表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/22

第15話『影の王女、再臨』



王宮の広間に重く響く警鐘が、祝福の空気を裂いた。

即位式の真っただ中、天井に浮かぶ王家の紋章が、じわりと血のように赤く染まっていく。


 


「これは……封印の間が、破られた?」


ラオの表情が険しくなる。魔力の揺らぎは、尋常ではない。

 


「誰かが、封印を解いたのです!」


近衛兵たちが動き始めるが、それよりも早く――

冷たい風と共に、闇の衣をまとった一人の女が、玉座の間の扉を破って姿を現した。


 


「久しいな、“日和”」


 


女の名は――ネレイア。

王家に記録すら残されていない、“影の王女”。


 


「ネレイア様……あなたは、禁忌の血筋の……!」


ラオが即座に日和を庇うように立ちふさがる。


 


「……誰?」


日和は、戸惑いながらも一歩、前へ進んだ。


 


ネレイアは静かに微笑み、そして語る。


 


「我は、正統なる月姫の血を継ぎし者。

――だが王家はその存在を恐れ、私を封印した。

貴様のような“偽りの命”に王冠が渡るとは、滑稽だな」


 


「偽りなんかじゃない……!」


日和が、強い声で言い返す。


 


「私は、確かにここにいる。ちゃんと、生きてる!」


 


ネレイアの目が揺れる。


 


「……生きてる、か。……そうか、まだ“そう”言えるんだな」


 


次の瞬間、ネレイアの足元に黒炎が舞い、影から何かが這い出る。

召喚された影の獣が、広間を包囲する。


 


「さあ、選べ。退くか、燃えるか」


 


兵たちが動こうとしたそのとき――


 


「やめなさい!」


日和の声が響き渡った。


 


「戦うつもりなんてないよ! わたし、お姉ちゃんと話したいだけなのに!」


 


ネレイアの動きが止まる。

兵たちも、剣を抜いたまま凍りつく。


 


「お姉ちゃん……?」


 


「うん。だって、あなた……わたしと同じ“王女”なんでしょう?」


 


 


ラオが驚きに目を見開いた。


 


「日和様……」


 


ネレイアは、しばらく無言だった。だが――

その目に、ほんの一瞬、痛みが宿ったように見えた。


 


「貴様は、ほんとうに……愚かで、優しい」


 


その言葉とともに、召喚された影の獣たちは静かに消えた。


 


「今は退く。だが次に会うとき、貴様が“真に選ばれし者”かどうか、試させてもらおう」


 


そう告げると、ネレイアは黒き霧に姿を溶かし、広間から消えていった。


 


 


――そして静寂が戻る中、日和はそっと呟いた。


 


「ありがとう。……ちゃんと、名前で呼んでくれて」


 


ラオがそっと、日和の背中に手を添える。


 


「姫様……今の貴女の言葉が、どれだけの人を救ったか。忘れないでください」


 


日和は静かに頷いた。


 


「……うん。ネレイアお姉ちゃんと、もう一度、ちゃんと話す。約束だもん」


 


月の光が差し込み、広間に希望のような温かさを残していた。


 





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