第19話『終焉の祭壇と、再会の儀式』
夜が深まり、月が王都の空にまばゆく昇る頃――
日和たちは、王宮のさらに奥、古の記憶にすら残らぬ《封印の間》へと辿り着いていた。
ラオは静かに言う。
「ここが、“月の契り”が交わされた場所……歴代の月姫が、命を繋いできた最果てです」
日和は頷く。
胸の内に浮かぶのは、あの書に映ったネレイアの姿。
やさしく微笑んだ、かつての姉のような存在。
「ここで……終わらせる。そして、もう一度、始めるために――」
重々しい石扉が音を立てて開き、そこには月の祭壇と呼ばれる、円形の遺跡が広がっていた。
中央にそびえる光の柱、
その前に、黒いドレスを纏ったネレイアが、静かに立っていた。
「……日和。来てくれたのね」
日和の心が、ざわりと揺れる。
目の前のネレイアは、確かにあの日の優しさを纏っていた。
けれど、同時にどこか遠く、儚げだった。
「お姉ちゃん……本当は、ずっと待ってたんだよね」
ネレイアはゆっくりと歩み寄る。
「……ええ。だけど私は、月の記憶に囚われたまま、あなたを迎えることも拒むこともできなかった」
「私たちは、何度も出会い、別れてきた。けれど――今回だけは、違う」
日和は一歩踏み出す。
「ううん、“違くする”んだよ。だって、私、もう逃げないもん」
ネレイアの目が、やさしく細められた。
「日和……“月の契り”を交わす覚悟は、ある?」
「あるよ。もう一度、家族になるために。みんなの笑顔を、守るために!」
その瞬間――
月の光が二人を包み込む。
足元に浮かび上がる古代文字と、幾何学の紋章。
空には静かに月が満ち、二人の髪とドレスを風が撫でていく。
「では、誓いましょう――“月姫の魂”として。あなたと、私と、これまで出会ったすべての姫たちのために」
日和が強く頷いた。
「ここに、誓います!」
月の柱が一閃、天へと貫かれ、遺跡が震える。
その中で、ネレイアの姿が薄れ――そして、日和の胸元に、淡く宿る。
「……ありがとう。日和。ようやく、やっと……あなたに、笑ってもらえた」
「うん。だから――おかえり。ネレイアお姉ちゃん」
その言葉に包まれるように、儀式は静かに幕を閉じた。
そして――
空を見上げた日和の瞳に映る月は、
どこまでも優しく、温かく、輝いていた。