第8話『王家の呪いと、解放の始まり』
古びた石扉の先は、まるで時間の流れが停止したかのように静寂だった。
苔むした壁に小さな燭台の炎が揺れ、道を照らしていた。
「この場所は……“始まりの間”と呼ばれています」
ラオの声が、深く響く。
「王家にかけられた呪いの秘密、そして“月姫”の本当の願い――すべてが、ここに眠っているのです」
日和は少しだけ緊張した面持ちで、歩を進めた。
その奥には、一対の石碑と、古びた魔法陣の描かれた床。
そして、その中央には一本の黒い杖が突き立てられていた。
「これは……?」
「“約束の杖”……月姫が最後に遺した、呪いを砕くための鍵です」
ラオが膝をつき、語り始めた。
「数百年前、吸血鬼王家は“永劫の命”と引き換えに、感情と未来を縛られました。
月姫だけがそれに抗い、命を賭して、この杖を作り上げたのです。ですが……使う者は長らく現れなかった」
「つまり……これ、私が使えるってこと?」
日和が杖に手を伸ばそうとした瞬間、杖から黒と金の魔力がほとばしった。
その光が日和の左右の瞳に反射し、赤と青の光が混じり合う。
「うっ……な、何かが入ってくる……!」
その瞬間――日和の脳裏に、過去の映像が流れ込んできた。
――満月の下、血に濡れた王宮。
誰かが叫ぶ。「未来を閉ざすな! 呪いを受け入れるな!」
――月姫が祈る。「この呪いを砕く者よ、私の記憶と想いを託します」
そして、最後に映ったのは、病室で日和の枕元に落ちてきたあの小さな蝙蝠。
「……あなた、だったの?」
日和が小さく呟くと、杖が静かに光を放ち、そのまま――彼女の手に収まった。
「呪いの核に触れましたね」
ラオが低く頷く。
「これより、日和様が“王家の約定を破る者”となります。
しかし、同時にこの国を変える者として、多くの敵をも生むでしょう」
日和は、少しの間黙っていたが……やがて、いつものように笑顔を浮かべた。
「うん、大丈夫!だって――私、バンパイア第3王女だからっ!」
その笑顔に、ラオも思わず微笑んだ。
「ふふ……お覚悟を」