表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/22

第5話『バンパイアの王と月下の塔』



 


「ねえねえ、ラオさん! あの塔、すっごく高いよ!? てっぺんまで登れるかなっ♪」


 森を抜け、月明かりに照らされた広大な谷間に、一本だけそびえる漆黒の塔があった。


 風に揺れる銀の草原の中央。まるで空を突き刺すように、静かに、凛と、そこに在る。


 ラオが驚きつつ、苦笑した。


 「……あれが“月下の塔”。王家に連なる者しか入れない、聖域です。日和様、貴女には――」


 「入れるねっ! だって私、第三王女なんでしょ!?」


 「……まあ、はい」


 ラオは額を押さえた。 


 日和の笑顔は明るくて、天然で、そして無自覚に王族らしい“貫禄”をまとっている。


 


「でも、なんか……思い出せないんだよね」


 塔を見上げながら、日和はぽつりとつぶやいた。


 「前の世界のことも、あの蝙蝠さんの声も……夢だったみたい」


 


 ふと、風が吹き抜けた。


 日和の藍と紅のオッドアイが、月光を反射する。


 塔の重い扉が、音もなく開いた。


 


 ――塔の最上階。


 石造りの階段を昇った先、月光の差し込む静かな空間に、ひとりの男が立っていた。


 銀の髪、血のように赤い瞳。王の衣を纏い、背中には巨大な黒翼。


 彼こそが――バンパイアの王、《アルゼリオ・ノクト》。


 


「来たか、日和。いや……“新しき魂”よ」


 


 日和はピョコッと首を傾げてから――


 「おじさ……いや、違うか。えっと……王様! はじめましてっ!」


 と、元気よくお辞儀をした。


 アルゼリオは目を細め、静かに微笑む。


 「その笑顔……まるで、かつての“光”のようだな」


 


 日和は、訳がわからずニコニコしながらも、何か胸の奥が温かくなるのを感じていた。


 


 ――そして王は告げる。


 


 「お前は“特異なる存在”だ。血を必要とせず、太陽にも屈せず、この世界で生まれ直した“禁忌の魂”」


 「……ゆえに、お前は“選ばれる”。この国を救うか、滅ぼすか、その鍵として」


 


 日和は、きょとんとした表情のまま、手をあげた。


 「えっと……つまり?」


 


 「つまり……」王が目を細めた。


 「お前は、自由に未来を選べるということだ」


 


 日和はしばらく考え込んで――


 


 「よしっ! それなら私、この国の屋台ぜんぶ巡ってから考える!!」


 


 「……は?」


 


 その天然発言に、王の後ろで控えていた老臣たちが盛大にこけた。


 


 ――だが、不思議と。


 その無邪気な宣言は、誰よりもこの闇の国に“光”をもたらす声だった。


 


 





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