おまけ シャノン、結婚を申し込まれる。
ある日、魔獣達との戦いの前線にいる私の元に、実家である伯爵家から手紙が届いた。何でも、私に結婚を申し込みたい男性が屋敷にやって来ているのだとか。
この一報を聞いた私は急いで王都へと帰還した。
屋敷に着くと、期待に胸を膨らませてその男性がいるという客室の扉を開けた。
「お久しぶりです! お会いしたかったです、シャノン様!」
彼の姿を見た私は、思わず後ずさりして部屋の外まで下がっていた。そのまま扉を閉めそうになったけど、どうにか思いとどまる。頭を抱えながら彼の名前を呼んだ。
「……トーマス様、出所なさったのですか」
そこにいたのは、かつて私をナイフで刺し殺そうとした元婚約者、侯爵家のトーマス様だった。
彼は少し照れた様子で微笑みを湛える。
「はい、つい先日、城の独房から釈放されました。あの時は本当にすみませんでした。大切な婚約者であるあなたを傷つけようなんて、いいえ、誰かを傷つけようなんて、私はどうかしていました。この拘禁期間中に私は自分の行いを大いに反省したのです」
あの狂気の夜会から二年半が経過していた。
言った通り、確かにトーマス様は以前の彼とは違うように見える(言葉遣いも変わっているし)。
しかし、ナイフを持った当時の姿が脳裏に焼き付いている私は、安易に彼を信用することなどできなかった。
「前にも申し上げた通り、あなたとの結婚だけはもう絶対にないです……」
「そう仰るお気持ちはよく分かります。ですが、私は生まれ変わったのです! 矯正プログラムを受けたことによって!」
トーマス様によるとそれは刑罰の一種で、人格に問題を抱えた犯罪者に実施されるものらしい。その内容は、一日十時間、矯正官から人の道とは何なのかをくどくどと聞かされたり、ひたすら善行について書かれた本を読まされたりするというもの。彼は二年半の間、毎日これを繰り返したのだとか。
説明を終えたトーマス様はキラキラした瞳を私に向けてくる。
「私はもう以前の私ではありません。今はシャノン様にかつての償いをしたいと思っています。この熱い思いが認められてあなたへの接近禁止も解除していただけました。シャノン様、現在戦争に赴かれていると伺いました」
「え、ええ、まあ」
「どうか私の命をお使いください! この身をあなたに捧げたいのです、肉の盾として! ですので私の命が尽きるまでのわずかな間、どうか私と結婚を!」
彼の迫力に私は再び後ずさりしていた。
……以前とはまた違った狂気を感じるわ。むしろ前より怖い。人格の矯正じゃなく、新たに別方向に歪めてしまっただけなのでは?
部屋の外まで後ずさった私はそこで一度深呼吸。
「トーマス様、やっぱりあなただけは絶対にないです」
…………、……戦場に戻ろう。




