第13話『王女、即位式!?とにかく大騒ぎ!』
「――えっ!? 即位式って、そんなすぐ!? しかも、わたしが主役!? えぇぇぇえぇええええっ!!?」
王城・月の間に日和の絶叫が響く。
天井の大理石にまで届く勢いであったが、貴族たち、侍女たちはどこか嬉しそうに微笑んでいた。
「日和様、お衣装の最終調整がございます」
「頭の冠、王家の正装に合わせて新調済みです」
「第一王女様からの花飾りが届いております!」
「王笏は銀月細工にて仕上がっております」
「……あれ? ねぇラオ? わたし、昨日まで“お客さん”だったよね? なんで今、即位する流れになってるの?」
「……日和様。これが、“運命”というものです」
ラオは相変わらずのクールさで淡々と答えるが、その手は、日和の新しいマントの裾を丁寧に整えていた。
「でもぉ~、ほら、政務とか、難しい言葉とか、寝落ちしちゃいそうだし……ええと……スピーチも苦手だし……」
「……ですが、民はすでに“月姫の微笑み”を信じております。貴女の、あの夜の言葉が……多くの心を照らしました」
そう。日和が“やるよ!”と宣言したあの瞬間。
どこか頼りなくも、真っ直ぐで優しいその声に、人々は希望を見たのだ。
(……そっか。わたしが……“月姫”に選ばれた理由、ちょっとだけ、分かったかも)
日和は、ふと手を胸に当てる。
その中に灯った、淡い光と、誰かの願い。
(バンパイアだったあの蝙蝠さん……いや、“前の命の誰か”が残してくれた命火。ちゃんと、生きてるって、思えるよ)
「よーし、分かったっ! やってやろうじゃん、即位式っ!」
その一言に、場の空気が一気に華やぐ。
ラオが静かに、口角をわずかに上げた。
「……ようやく“我らの姫”らしいお言葉を」
「っていうかさー! 即位式のあとって、宴あるんでしょ? たい焼きある? タルトある? 王女の特権で、いっぱい食べていい?」
「……やはり、王政の道は険しきものとなるでしょう」
だがその笑顔には、どこか確かな力が宿っていた。
それは、選ばれし“月の姫”の証。
夜が明ける。
王国に、光と笑い声が降り注ぎはじめる。