第6話『はじめてのおつかい 〜王都で屋台めぐり!?〜』
「わ〜っ! ここが王都!? すっご〜いっ!」
第三王女でありながら、どこか無邪気な日和の声が通りに響く。
石畳の広場を中心に、色とりどりの布地をかけた屋台がぎっしりと並び、香ばしい匂いや甘い果実の香りが風に乗って流れてくる。
「日和様、あまりお一人で走り回らないように……っ!」
焦った様子で後ろを追うのは、従者のラオ。
しかし日和は彼の声もまるで聞こえていないかのように、目を輝かせて駆けていく。
「わーっ、この串焼きおいしそう〜っ! 一本くださ……あ、でもお財布……王女ってお金いるの!?」
「日和様ぁぁぁ!」
その場にいた店主は一瞬ぽかんとしたが、王女の証である紅いブローチに気づいて慌ててぺこぺこ頭を下げる。
「お、おお王女様!? お、お代などとんでもないことでございます!」
「えっ!? 本当!? わーい! ありがとうございますっ!」
ニコニコ笑顔で串焼きを受け取ると、その場でかぶりつく。
「んん〜! おいしぃぃぃぃ〜〜っ!」
屋台の周囲がぱっと華やいだ。
その姿はどこか光を宿すようで、まるで“呪われたバンパイアの国”とは思えぬ、陽の気配が満ちていた。
「まさか……王都の民が、笑っている……?」
高台から見下ろす、老いた宰相はそう呟いた。
民に畏れられ続けた王族が、“笑顔で町に溶け込んでいる”という奇跡のような光景。
「彼女が、この国の夜を変えるのかもしれんな……」
一方その頃――
日和はすでに三軒目の屋台で、餅菓子と果実のスムージーを両手に持ち、顔じゅう笑顔で満たされていた。
「う〜〜〜ん、バンパイアでも、屋台最高っ!!」
その声に、子どもたちも笑い、通りが和らいでいく。