最終話『月姫の継承と、未来の王国へ』
季節は、柔らかな風が花々を撫でる穏やかな月明かりの夜。
王都ミレシアには、静かに祝祭の鐘が響いていた。
王宮の広場には、人々が集まり、灯火を手にして見上げている。
その視線の先――王宮の高塔、月のバルコニーに、ひとりの少女が現れた。
紅と藍の瞳を持ち、やさしく微笑むその姿――
第3王女、“日和”。
そして、今宵――
「――この日をもって、“月姫の継承”を完了しました」
ラオの静かな声が広場に響くと、人々の間に安堵と歓喜のどよめきが広がる。
「私……いろんなことがあった。怖くて泣いたことも、迷って逃げたこともあったよ」
「でもね。全部、大切な出会いで、想いで、記憶だったんだ」
日和はゆっくりと手を広げる。
「私は、ここにいます。皆の笑顔が見たいから。生きて、歩いて、迷いながらでも……」
「この国を照らす、月の光になりたい!」
その言葉に――民の灯火が、一斉に天へ掲げられた。
夜空には満月が浮かび、まるでそれに応えるように、やさしい風が吹く。
◆ ◆ ◆
その後――
月姫として、日和は国の象徴となりながらも、
肩肘張らず、誰よりも人の中にいた。
子どもたちと遊び、屋台で迷子になり、パンを買いすぎて怒られ――
時にぽんこつで、でも誰よりも真っ直ぐだった。
そして、月の書庫には今も、彼女の言葉が刻まれている。
> 「ねえ、君がこれを読んでるなら――きっと君も迷ってるんだと思うの。
でもね、大丈夫。大丈夫だよ。
泣いても、転んでも、ちゃんと立てるから。
君の空に、ちゃんと月があるなら。ね?」
最後の頁には、こう記されていた。
> 「ここに記す。“第十三代 月姫・日和”
その生は、命を紡ぐ風となり、永遠にこの地を照らすだろう」
そして、ある夜――
月の石碑の前に、一人の少女が立っていた。
彼女はオッドアイを持ち、微笑んでこう呟いた。
「ねえ、ひいばあちゃん。わたし、王女になれるかな?」
空に浮かぶ月が、そっとその背中を照らしていた。
――月の伝説は、終わらない。
それは、次の物語のはじまりなのだから。
― Fin ―