シャノン、真相を知る。
私からの抗議の眼差しを受けて、ヴァネッサ先生は窓際まで移動してこちらに背を向ける。やがて過去を振り返るように語りはじめた。
「シャノンお嬢様を騙し騙し鍛えるのも、そろそろ限界だと思っていました。いいでしょう、最初からお話しします」
今より十年前、ヴァネッサ先生は騎士団で若くして出世したものの、日々の激務に追われて疲れ果てていた。どこか静かな所で野菜でも育てつつゆっくりと暮らしたい、そう考えるほどに。
そんな折、町で偶然見かけたのが幼き日の私だった。
先生は一目で私の素質を見抜き、惚れこんだのだという。すぐに騎士団を退職して伯爵家に入りこむと、野菜を育てる代わりに私を育て出したそうな。自らが培った戦闘技術を注ぎこみ、最強の貴族とするために。
「……貴族で最強である意味はあるのですか?」
「あるでしょう、他所の家ともめた時などシャノンお嬢様がお一人出ていけば一発解決ですよ。お嬢様の戦闘力は並の使い手千人相当、すなわち一騎当千であることを私が保証します」
窓際で振り返ったヴァネッサ先生は誇らしげに胸を張った。
まるで丹精込めて作った野菜を自慢するみたいだわ……。よくこんなに好き勝手に育成できたわね。
「お父様やお母様はどうして反対しなかったのでしょう……」
「先ほどの一騎当千の話をしたら、ぜひにも! と言われましたね」
くっ、家ぐるみだったとは。
話を終えたヴァネッサ先生は部屋の出口へと歩いていく。
「ともかくシャノンお嬢様は自信を持ってください。あなたは私の最高傑作です」
「これから戦争に行くような言い方はやめてください……。屋敷に戻られるのですか?」
「いいえ、戻るのは騎士団に、です。充分に休んだのでそろそろ復帰します。いずれどこかの戦場でお会いしましょう、シャノンお嬢様」
「だから、戦争には行きませんって……」
扉を開けて先生はそそくさと退出した。
……発覚したから早々に逃げたわね。
とんでもない家庭教師だったわ。一人前の淑女になるはずが、完全に戦士として育成されていたなんて。
思い返してみれば、これまで他の令嬢方と話が噛み合わないことがしばしばあった。私は全然普通じゃなかったのね……。
「これじゃ結婚相手も見つからないかもしれないわ……」
そう呟くと足元で何か動く気配が。
意識を取り戻したトーマス様が私のドレスにしがみついていた。(ナイフは危険なので先に遠くに蹴っておいた)
「つ、強い君も素敵だ……。僕と、結婚しよう……」
「ごめんなさい、あなただけはもう絶対にないです」
……待って、私ゆえにこんな人を引き寄せたの?
だとしたら、前途多難だわ……。