幕間:修道院のミオ3
ミオが自らの意志で戦うことを選んでから6年の月日が流れた。
「フンフンフン、タンタターン」
鼻歌を歌いながら地下世界の空を舞う少女。
かつて憧れた、あの大きな翼を纏う12歳になったミオがそこにいた。
その少し後ろにはエリザともう一人赤毛の少女が共に滑空している。
ミオ達は敵拠点を制圧する為の実践形式の演習に参加していた。
「あの鼻歌どうにかならないかな?どうにも緊張感が……」
赤毛の少女がエリザに苦笑まじりに呟く。
それを聞いたミオは振り返りざま言い放った。
「アリサ姉?これは私の能力の肝なんだよ?とっても大事なの!」
エリザはアリサを見返してなだめるように苦笑する。
「まあ、しょうがないのよね。あの子復唱しないと調子出ないって言うし」
「”囁く者”かあ……確かに強力なんだけど、ねえ」
2人は変わらず鼻歌を歌うミオを見て顔を見合わせていると、
インカムからエヴァンジェリンの低い声が鳴り響いた。
『いつまでも喋ってると舌噛むよ。そらもうすぐ降下ポイントだ、
気合入れないと撃ち落されるよ!』
ミオ達の視線の先に演習用敵拠点の旗が見える。
その前にはライフルを構えた兵士が数名。
さらにレオを中心としたシグネチャーズが旗を守っている。
「それじゃあ、作戦通り行くよ。
ミオ、いつものように攪乱は任せるね。
レオ達はアリサと私で抑えるから!」
「ラジャー!」
エリザが手短に指令を伝えるとミオが正面から先行し、
エリザとアリサが左右へと旋回する。
射程に近づいてくるミオを狙撃手たちがスコープに捉えた。
《פג : קלה ... לג : ג : L ... לג : ט : R ... כז : יא : 2H》
ミオの脳裏にウィスパーズが至近予測の”予言”を届ける。
(リズムは135、3で左に飛んで9で右に、11で2時の方向に着地)
「タンタン……」
「タン!」
ミオの翼がクイッと宙で左に旋回する。
ライフルから放たれた模擬弾が虚しく空を裂く。
「クソ、相変わらず器用に避ける!」
すぐに反応した別の狙撃手が旋回したミオを狙い打つ。
「チャ、チャ、チャ……」
狙撃手の指がトリガーを引き絞った瞬間。
すでにそこにミオの姿はなく右翼に回りこまれていた。
彼女は空中から身を投げると着地し、すぐさま狙撃手へと翻る。
黒いボディースーツから生み出された瞬発力が蹴り足へと伝わる。
一瞬にして距離を詰めたミオ。
「タタタン、っと!」
手にした訓練用ロッドでライフルを1つ2つと弾き飛ばす。
無力化された狙撃手は手を上げて降伏を宣言した。
ミオは満足そうに笑みを浮かべるとエリザ達の方へと走りだす。
「エリザ姉たち、上手くやってるかな?」
丘の上に旗が見える。
その丘を守備するように兵士達が銃口をミオに向けていた。
ミオはリズムを刻みながらさらに狙撃兵を無力化していく。
ミオはドローンを呼び寄せ拠点へと急いだ。
丘の上、青年へと成長したレオとその後ろに少年が2人。
エリザとアリサが向かい合っている。
レオは身の丈を優に超えるロッドを構えている。
「さて、ミオが合流する前に片付けねえと。
あいつが来るとかき回されるからな。
シノン、カノン、いくぞ!」
「了解!」
レオの後方で2人の少年は瓜二つな姿で声を揃える。
レオはロッドを振り回し自身の前で地面に突き立てた。
「ヘリオス・オービット起動!」
レオのロッドの上部が機械音と共に開き、吸気口が露出する。
吸気口から辺りに漂う不思議な粒子が渦上に先端へと集まっていく。
粒子の渦はプラズマを纏い小さな光球を形成していく。
空気が焦がすようにジリジリと鳴り響きながら。
レオの武装がプラズマを先端に纏ったモーニングスターのように変化する。
「イデアメタトロピー・イグニッション」
シノンとカノンが声を揃えると、
