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第九話 ルカルド視点

今回は、ギルマス視点です!

俺の名前はルカルド。


帝国本部の、冒険者ギルドマスターだ。


ギルマスという仕事は、忙しい。


冒険者ギルドは貴族とも繋がりがあるので、定期的に情報交換のためにやり取りをする必要がある。


貴族と会う度に、俺は毎回畏まった服装や振る舞いをしなきゃいけない。


さらに、ギルドは大きな影響力を持つとはいえ、俺は元々平民だ。


生まれながらの人畜無害顔も、それに拍車をかけている。


舐められることも多いから、どうにかして対等に、いや、こちらが有利になる様な交渉を行う為には苦労が多いのだ。


更に、冒険者が足りていない他国への人材派遣や冒険者達が起こした不祥事、アイコンタクトを取ることが非常に困難な自己中すぎる高ランク冒険者との交流(何気にこれが一番面倒くさい)…などなど。



毎日過労で死にそうになりながら、かれこれ十年近くこの仕事を続けている。


勿論、こんな仕事すぐに辞めてやりたいと思ったことなんて何百回とある。


だが、その度にサラや昔のパーティーメンバーの声が頭の中で響き渡り、最後の一歩が踏み出せずに今日まで歩いて来た。



…あの頃、身分に縛られずありのままの自分をでいられたのは、これ以上ない程楽しかったなぁ、と思う。




始まりは、一人の少女。


彼女は、“サラ”と名乗り、初級ランクであるはずだというのに、高ランクの冒険者達が討伐する様な危険度の高い魔物を余裕でどんどん倒していく。



その光景に、誰もが目を疑った。


自分より体格が二回り程小さく、華奢な少女が強い魔物を倒しているのを見て、素直に尊敬する者もいれば、嫉妬する者や、彼女の美貌に魅了される者、そして…あんな弱そうな少女に出来るのだから、自分もあれぐらいの強さの魔物を倒せるのではないかと勘違いする者も、いた。




