第七話
新キャラ登場です!
他人の口から久しぶりに母様の名前を聞いて、わたくしは驚いた。
母様は名前こそ有名だったものの、実際交流していた人は限られていたから、わたくしは他の人から見た母様を一切知らない。
…ちょっと、いや、かなり知りたい。
「ルカルドは、白銀姫と仲が良かったのか?」
「あぁ。しょっちゅうこき使われたな。自分勝手な奴だったが、実力は確かだった。皇后とは思えない破天荒さだった……なんだ、アーズもファンだったのか?」
「へ?いや、あ…そ、そうだ。」
そうじゃ無いと言いかけたが、よくよく考えたらファンでも無いのに気にかけるなんて怪しい奴にしか見えないに決まっている。
咄嗟にファンだと言ったが、少しつっかえてしまった。
が、ルカルドは特に気に留めた様子もなく、「まぁ、気が向いたらサラについて話してやるよ。」といい、帰っていった。
すぐに秘書らしき人がやってきて、退室を促される。
…また、母様の話聞きたいなぁ。
懐かしい思いに浸りながら、わたくしは本部ギルドを後にした。
夕暮れの道をトボトボ歩いていく。
今日は報酬が手に入ったから、久しぶりに温かい食事にありつけるかもしれない。と、わたくしは凄くワクワクしている。
母様と今まで側に仕えてくれていた侍女が亡くなってから、わたくしは食事すら運ばれていない。
引き継ぎが上手くいかなかったのか、わたくしの侍女は一人として付けられていない。
というよりかは、わたくしの存在が普通に忘れられている気がする。
幾ら皇后の子とはいえ、わたくしは女。
同じく亡くなった第一皇妃の子で、第一皇子のオルヴィーンの方が男なので、簡単に婿には出されないと予想したらしい。
帝国は他国と比べ男尊女卑がマシで、皇位継承権も男女平等となってはいるが、どうしても男と比べると女の方が地位が安定しない。
だから、こういう状態になった訳だ。
まぁ、それも仕方の無いことだと割り切っている。
実際、父様や兄弟には母様が亡くなってから一度も会っていないから、ガチで忘れられているんじゃないかとわたくしは割と本気で思っているしね。
さて、皇城に戻ろうと言うところで、再び事件が発生したようだ。
周りがガヤガヤとしていて騒がしい。
…今日は忙しいなぁ。あらゆるトラブルに出くわすじゃないか。
どれだけ運が悪いんだろう。
「待ちなさい、この泥棒!」
と叫びながら走る女性と、それに追いつかれまいと上等そうな鞄を抱えながら足を動かすボロボロの子供。
恐らく、スリをしたのだろう。丁度こちらに向かってくる。
とりあえず、その子供の手からサッと鞄を奪い、走ってきた女性に渡す。
「取り返しておいた。これは貴方の物で合っているか?」
「ええ、私の物よ!あの子供、よくも私から奪ったわね、許さないわ!」
女性は、急に持っていたはずの物が無くなっていて驚き、立ち尽くしている子供に殴りかかろうとする。随分と、血気盛んなようだ。
「待て。あの子供、私がお灸を据えても良いだろうか。二度とスリをやらない様にするから。」
「そうは言っても、きっとまたあの子は奪とると思うわよ。そんな簡単に矯正されるわけないじゃ無い。」
…確かにそうだ。子供の身なりはどう考えても貧乏そのもの。生きる為なら、スリくらい簡単にやってのけるだろう。でも。
「だが、頼む。この通りだ。」
わたくしはそう言って頭を下げる。
「…まぁ、貴方はさっき助けてくれたから、免じてあげるわ。」
流石にここまでされて、やり返す気にはならなかったのだろう。
許しをもらう事ができた。
「その代わり、しっかりしばいときなさいよ!」
「感謝する。では。」
そう言って、わたくしは少し強引に子供を掴み、側の路地へと入り込んだ。
そして、話しかける。
「お前、なぜスリをしたんだ?」
理由くらい考えなくても分かる。でも、敢えて聞いてみた。
わたくしが、きちんと国の現状を知る為だ。
貧困に苦しむ民が居ると知っていても、実際に見るのとでは話が違う。
それに、本人に直接聞いた方が改善すべき点も詳しく分かるだろうから。
聞くと、概ね予想通りの答えが返ってきた。
子供の名前はエリス。お察しの通り、女の子だ。
ただ、そうとは思えないほど神は荒れ、肌も黒ずんでいて、ガリガリの体型をしていて、気付けなかった。
エリスは、ポツリポツリと話し出した。
数年前まで彼女はごく一般の庶民だったらしい。
普通なりに幸せだったが、ある日突然稼ぎ頭だった父が病気で亡くなり、母までもが立て続けに亡くなったんだとか。
一人になった彼女は当然、住んでいた家を追い出され孤児院も人がいっぱいだからと入れてもらえず、路頭を彷徨っていたらしい。
数年間、さっきの様にスリを繰り返し、スったものを売ったりなどして何とか生き延びていたようだ。
他にもこういった子供は非常に多いらしい。
話を聴けば聴くほど、痛ましさが増す。
わたくしは、そういう風なことになったのは、今世でも前世でも無かったから。
一体、どれだけ苦しんだんだろう。想像もつかない。
…だけど、わたくしが頭を使うのはそこじゃ無い。皇女という立場だからこそ、どうしたら解決するか、頭を 悩ませないと。
エリスから聞いてみる限り、これはかなり深刻な問題な気がする。一体、どうしたものか…
ウンウンと唸っていると、ちょいちょいっと服を引っ張られた。
「あの…」
「何だ、言いたいことでもあるのか?」
「その…今更なんだけど、貴方、もしかして皇女様?」
時が、止まった。
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