第14話『王宮の陰と、微笑みの姫』
即位式は、華やかに幕を開けた。
空には光の魔法で編まれた銀の月が浮かび、広場には王国中の民たちが集い、姫の登場を待っていた。
だが――その裏で、静かに忍び寄る影があった。
王宮地下、封印の間。
そこに佇むのは、黒衣の女。
「……目覚めの時は近い。偽りの姫に、真の月は微笑まぬ」
その瞳は真紅に染まり、唇には古き契約の呪句が刻まれていた。
「第3王女、日和……その“命火”、奪わせてもらう」
その頃――
日和は、玉座の間の奥、即位の舞台に立っていた。
堂々と胸を張り、緊張した面持ちで、壇上に座る。
「さあ、日和様。お言葉を」
ラオがそっと促す。
「う、うん……えーっと……」
ごくり、と唾を飲み込む音が響いたあと――
「……えっとね! 私、バンパイアで、王女で、たぶん一番のポンコツだけど!」
「でも! 生きててよかったって思ってる! だから、みんなの笑顔、守りたいのっ!」
沈黙。
その後、どこからともなく拍手が起き、やがて場内に大きな笑いと歓声が広がった。
「まったく、予想通りというか……」
ラオが小さく笑い、スカートの裾を揺らす。
その瞬間だった。
天井の紋章が淡く赤く染まり、魔力の波動が王宮全体に走る。
「なっ……この波長、封印の間から……!?」
警鐘が鳴り響く。
日和ははっと顔を上げた。
「……誰かが来る」
(分かる……胸の奥が、冷たくなる……)
ラオが剣を抜き、日和の前へ出る。
「姫様、下がってください」
「ううん。わたし、逃げないよ」
日和はゆっくりと立ち上がる。
「来るなら、来ればいい。……笑顔で迎えてあげるから」
その瞳に宿る光は、確かに“姫”のものだった。
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