彼等の背後に浮遊するドローンが変形しコアを露出する。
二人はおもむろに両手を地面へと貼り付ける。
すると地面に光脈が走り、泥のように”変容”し波打ち始めた。
エリザは長い髪をかき上げると、這うような姿勢で構えた。
「プロパー・タイム・アイソレーション」
エリザのこめかみに張り付いているセンサーから、
ピピという電子音が鳴り、光源が緑からオレンジに切り替わった。
彼女の上空に待機するドローンのコアが唸りを上げ始める。
レオは地面を蹴り上げエリザ目掛けてロッドを振り上げる。
「今日こそぶっ潰す!」
ロッドの先端の光球がさらに膨れ上がった。
エリザはその場を動くことなく静かに呟いた。
「アクセラレーション」
レオがロッドを振りかざす。
放たれたプラズマ球は地面へと叩きつけられ、
爆散し放電と砂煙を辺りに巻き上げた。
砂煙が晴れるとえぐり取られた地面が露わになる。
そこにエリザの姿はなく、彼女がいた場所は陽炎のように赤い。
姿を消したエリザはブオンという鈍い音と共に、
青白く発光しレオの背後に現れる。
「オルソ・インパクト」
発光体が掌に集まる。淡く発光した掌底がレオの背後を穿つ。
ガキン、という固い金属音が鳴り響いた。
レオの背中を覆う、液体が急速に固まったような鉱物がパラパラと砕ける。
「いいぞ、シノン。その調子でガードは任せた!」
「先読みもリウィーブも前より上手くなってる……ちょっと厄介」
エリザが髪をかき上げ呟くとシノンは親指を立てて合図する。
エリザとレオは少し睨み合うと再び攻防を繰り広げ始めた。
「エリザは2人がかりってわけか、舐められたなぁ。
まあ、分かるけどさ」
アリサは手の先に4つの杭のようなものを浮かべそう呟いた。
その足元の少し先はカノンによって、
地面が泥のように”変容”されていて迂闊に飛び込めない。
カノンは両手を地面につけたままアリサの動向を伺っている。
「来ないなら、こっちから行くよ!」
カノンがそう叫ぶと泥の中から複数の槍のような棘が飛び出す。
アリサは迫りくる泥の槍を目視すると前方に手をかざした。
「ケノマ・ドライブ起動!」
4つの杭が青白く光ると前方へと加速し空中で制止した。
4つの杭の四方で囲われた領域に光る粒子が浮遊している。
泥の槍は粒子に触れると突然推力を失ったかのように、その場で制止した。
「ケノマ粒子、運動エネルギーのキャンセル……アリサ姉の杭、嫌い」
カノンはそう言うとさらに制止した槍のすぐ麓から槍を生成する。
「!……連続変換!?いつのまに……そんな技」
アリサはすぐにその場から飛びのいたものの槍の一つが体を掠めた。
「ちっ!」
アリサが手元をクイっと返すと杭が彼女の傍らへと帰還し再び方陣を組む。
泥の槍は次から次へと襲い掛かる。
その都度アリサは手先で方陣を操りながら槍の軌道を停止させる。
彼女はさら後方に一歩跳躍し泥との距離を取った。
「うーん、双子は成長期?思ったより面倒だなぁ」
「もっと出せるから。これで終わり!」
地面の光脈がさらに広がった。
地面から一斉に棘が生え、アリサへと飽和攻撃を開始する。
明らかに方陣では防ぎきれない。しかしアリサは不敵に笑う。
「ふふん。蓄えは十分!いけると思ったら、大間違いなんだよね!
ケノマ・ドライブ・リリース」
アリサがそう叫ぶと方陣の内側の粒子が泥の槍の形を作り、
飽和攻撃を迎え打ち始めた。
お互いの槍が空中ではじき合い激しい打撃音が辺りを包む。
エリザとレオ、シノン達の戦闘も両者一歩も譲らない攻防で、
どちらの優劣もつけがたく互いの戦力は拮抗していた。
「エリザとアリサ相手に中々のもんだ。レオ達もやるようになったね」
神殿の管制室でエヴァンジェリンがその様子をモニターで見つめている。
「けど、そろそろミオが来るよ。さて、どう止める?」




