。


列は少しずつ進んでいって、並んで、お賽銭を入れた。


チャリン。


二人とも、手を合わせる時間が少し長い。


「どんなお願いしたの?」

「美也と、ずっと一緒にいられますように」

「私も。健、これからよろしくお願いします」


お辞儀をして顔を上げると、

健がなんとも言えない顔で私を見てくる。


「美也、本当に可愛い。やばい」


私が健を大好きなのに、

時々こうして気持ちを伝えてくれる。


「お守り買って帰らない?お揃いのやつ」

「……買う」

「即答じゃん」

「美也とお揃いに、迷う理由がない」


健が私の手を取って、歩いていく。





Happy New Year

お揃いの御守りを手に入れた2人は、マンションに戻って日本酒で乾杯。

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