第9話『王女の宣言、そして月の儀式へ』
月の輝きが城の尖塔を照らす頃、王城の正中広間には王族や重臣たち、そして各貴族の代表者が集まっていた。
「……この場に、第3王女・日和殿が正式な発言権をもって現れることは、前例がない」
厳格な声が響く。語ったのは王家の顧問老、ミルザ公。
しかし――その場に現れたのは、紅と藍のオッドアイを輝かせ、堂々と立つ日和だった。
彼女は、肩から月色のマントを羽織り、黒曜石のように輝くドレスをまとっていた。
「王家の血を継ぐ者、日和。……本日をもって、私の立場を明確にします」
ざわめきが広がる中、日和は杖を高く掲げた。
「この“約束の杖”を受け継ぎし者として、宣言します!」
彼女の声が広間に響きわたる。
「私は、王家にかけられた呪いを――必ず解きます!」
その言葉と共に、杖が淡い月光を放つ。光が天井に届き、古の紋章が浮かび上がる。
「なっ……この紋章、かつての“月姫”の――」
「まさか、本当に選ばれし者が現れたのか……?」
反対者もいた。だが日和は一歩も退かず、朗らかな笑みを浮かべた。
「だからね。私、やるんだよっ!」
「へ? やるって何をだ?」
「“月の儀式”。始めちゃうんだからっ!」
日和の背後で魔法陣が発動し、彼女を中心に優しい風が吹き始めた。
ラオがそっと囁く。
「……日和様。儀式の地へ向かう準備は整っています。ですが、その道中、“第1王女”が待ち構えている可能性も」
「第1王女……お姉様?」
日和の顔に一瞬、緊張が走る。
「血筋も能力も文句なし、王族の中でもっとも完璧とされた存在。だが、“月姫の記憶”には、彼女が――儀式を妨げたとある」
「……そっか。じゃあ、話すしかないよね。お姉ちゃんと。ちゃんと。全部」
日和は杖を握りしめ、頷いた。
「行こう、ラオ。私は逃げない。……誰からも、何からも、もう」
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