俺はその時、サラ達とではなく何となくで知り合って気づいたら行動を共にしていた別のパーティーメンバーとつるんでいた。



俺の仲間は、先程彼女を知った反応の中で最も愚かな、勘違いする道を選んでしまった。


俺は流石に止めようとしたものの、そのパーティーの中では余り発言権がなかったため、聞き流されてしまった。



そして、俺たちは今まで挑戦した事のない、何ランクも上の依頼を受けてしまった。


それも、魔物の中で最上級とされる、ドラゴンの討伐。



嫌な予感しかしなかった。


だが、仲間はそんな俺を鼻で笑い、意気揚々とドラゴンの巣に入って行く。


そして一人、声を上げた。



「お、これ、ドラゴンの卵じゃね?!」


その指が示す先には、確かに大きなドラゴンの卵がある。


「マジか!それ、高く売れるらしいぞ!持って帰ろうぜ!」


もう一人の仲間が、興奮した様にそう言って卵を抱えようとする。





その瞬間、耳を貫く様な大きな咆哮が聞こえた。


俺たちが通って来た方に、いつの間にか巨大なドラゴンの顔があった。


子供に手を出されかけたからか、ドラゴンはすぐさま俺たちを殺そうとブレスを放つ。


「グルォォォォォォッ!!!」


「う、うわぁぁぁっ!ど、ドラゴンだぁっ!!!」


「に、逃げろぉっ!!」



仲間は今更、此処が危険だと認識したようだ。




だが、遅い。先程まで警戒心を抱かず、丸腰だった彼らは武器を出す事すら許されず、ドラゴンの餌食となった。


俺はそれを少し離れた所で見ながら、剣を前に構える。


偶々仲間から少し距離を取っていた事が幸いしたが、目の前で仲間が喰われるのを目にするのにはキツイものがあった。




人は、呆気なく死ぬ。そんな事は分かっていたはずなのに、いざそうなると怖くて怖くて堪らない。


吐き気がしてくる。


でも、この状況から生き延びるためには、戦うしかない。


少しの油断も命取りとなるので、俺は指先まで神経を集中させ、呼吸を整える。




「…さぁ、来い!」



ドラゴンは、それに応えるように攻撃を開始する。


一つ一つ、丁寧に。剣術を学ぶ上での基本中の基本だ。


攻撃を見極め、最小限の被害で済ませるように、最善の行動をとる。


がむしゃらに努力していた昔の自分が、今の俺を生かしてくれている。


ドラゴンの攻撃に、対応する事が出来る。



生き延びる。その希望を掲げ、ひたすら剣を振った。





…だが、現実はそう思うようにはいかなくて。


段々体力が無くなり、ミスが増え、切り傷が増えていく。


振り落ちてくるドラゴンの腕を避けようとしたのに、石に躓いて、ドシャっと身体が地面に投げ出される。



あちこちから血が流れていて、視界もぼんやりしている。


身体も鉛のように重くて、動かせない。




…あぁ、こんな事になるなら、どんな手を使ってでもあいつらを止めればよかった。


あの時止めきれなかったのには、俺にもきっとどうにかなるだろうという甘い考えがあったからだ。



我ながら、愚か過ぎて笑けてくる。


大きな影が俺の上にかかり、あぁ、もう終わりかと死を覚悟したそのとき。




「あら、まだ生き残っていたのね。案外、貴方しぶといじゃない。あのパーティー《馬鹿の集まり》のメンバーにしては。」


凛とした少女の声が聞こえ、ふっと姿が消えたと思ったら、彼女は既にドラゴンの首を斬り落としていた。



「…凄い…」



その白銀の髪をはためかせ、鮮やかに魔物を討伐する様は正しく白銀姫とも云われるほど、確かに美しい。


優雅に舞っている様に動いている。




だが、彼女…サラへ飛び散った大量の返り血が、彼女の成した事を思い起こさせる。


強すぎる。これはもう異次元の域だろ。そう感じた。




これほどの者と、俺たちは同等だと思っていたというのか。


今更だが、物凄く頭が弱いんじゃないか?



疲弊した脳で、ぼんやり考える。




すると、ドラゴンを倒した少女…サラが、此方へ歩いて来て言った。


「大丈夫かしら?」


「………っ」


興奮が冷め痛みが増してきたので、応える事が出来ない。


すると、彼女はポケットから何かをゴソゴソと取り出す。


…何なんだろうあれは?


「ちょっと痛いけど我慢して頂戴な。」


一瞬「何を?」と思った。だが、その問いは直ぐに解消される事になる。


「っ?!痛ぇっ…ぐぅっ!」


液体が俺の身体に降り注がれ、激痛で地面を転げ回る。


ポーションだ。それも、かなり強力な効用の。


ポーションは、低級、中級、上級に分かれている。


怪我の大きさによっては俺たち平民が買える低級の物では治癒しきれない。


例えば、今の俺みたいに肉がえぐれる怪我なんかは。


だが、起き上がって自分の身体を確認すると、完治している。


思わず、目を大きく見張る。


肉を無理やり修復するので、滅茶苦茶痛かったが、サラには感謝しかない。





「有り難う、えっと…」


気軽にサラと呼んで良いものかと迷っていると、そんな俺の声に被せる様に彼女は言った。


「サラでいいわ。」


「…改めて、有り難う、サラ。本当に助かった。なんてお礼をすれば良いか…」


そう言ったことを、直ぐに後悔した。



何故なら、サラは悪戯をする子供のような顔を浮かべていたからだ。




「だったら、わたくしとパーティーを組んでくれないかしら?あのドラゴン、わたくし一人じゃ運びきれないもの。わたくし、荷物運び係が欲しかったのよねぇ。」



これが、俺とサラの出会いだった。


そしてその後、いつの間にか当時第四皇子で現皇帝のウィリアムと、現在最高ランク冒険者のグランがメンバーに加わり、何故か俺がリーダーとしてこのパーティーを引っ張る事になるのだが、それはまた別の話。


取り敢えず俺は、これからくる面倒くさい仕事を片付けなきゃなんないんだ。




「ギルドマスター!帝都で、土竜が発生した様です!至急、応援を!」



…ほら、こんな風に毎日事件は起こるのだから。


「今行く!」


俺はそう言い、愛剣を持って部屋を飛び出した。

アイティアのお母さんも、中々に濃いキャラです。

またいずれサリエラについては詳しく書くと思います。


ブクマと高評価、どうかよろしくお願いします!

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