第12話『月姫誕生と、王の選定』
祭壇の光が静かに収まり、王城に集った者たちは、まるで夢から醒めるように静まり返っていた。
日和は、そっと胸元に手を当てる。
そこには、先ほど“月の儀式”で生まれた紋章――“月姫の証”が、淡く温かい光を宿していた。
「……これが、“月姫”の力……?」
儀式の終わりと共に、日和の髪先は淡く銀色を帯び、瞳の紅と藍の輝きもさらに澄んでいた。
重臣たちの間に、さざ波のような動揺が広がる。
「これは……選ばれし者の証……」
「王家の者であって、月姫に選ばれるとは……」
「神託は彼女を“次代の中心”に、と――?」
王位継承を巡って、動揺が走る中、ルシフェリアが一歩前へ出る。
「皆の者。私が、彼女――第3王女・日和を、“王位継承の候補”として推薦する」
「ええっ!? お、お姉ちゃん!?」
「私には、彼女ほど真っ直ぐに“人を想う心”を持った者はいないと、知っている。私の代わりに、この国を託したいと……心から願う」
その言葉に、広間は一瞬にして静寂となる。
だが、やがて――ゆっくりと、拍手が起きた。
最初は少数、だが次第に、堂々たる賛同の意志が城内を包み込んでいく。
「第三王女、日和殿に……敬意を!」
「新しき“月姫”、いや、希望の王女に――!」
日和は目を丸くしながら、そっと呟いた。
「えええ……!? ま、待って、わたし、王様になるって、言ってないよぉ~!?」
そんな叫びが、王城に響いた瞬間――
天上の月は、柔らかく、どこか楽しそうに微笑んでいるようだった。